QRコードで当日の受付をしたい、と考える理由はだいたい同じです。受付の列を短くしたい、名前を名簿から探す時間を消したい、人手を減らしたい。この見立て自体は正しく、コードをかざしてもらう方式にすると、本人を特定する工程は実際に短くなります。
ただし、受付という仕事の全体が短くなるかというと、そうはなりません。当日つまずくのは、コードを読み取る瞬間ではないからです。コードを出せない人が来たとき、会場の電波が細いとき、申し込んでいない人がそのまま受付に立ったとき、この3つで列は止まります。どれも例外的な出来事ではなく、ある程度の人数を集めれば必ず起きます。受付を担当している人からよく聞くのも、機械が読めなかった話ではなく、読めなかった人をどこに逃がすか決めていなかった話のほうです。
この記事では、QRコードでの受付を紙の名簿と併走させる前提で組み立てます。読み取れない人が一定数出ること、電波が届かない会場があること、当日申し込みが無くならないことを、例外ではなく前提として設計に織り込みます。受付をひとりで回している人が、いまの手順のどこが詰まるのかを見極めて、次に何を決めればよいかまで持ち帰れるところまで書きます。
QRコードでの受付が広がった背景と、いま詰まっている場所
受付でコードを読み取る方式は、ここ数年で一気に一般的になりました。背景はいくつか重なっています。スマートフォンの標準カメラがコードの読み取りに対応し、参加者側に専用アプリを入れてもらう必要が無くなったこと。コード決済が日常になり、画面をかざす動作そのものに説明が要らなくなったこと。非接触での対応が求められた時期に、紙の受付票の受け渡しを減らす動きが広がったこと。そして、読み取る側の機材が専用のハンディ端末から手持ちのスマートフォンやタブレットに置き換わり、初期費用がほぼ不要になったことです。
その結果、規模の大小を問わずコード受付が使われるようになりました。展示会や説明会のような数百人規模の催しだけでなく、地域の講座、学校の保護者向け説明会、社内の研修、施設の内覧、自治体の相談会まで広がっています。受付側の狙いは共通していて、印刷物を減らすことと、受付に立つ人数を減らすことの2つです。
一方で、期待したほど楽にならなかったという声も同じくらい聞きます。原因は道具の性能ではありません。設計の重心が「読み取ること」に寄りすぎて、読み取れなかったときの手順が決まっていないことにあります。受付は、うまくいく人を速く通す設計だけでは回りません。うまくいかない人をどこに逃がすかを決めておくことが、列の長さを決めます。
「QRコード」という呼び方について
本題に入る前に、呼び方について一般的な注記を置いておきます。「QRコード」は株式会社デンソーウェーブの登録商標として知られています。案内文や告知物で表記を使う場合、表記の方法や注記の要否については権利者が公開している情報を確認するのが確実です。この記事では読者にとって分かりやすい一般的な呼称として使っていますが、法的な取り扱いを断定するものではありません。社外に配る印刷物や広告に載せる際に迷ったときは、所管の窓口や専門家に確かめてください。
実務上は、案内文の中で「二次元コード」と書き換えている団体もあります。参加者に伝わることが最優先なので、伝わり方が落ちるなら無理に言い換える必要はありませんが、印刷物の版下を作る段階で一度確認しておくと、あとで刷り直しになりません。
受付の所要時間を分解すると、コードが短くするのは1工程だけ
当日の受付でやっていることを分解すると、たいてい次の5つに分かれます。
・参加者が受付に到着して列に並ぶ ・本人が誰かを特定する ・名簿に来場を記録する(消し込み) ・名札、資料、記念品などを渡す ・席や次の動線を案内する
コード読み取りが短くするのは、このうち2つ目だけです。紙の名簿から名前を探す方式だと、五十音順に並んでいても10秒前後、名前の読みが分かりにくい場合や同姓の人がいる場合はもっとかかります。コードなら、かざして応答が返るまで3秒程度に収まります。3つ目の消し込みも、読み取りと同時に記録される仕組みなら一緒に片付きます。
逆に言えば、残りの3工程は何も変わりません。名札を探して渡す、資料の部数を数える、席を案内する。この部分が遅ければ、読み取りをいくら速くしても列は縮みません。ある事務局では、コード受付にしたのに列が短くならず、調べてみたら名札が五十音順で並べられておらず、探すのに時間がかかっていた、という話もあります。受付の時間を測るなら、読み取り時間ではなく、1人が受付台の前を離れるまでの時間で測ってください。
