デザイン事務所に届いた問い合わせの返信が遅れるのは、書く文章が思いつかないからではありません。読んだ時点では返せず、見積もりの前提を調べ、手が空くのを待ち、そのあいだに別の制作が割り込んで、戻ってきたときには何を調べていたか忘れている、という工程の途切れが原因です。この記事では、届いてから返すまでを七つの工程に分けて、どこで止まるのか、そこをどう詰めるのかを整理します。読み終えたときに、いまの受付のどの工程が抜けているかが分かる状態を目指します。
返信が遅れるのは工程が途切れているから
デザイン事務所が受けているのは、制作の相談と見積もりの依頼です。この二つは、届いた瞬間に返せる種類の問い合わせではありません。金額を出すには仕様を確認し、社内の手が空いているかを見て、外注や印刷の手配が要るかを判断する必要があります。
つまり返信の作業は、読んで書くだけの一工程ではなく、読む、調べる、決める、書く、という複数の工程が連なった作業です。連なっているものは、どこか一箇所で止まると全体が止まります。そして止まった場所は、受信箱を見ているだけでは分かりません。未読でも既読でも、見た目は同じだからです。
窓口の担当者からよく聞くのは、返信を後回しにした問い合わせが、そのまま数日埋もれるという話です。埋もれる理由は忘れたからではなく、「あとで調べてから返す」と決めた瞬間に、その問い合わせが受信箱の中で他のメールと同じ見た目になるからです。
工程を七つに分けて見る
受け取ってから返すまでを分解すると、七つになります。受け取る、読む、仕分ける、調べる、書く、記録する、追う、の七つです。
受け取るは、フォームやメールや電話で相談が着地する工程です。読むは、中身を把握する工程。仕分けるは、誰が対応するか、どの種類の相談かを決める工程。調べるは、見積もりを出すための前提をそろえる工程。書くは、実際に返信文を作る工程。記録するは、返したという事実を残す工程。追うは、返信後に相手から反応が無いときに再度連絡する工程です。
デザイン事務所で止まるのは、ほぼ例外なく調べると追うの二つです。読むと書くは短時間で終わります。仕分けるは人数が少なければ問題になりません。記録するは、やっていない事務所が多いのですが、やっていないこと自体には気づきません。
止まる場所は「調べる」に集中する
見積もりを出すために調べることは、相談の種類によって違います。印刷物なら、判型と部数から印刷費を当たり、紙の指定があれば在庫と価格を確かめます。ウェブサイトなら、ページ数と機能から工数を見積もり、外注する部分があれば相手の空きを聞きます。ロゴなら、使う範囲を確かめ、商標の確認が必要かを判断します。
この「当たる」「聞く」の部分は、相手のある作業です。印刷会社に見積もりを頼めば返答まで一日か二日かかり、外注先に空きを聞けば同じだけかかります。つまり返信までの日数の大半は、書く時間ではなく待つ時間です。
だから返信を速くしたいなら、書く速度を上げるのではなく、待ちを並行して進める設計にします。具体的には、届いた日のうちに一次返信を出し、必要な問い合わせを同じ日に投げる、という順番です。
受け取ると読むの工程を短くする
最初の二工程は、設計次第で数分に縮められます。
届いたことに気づくまでの時間を計る
まず確かめるのは、相談が届いてから担当者が気づくまでの時間です。フォームの通知メールが、他のメールと同じ受信箱に混ざって届いていると、気づくのが翌朝になります。
対処は二つです。一つは、通知の宛先を専用のアドレスに分けること。もう一つは、通知の件名に用件の種類を入れることです。件名が「お問い合わせがありました」だけだと、開かないと中身が分かりません。件名に「印刷物の見積もり依頼」と入っていれば、開く前に優先度を判断できます。
件名に何を入れられるかは使っている道具によって変わります。フォームの回答内容を件名に差し込めるかどうかは、選ぶときに確かめておくとよい点です。
読む前に全体の件数を把握する
もう一つ効くのが、いま何件抱えているかを最初に見ることです。一件ずつ開いて返す進め方だと、全体の量が見えないまま作業に入るため、優先度の判断ができません。
一覧で見られる状態を作ると、急ぎのものから手を付けられます。受信箱でも件名が整っていれば一覧にはなりますが、返信済みかどうかが件名からは分かりません。受け付けた内容と、担当者と、いまの状態が同じ画面にそろっているかどうかで、この最初の把握にかかる時間が変わります。実際の動きは動くところを見るで確かめられます。
仕分けの基準を先に決めておく
仕分けは、その場で考えると時間がかかる工程です。基準を先に決めておけば、機械的に処理できます。
デザイン事務所で使える基準は三つあります。相談の種類、返すまでの目安の日数、担当する人です。
相談の種類は、新規の制作、既存データの修正、制作以外、の三つに分けます。新規の制作は調べる工程が要り、既存データの修正は元データがあれば即答でき、制作以外は返信そのものが不要なこともあります。
返すまでの目安の日数は、種類ごとに決めます。修正の依頼は1営業日、新規の制作は3営業日、といった形です。この目安を決めておくと、遅れているものが一目で分かります。
担当する人は、人数が二人以上いる事務所では必ず決めます。決めないと、二人とも返信しないか、二人とも返信するかのどちらかが起きます。
「制作以外」の仕分けを軽くする
デザイン事務所の窓口には、営業の売り込み、素材の二次利用の許諾を求めるもの、取材や登壇の依頼、求人への応募が混ざります。件数が多いと、本来の相談を読む時間が削られます。
ここでの原則は、判断に時間をかけないことです。返信を出すかどうかを、種類ごとに先に決めておきます。営業には返信しない、許諾の依頼には定型文で返す、取材は代表に転送する、といった具合です。届くたびに考えると、一件あたり数分が積み上がります。
なお、返信しないと決めたものも、届いた記録は残しておきます。あとから「以前に連絡した」と言われたときに、何が届いていたかを確かめられるからです。
もう一つ注意したいのが、営業に見えて実は制作の相談だった、という取り違えです。他社の代理店や制作会社から、下請けとして手伝ってほしいという相談が来ることがあります。文面が営業に似ているため、まとめて処理すると取りこぼします。差出人の会社名だけで判断せず、本文の冒頭一行は必ず読む、という線引きにしておくと安全です。
一次返信を先に出す
デザイン事務所の受付で最も効く一手が、これです。
見積