列の長さを決めるのは平均ではなく、詰まった1件
もう1つ、受付の設計でよく見落とされるのが、平均時間では列の長さが予測できないことです。100人のうち95人が3秒で通っても、残りの5人が1人あたり2分かかると、その5人が処理されている間に後ろの列は伸び続けます。しかも詰まるのは開場直後、つまりいちばん人が集中する時間帯です。
だから、コード受付の設計で本当に決めるべきなのは、読み取りの速さではなく、詰まった1件をどこに退避させるかです。受付台の前で立ち止まらせたまま調べ始めると、その1件が全体を止めます。別の場所に移ってもらい、そこで落ち着いて名簿を引く。この逃がし方を最初から用意しておくかどうかで、当日の負荷はまったく変わります。イベントの受付を申し込みの段階から通して設計したい場合は、想定される流れをまとめたイベントの申し込みのページが、申し込みから当日までの並びを確認するのに使えます。
紙の名簿と併走させるのが前提になる3つの理由
コード受付を「紙をやめるための方法」と考えると、当日必ず苦しくなります。正しくは、コードは速い経路であって、唯一の経路ではありません。紙の名簿は保険ではなく、同じ受付の一部として最初から動線に組み込みます。理由は3つあります。
読み取れない人は必ず出る
コードを提示できない、あるいは読み取れない人は、どの現場でも一定数出ます。理由は多岐にわたります。
・案内メールが迷惑メールに振り分けられていて届いていない ・申し込み後に機種変更して、メールを移していない ・画面ロックの解除に手間取る、パスコードを忘れている ・画面の輝度が下がっていて読み取れない ・保護フィルムの反射やひび割れで読み取り精度が落ちる ・バッテリーが切れている ・印刷して持ってくるつもりで、印刷を忘れた ・申し込んだ人と来場した人が違う(代理出席) ・法人で1名がまとめて申し込み、当日来る人にコードが共有されていない ・スマートフォンを持っていない、操作に慣れていない
このうち、事務局側の努力で減らせるのは前半だけです。届いていない、機種変更した、印刷を忘れたあたりは、案内の出し方で多少は改善します。しかし代理出席や一括申し込みは、参加者側の事情なのでこちらでは制御できません。
計画上は、事前申し込み者の5%程度がコードを出せずに来ると見込んでおくと、人の配置が崩れにくくなります。参加者の年齢層が高い催しや、法人からの一括申し込みが多い催しでは、この割合はもっと上がります。200人規模なら10人前後が別レーンに流れてくる計算になり、この人数を1人で受けるのか2人で受けるのかは、事前に決めておく必要があります。
電波が届かない会場がある
コード受付の多くは、読み取った内容をその場でサーバーに送り、名簿と照合して結果を返します。つまり回線が要ります。ところが会場側の条件は、事前に思っているより悪いことが珍しくありません。
地下の多目的ホール、鉄骨と分厚いコンクリートの体育館、山あいの研修施設、古い公民館。こうした場所ではモバイル回線が細くなります。さらに厄介なのは、普段は通じるのに当日だけ通じなくなる現象です。300人が同じ場所に集まると、周囲の基地局が混み合い、下見のときには問題なかった場所で読み取りが数秒待たされるようになります。会場が用意している無線LANを使う場合も、来場者に開放している回線と受付用の回線が同じなら、同じ理由で遅くなります。
対策は2つに分かれます。1つは回線を二重化すること。会場の有線または無線に加えて、モバイル回線を別の通信会社で1本用意しておけば、片方が詰まったときに切り替えられます。もう1つは、そもそもオフラインでも受付を止めない手順を用意することです。後者については後の節で詳しく書きますが、いずれにせよ紙の名簿は最後の砦になります。電源も回線も要らず、複数人が同時に見られる媒体は紙しかありません。
当日申し込みと変更は無くならない
事前申し込み制にしていても、当日その場で参加を申し出る人は出ます。誘われて一緒に来た人、社内で担当が急に変わった人、申し込んだつもりで送信が完了していなかった人。会場に足を運んだ人を門前払いするのは、よほどの事情が無い限り現実的ではありません。
この人たちには、そもそもコードがありません。つまり、コードを持たない人を受け付ける手順は、どのみち必要です。当日申し込みを受ける以上、名簿に追記する経路が要り、その追記が事前申し込み分と同じ名簿に載らないと、終わったあとに人数が合わなくなります。ここを別の紙、別のファイルで受けてしまうと、当日夜の集計と翌日の連絡が二度手間になります。
同伴者の増減も同じです。2名で申し込んだ人が3名で来る、逆に1名減る。この変更は受付でしか捕まえられません。コードには申し込み時点の情報しか入っていないので、その場で人数を直せる手段が要ります。
名簿を1つにする設計
併走させると決めたら、次に決めるのは名簿の持ち方です。ここが受付の設計でいちばん重要で、ここを外すと当日は動いても翌日から混乱します。
入口は複数でよいが、名簿は1つにする
受付の入口は、コードを読み取る経路、名前で探す経路、当日申し込みの経路の3つになります。入口が3つあること自体は問題ありません。問題は、その3つが別々の記録に落ちることです。
コードの読み取り結果は端末に、名前で探した人は紙の名簿に手書きで、当日申し込みは別の用紙に。この状態で終わると、当日夜に3つを突き合わせる作業が発生します。200人規模でこれをやると、慣れた人でも1時間では終わりません。しかも突合の途中で、紙の名簿に丸が付いているのに端末側にも記録がある人が出てきて、二重に数えたのか本当に2回来たのか判断できなくなります。
正しい形は、記録の置き場所を1つに決めて、3つの入口すべてがそこに集まることです。コードの読み取りも、紙で見つけた人の消し込みも、当日申し込みの追加も、最終的に同じ一覧の同じ行に書き込まれる。紙の名簿は「探すための道具」であって、「記録するための道具」ではないと割り切ります。紙に丸を付けたら、必ずそのあとで一覧側にも反映する。この一手間を省くと、あとで必ず倍返しになります。
一覧の側に来場の有無を書く列があるか、受付の担当者が複数人で同時に書き込めるかは、道具選びの実務的な分かれ目になります。送信されたあとに状態を書き込めるかどうかを機能単位で確かめたいときは、できることのページで、受付から対応までのどこが用意されているのかを確認できます。
名簿に載せる列を決める
当日使う名簿に載せる列は、多すぎても少なすぎても現場で困ります。実務で必要になるのは、おおむね次の項目です。
・受付番号(並べ替えと突合に使う短い番号) ・氏名(フリガナを必ず併記する) ・所属や団体名(同姓対策として効く) ・申し込み人数(同伴者を含む合計) ・区分(一般、関係者、登壇者、報道など、対応が変わる分類) ・来場の有無を書く欄 ・当日変更を書き込むための空欄
フリガナを外してはいけません。名前で探す経路は、五十音順に並べた紙を引くのが基本で、そのためには読みが要ります。漢字だけの名簿は、読みが分かれる姓が出た瞬間に探せなくなります。
区分の列も軽視されがちですが、当日いちばん効きます。登壇者や関係者は別の入口から入れる、報道関係者は別の受付に案内する、といった判断が名簿を見た瞬間にできるかどうかで、対応する側の迷いが減ります。空欄も1列は必ず作ってください。人数が変わった、名刺を預かった、次回の案内を希望と言われた、といったその場の情報は必ず発生します。書く場所が無いと付箋に書かれ、付箋は無くなります。
突合のキーになる受付番号の決め方
コード側の情報と紙の名簿を突き合わせるには、共通の鍵が要ります。氏名を鍵にすると同姓同名で破綻し、メールアドレスを鍵にすると口頭で確認しづらく、紙の上でも長くて追いにくい。だから短い受付番号を1件ごとに振ります。
番号の付け方の目安は3つです。1つ目は、桁数を揃えること。3桁から4桁に収めると、口頭で伝えるときも紙で探すときも扱いやすくなります。2つ目は、意味を持たせすぎないこと。日付や区分を番号に埋め込むと、当日の変更で番号が変わってしまい、コードと紙がずれます。3つ目は、紛らわしい文字を避けること。数字の0と英字のO、数字の1と英字のIとlは、口頭でも手書きでも取り違えます。数字だけで振るのがいちばん事故が少なくなります。
この番号は、コードの中身にも、案内メールの本文にも、紙の名簿にも同じものを載せます。参加者が「メールは消してしまったが番号は控えてある」と言えるだけで、受付は一段速くなります。案内メールには、コードの画像だけでなく受付番号を文字で書いておいてください。画像が表示されないメール環境は今でもあります。
紙の名簿の刷り方と並び順
紙の名簿は、当日の朝ではなく前日に刷ります。当日の朝に刷ろうとして、印刷機が動かない、紙が無い、担当が遅れる、という事故は起こります。前日に刷り、当日の朝に差分だけを追加で刷るのが安全です。
並び順は2種類を用意します。フリガナの五十音順と、受付番号順です。名前で探すときは五十音順、コードの読み取り結果と突き合わせるときは番号順を使います。両方あると探す時間が半分になります。片方しか刷らないなら、五十音順を選んでください。当日いちばん多いのは名前で探す場面です。
部数は、受付に立つ人数分に予備を1部加えます。1部を回し読みすると、そこで必ず順番待ちが起きます。所属や団体名で申し込みがまとまっている催しでは、団体名順の一覧をもう1種類刷ると当日の対応が速くなります。
そして、紙の名簿には必ず印刷時刻を入れます。何時時点の名簿なのかが分からないと、直前の申し込みが載っているのかどうかを毎回確認することになります。ページ番号と総ページ数も入れてください。落として順番が崩れたときに戻せます。
当日の動線とレーンの決め方
名簿が決まったら、次は人の流れです。ここで決めるのは、レーンの分け方、必要な人数、そして迷った人を吸収する係の3つです。
レーンは「読み取れる人」と「それ以外」で分ける
いちばん効く分け方は、コードを出せる人とそうでない人を、受付の手前で分けることです。列の先頭で「コードはお手元にありますか」と声をかける係を1人置き、出せる人は読み取りレーンへ、出せない人は別レーンへ誘導します。
この声かけを省くと、読み取りレーンの中で「コードが見つからない」人が出るたびに列全体が止まります。手前で分けておけば、読み取りレーンは詰まらず、別レーンは落ち着いて名簿を引けます。分ける係は受付台に座らず、列の横に立ちます。座ると声が届かず、参加者は列に並んだままスマートフォンを探し始めます。
看板も分けます。「事前申し込みの方(コードをお持ちの方)」「事前申し込みの方(コードが見つからない方)」「当日お申し込みの方」の3枚を、離れた位置から読める大きさで出します。看板が無いと、案内係が同じ説明を全員に繰り返すことになり、その説明時間がそのまま列になります。
何人で回すか、1人あたり何秒かを計算する
必要な人数は、開場前後の来場の山で決まります。計算はそれほど難しくありません。
開場から30分の間に来場者の半分が集中する、という見積もりが実務ではよく使われます。200人の催しなら、その30分間に100人が来ます。1人あたりの受付が名札の受け渡しまで含めて15秒かかるとすると、1レーンで30分に処理できるのは120人です。数字の上では1レーンで足りますが、余裕がまったくありません。読み取れない人が5人出た時点で崩れます。
そこで、読み取りレーンを2つ、別レーンを1つ、当日申し込みを1つ、案内係を1人、という配置が現実的な最小構成になります。5人です。人が足りないなら、レーンを増やすのではなく、渡す物を減らします。資料を受付で配らず席に置いておく、名札を事前に机に並べておく、といった工夫で1人あたりの秒数が縮み、必要な人数も減ります。
開場時刻の設定も効きます。開始時刻の30分前ではなく45分前に開けるだけで、山が緩やかになります。案内メールに「受付は45分前から」と書いておけば、早く来る人が分散します。
迷った人を吸収する係を1人置く
受付で最も時間を食うのは、判断が要る案件です。申し込みが見つからない、名前は似ているが所属が違う、代理で来たと言っている、キャンセルしたはずが名簿に残っている。この種の案件を受付台で処理し始めると、その台は数分止まります。
だから、判断できる人を1人、受付台の後ろに立たせます。この人は列を処理しません。困った案件だけを引き取り、脇のテーブルで解決します。権限も先に渡しておきます。名簿に無い人を通してよいのか、通すなら何を確認するのか、通せないなら誰に取り次ぐのか。この3つを事前に決めておけば、その場で上長に確認する時間が消えます。
判断の基準はあらかじめ紙にしておきます。たとえば「名簿に無いが申し込み完了メールを提示できる場合は通す」「メールも無い場合は当日申し込みとして受け、氏名と連絡先を取る」といった形です。基準が無いと、担当者ごとに対応が変わり、あとで苦情の原因になります。
開場前に1度、通しで試す
当日の朝、開場の30分前までに、実際の端末で1件通してみてください。試すのは読み取りだけではありません。読み取ったあとに一覧のどこが変わるのか、複数の端末で同時に読み取ったときに結果が食い違わないか、紙の名簿と番号が一致しているか、この3つを見ます。
テスト用の申し込みを1件、前日までに入れておくと確認が楽になります。当日の朝に本物の参加者で試すと、その人の記録が中途半端に残ります。テスト用の行は、催しが終わったあとに削除するか、集計から外せるように印を付けておきます。
電波が届かない前提で備える
会場の通信環境は、当日になるまで本当のところは分かりません。だから、通じない場合の手順を持っておくのが結局いちばん速い備えになります。
オフラインで何が動き、何が止まるか
コードを読み取る動作そのものは、通信が無くても成立します。カメラでコードを読み、そこに書かれた文字列を取り出すところまでは端末の中で完結するからです。止まるのは、その文字列を名簿と照合して「この人は申し込み済みです」と返す部分です。
つまりオフライン時にできるのは、読み取った番号を端末側に控えることまでです。照合は後回しになります。これを前提にすると、当日の手順は次のようになります。通信が細いと分かった時点で、読み取り結果を待つのをやめ、番号を控えて通す。控えた番号は、紙のリストに書き取るか、端末のメモに順番に打ち込みます。そして紙の名簿の側では、その番号の行に印を付けます。
この方式の弱点は、申し込んでいない人のコードを弾けないことです。有料の催しや、定員が厳格な催しでは、通す前に紙の名簿で番号を確認する運用に切り替えます。紙の名簿を番号順に刷っておく理由がここにあります。番号順の紙があれば、通信が無くても照合はできます。速度は落ちますが、止まりません。
端末、電源、回線の持ち物
持ち物として決めておくものは4つあります。読み取り用の端末を予備を含めて必要数、モバイルバッテリーを端末数分、延長コードと電源タップ、そして紙の名簿と筆記具です。
読み取り用の端末は、当日の朝に充電が満タンであることを確認します。カメラを長時間使うと消耗が速く、2時間の受付でバッテリーが半分以下になることは普通にあります。画面の自動ロックは切っておきます。読み取るたびにロック解除するのは、1回あたりは数秒でも、100人分では無視できません。
回線を二重化する場合、同じ通信会社の回線を2本用意しても意味は薄くなります。基地局が混んでいるなら両方遅くなるからです。可能なら別の会社の回線を1本混ぜます。会場の無線LANを使う場合は、来場者向けの回線とは別のものを借りられないか、事前に会場担当者に確認します。
通信が戻ったあとの突合手順
オフラインで通した分は、通信が戻ったあとに一覧へ反映します。手順は決めておかないと必ず漏れます。
まず、控えた番号を順番に一覧へ入力します。このとき、すでに来場済みになっている番号が出てきたら、それは二重の可能性があるので印を付けて後回しにします。次に、紙の名簿で印が付いているのに一覧に反映されていない行を拾います。最後に、逆方向、つまり一覧では来場済みなのに紙に印が無い行を確認します。この3方向を見れば、抜けと重複はほぼ出尽くします。
作業する人は1人に固定します。複数人で同時に入力すると、同じ番号を2回入れる事故が起きます。入力が終わったら、当日の来場者数を数え、受付で数えた実数と突き合わせます。差が出たら、その差の分だけ原因を追います。差を放置したまま報告数字を出すと、次回の見積もりが狂います。
当日申し込みをどう受けるか
コードを持たない人を受ける経路は、事前に作っておきます。当日その場で考えると、必ず別の紙に書くことになります。
事前申し込みと同じ名簿に載せる
当日申し込みも、最終的には同じ一覧の行として残す。これが原則です。方法は2つあります。1つは、受付の端末から直接その場で登録する方法。もう1つは、当日申し込み用のフォームを用意して、参加者自身のスマートフォンから入力してもらう方法です。
後者は、受付に置いた案内板にコードを掲示し、それを読み取ってもらう形になります。受付側の入力の手間が消え、氏名の聞き取り間違いも減ります。ただし、参加者のスマートフォンと通信環境に依存するので、通じない会場では機能しません。両方を用意し、状況で切り替えるのが現実的です。
紙で受ける場合も、あとで同じ一覧に入れる前提で用紙を作ります。用紙の項目の並びを一覧の列の並びと揃えておくと、入力が速くなります。並びが違うと、入力しながら目が行き来して、そこで間違えます。
その場で書いてもらう項目は3つまでに絞る
当日申し込みの用紙に項目を並べすぎると、受付の前で参加者が書き込み始め、そこが渋滞します。その場で取るのは、氏名、連絡先、区分の3つに絞ります。アンケートや詳しい属性は、席に着いてから書いてもらうか、後日メールで聞きます。
連絡先は、メールアドレスと電話番号のどちらを取るかを先に決めます。手書きのメールアドレスは判読できないことが多く、あとで送ったメールが届かない原因になります。当日の連絡が主目的なら電話番号のほうが確実です。後日の案内が主目的なら、その場でメールアドレスを打ち込んでもらう形にするか、参加者自身にフォームから入力してもらいます。
同意の取り方も決めておきます。集めた情報を何に使うのかを、用紙の上部に1文で書きます。書いていない用途に使うことはできません。ここは口頭の説明だけで済ませず、紙にも残します。
定員と配布物の残数をどう見るか
当日申し込みを受けるなら、受けられる上限を先に決めます。席の数、資料の部数、保険の適用範囲のうち、いちばん少ないものが上限です。
受付の担当者が残数を把握できるようにしておきます。ホワイトボードに「当日受付可能:あと12名」のように書いて、1人受けるたびに書き換えるのがいちばん確実です。端末の一覧で数える方式は、通信が細いと使えません。アナログな方法を1つ残しておくと、判断が止まりません。
上限に達したときの断り方も、文言を決めておきます。その場で考えると角が立ちます。「本日は席の都合でここまでとさせていただいています。次回のご案内をお送りしましょうか」と続けられる形にしておくと、断ったあとが次に繋がります。講座のように回を重ねる催しでは、次回の申し込みに繋げる導線を用意しておくと無駄がありません。回ごとの定員と出欠を扱う場面の整理は講座の受講申し込みにまとまっています。
コードを配るときに決めておくこと
受付の設計と同じくらい、配る側の設計も当日に効きます。決めるのは、何を埋め込むか、どう送るか、そして使い回しへの構えの3つです。
コードに何を埋め込むか
埋め込む内容は、大きく2つに分かれます。1つは受付番号のような短い識別子だけを入れる方式。もう1つは、氏名や所属を含む情報をまとめて入れる方式です。
短い識別子だけを入れる方式が基本です。理由は3つあります。1つ目に、コードの模様が単純になり、画面が小さくても印刷が粗くても読み取りやすくなります。2つ目に、個人情報がコードそのものに含まれないので、コードの画像が第三者の目に触れても、そこから氏名が読み取られることはありません。3つ目に、申し込み内容が変わっても番号は変わらないので、コードを再発行せずに済みます。
情報をまとめて入れる方式は、オフラインでも氏名が分かるという利点があります。ただし、コードの模様が複雑になり読み取りにくくなること、印刷物を落としたときに情報が漏れることを考えると、採用する場面は限られます。通信が絶望的な会場で、かつ氏名の確認が必須という条件が揃ったときだけ検討します。
コードの表示サイズにも注意します。画面表示なら一辺3cm程度、印刷なら一辺2cm以上を確保すると、読み取りが安定します。案内メールの中で小さく表示されるように作ると、当日の受付で参加者が拡大操作に手間取ります。
送る手段と、届かない人への備え
コードを届ける手段は、申し込み完了時の自動返信メールに載せるのが基本です。ここで重要なのは、自動返信が確実に届く状態になっているかどうかです。差出人のアドレスがフリーメールだったり、送信元の設定が整っていなかったりすると、迷惑メール扱いになる割合が上がります。
届かない人への備えとして、次の3つを用意しておきます。1つ目は、開催の数日前に同じ内容を再送すること。申し込みから開催まで2週間以上空くなら、前日か前々日のリマインドは必須です。2つ目は、メール本文に受付番号を文字で書くこと。画像が表示されない環境でも番号が分かれば通せます。3つ目は、当日「メールが届いていない」と言われたときの手順を決めること。氏名で名簿を引き、見つかれば通す。この手順を決めておけば、その場でメールを探してもらう必要がありません。
案内メールには、当日の持ち物と受付の場所も同じ本文に書きます。コードだけを送ると、参加者はコードのメールと案内のメールを2通探すことになります。1通にまとめるほうが、当日の提示率は上がります。
転送、スクリーンショット、使い回しへの構え
コードは画像なので、転送もスクリーンショットもできます。同じコードで2人が入場しようとする事態は起こり得ます。
無料の催しで、席に余裕があるなら、厳密に防ぐ必要はありません。一度読み取った番号が再度読み取られたときに警告が出れば十分です。逆に、有料の催し、定員が厳格な催し、資格や身分の確認が要る催しでは、コードだけで本人確認をしない設計にします。コードで申し込みを特定し、身分証や名刺で本人を確認する、という2段構えです。
代理出席を認めるかどうかも、告知の段階で書いておきます。認めるなら、当日受付でその旨を申し出てもらい、名簿の空欄に代理の氏名を書く。認めないなら、案内文にはっきり書き、受付で説明できるようにしておく。この方針が無いまま当日を迎えると、受付の担当者が個別に判断することになり、対応がばらつきます。
個人情報の扱いと、名簿の後始末
受付で集める情報は、氏名と連絡先だけでも個人情報にあたります。法律上の定義は次のとおりです。
この法律において「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。 出典: www.ppc.go.jp
当日の受付では、この情報が紙の形で会場に持ち出されます。紙の名簿は複製が容易で、置き忘れれば取り返しがつきません。だから、刷った部数を数え、終わったあとに回収する手順を作ります。回収した名簿は、当日中にまとめて持ち帰るか、その場で処分するかを決めておきます。ごみ箱に捨てるのは避けてください。
当日申し込みの用紙も同じ扱いです。入力が終わったら、保管するのか処分するのかを決めます。保管するなら、どこに、いつまで置くのかまで決めます。「とりあえず引き出しに」が最も危ない状態です。
利用目的は、申し込みページと当日の用紙の両方に書きます。当日の受付で集めた情報を、次回の案内に使いたいなら、その同意を別に取ります。参加の申し込みへの同意と、案内配信への同意を1つのチェックにまとめると、あとで配信の停止を求められたときに整理がつきません。
なお、どこまでが許されるかは、集める情報の種類、渡す相手、催しの性質によって変わります。共催や協賛の相手方に名簿を渡す予定があるなら、渡すことを先に書いておく必要があります。判断に迷う場合は、所管の窓口や専門家に確かめてください。この記事は一般的な整理にとどめており、個別の事案について法的な結論を示すものではありません。
受付が終わったあとに残る仕事
当日が終わっても、受付の仕事は終わりません。むしろここからが、次回に効く部分です。
消し込みを翌日の連絡に繋ぐ
来場した人と、申し込んだのに来なかった人では、送る内容が変わります。来場した人にはお礼とアンケート、来なかった人には資料の共有や次回の案内。この出し分けは、来場の記録が一覧に入っていて初めてできます。
紙にしか記録が残っていない状態だと、この出し分けに丸1日かかります。200人の名簿から来場者を目視で拾い、宛先を作る作業は、集中力が続きません。当日中に一覧へ反映しておけば、翌朝には出し分けたメールを出せます。催しの翌日に届く連絡と、1週間後に届く連絡では、開かれ方が変わります。
誰が返信したのかが表に残らないと、二重送信と送り忘れは必ず起きます。担当が複数人いる場合は、対応の状態を書き込める列を最初から用意しておいてください。問い合わせを受けて返すまでの流れを整理した問い合わせの受付の考え方は、催しのあとのやり取りにもそのまま当てはまります。
次回のために残す記録
次回の設計に効く記録は、実は数えるだけで取れます。残しておくと役に立つのは次の5つです。
・申し込み数と実際の来場数、その比率 ・受付の列が最も長かった時刻 ・コードを提示できなかった人の数 ・当日申し込みの数 ・通信が不安定になった時間帯の有無
このうち3つ目と4つ目は、次回のレーン設計に直結します。前回10人が別レーンに流れたなら、次回も同じくらいは流れます。人を1人余分に置くか、案内の出し方を変えるかの判断材料になります。
来場率も重要です。無料の催しでは、申し込んだ人のうち実際に来るのは7割前後になることが多いと言われています。この比率を自分の催しで測っておくと、次回の定員設定が現実的になります。数字は催しの性質で大きく変わるので、他所の数字ではなく自分のところの数字を使ってください。
記録は、当日中に短く書くのがコツです。翌週に思い出して書くと、印象だけが残って数字が残りません。受付台に紙を1枚置いて、気づいたことをその場で書き込むだけで十分です。
受付の道具を見直すときに、どこを見比べるか
ここまでの内容を、道具選びの観点で整理します。QRコードでの受付を成立させるために必要なのは、コードを生成する機能そのものではありません。必要なのは、次の4つが同じ場所で扱えることです。
1つ、申し込みの一覧があり、1件ごとに識別できる番号が付いていること。2つ、その一覧に来場したかどうかを書き込めること。3つ、当日その場で行を追加できること。4つ、当日が終わったあとに、来場した人としなかった人を分けて連絡できること。この4つのうち、いくつを人の手で埋めているかが、いまの手順で足りるかどうかの答えになります。
フォーム作成ツールで申し込みを集めている場合、1つ目までは標準で満たされることが多く、2つ目以降を表計算の列で埋めているケースがよく見られます。表計算で埋めること自体は悪くありません。50人規模で、担当が1人で、催しが年に数回なら、それで十分回ります。判断が変わるのは、担当が複数人になったとき、催しが繰り返されるようになったとき、そして人数が100人を超えたときです。同じファイルを複数人が同時に触り始めた瞬間から、転記の事故が増えます。
いま使っている道具のまま進めるかどうかを判断したいときは、送信されたあとに何ができるのかを軸に比べてください。入力欄の作りやすさではなく、受け取ったあとに状態を書き込めるか、担当を決められるか、やり取りが残るかで見ます。無料のフォーム作成ツールとの違いを整理したものとしてはGoogleフォームとの比較があり、回答が表に貯まったあとの動線がどこで分かれるのかを扱っています。自社サイトにフォームを設置している場合の観点はContact Form 7との比較に、社内の環境でフォームを立てている場合の観点はMicrosoft Formsとの比較にまとまっています。どれも、いま使っているものを否定するための資料ではなく、どういう使い方なら乗り換える理由が無いのかを先に確かめるための資料です。
受付という仕事の形は、場面が変わってもよく似ています。イベントの申し込みは定員と当日の来場、施設利用の申請は日程の重複と承認、会員の入会申し込みは審査と入金の確認、助成金・公募の受付は締切と要件の確認、採用の応募受付は選考の段階と連絡、修理・サポートの受付は対応の進み具合。名前は違っても、どれも「1件に状態が付いて、担当が決まり、やり取りが残る」という同じ構造をしています。QRコードでの受付が扱っているのは、この構造のうち「状態が変わる瞬間」を速くする部分です。速くする部分だけを導入して、状態を持つ場所を用意しないと、当日は速いのに翌日から手作業が増えます。
実際の画面でどう並ぶのかを確かめたいときは動くところを見るから触れます。費用の考え方は料金に、細かい疑問はよくある質問にまとまっています。
最後に、判断の順序をもう一度並べておきます。まず、紙の名簿を併走させることを前提として認める。次に、受付番号を決めて、コードと紙と一覧の3つに同じ番号を載せる。そのうえで、読み取れない人のレーンと当日申し込みの経路を作る。最後に、当日の記録が翌日の連絡にそのまま使えるかを確かめる。この4つが決まっていれば、当日の受付は通信が切れても止まりません。決まっていない項目があるなら、そこが次に手を付ける場所です。
Q1. QRコードでの受付にすれば、紙の名簿はもう要らなくなりますか?
要ります。コードを出せない人は事前申し込み者の5%程度は出ると見込んでおくのが安全で、参加者の年齢層が高い催しや法人からの一括申し込みが多い催しではさらに増えます。会場の電波が細い場合、照合そのものが止まります。紙の名簿は電源も回線も要らず複数人が同時に見られるので、最後の砦として必ず用意してください。
Q2. 会場の電波が届かないとき、受付はどう進めればよいですか?
コードを読み取って番号を取り出すところまでは通信が無くても動くので、番号を控えて通す運用に切り替えます。有料の催しや定員が厳格な催しでは、受付番号順に刷った紙の名簿で照合してから通します。通信が戻ったら、控えた番号を1人が順番に一覧へ入力し、紙の印と突き合わせて抜けと重複を確認します。
Q3. 当日その場で申し込む人は、どう受け付ければよいですか?
事前申し込みと同じ一覧に行として残すのが原則です。受付の端末から直接登録するか、当日申し込み用のコードを受付に掲示して参加者自身に入力してもらいます。その場で書いてもらう項目は、氏名、連絡先、区分の3つに絞ります。項目が多いと受付の前で書き込みが始まり、そこが渋滞します。
Q4. 受付にコードを導入すると、何人で回せるようになりますか?
人数は読み取りの速さではなく、名札や資料を渡す時間で決まります。200人規模で開場から30分に半数が来ると見込むなら、読み取り2レーン、コードが無い人の対応1つ、当日申し込み1つ、案内係1人の計5人が現実的な最小構成です。人が足りないときは、レーンを増やすより資料を席に置くなど渡す物を減らすほうが効きます。
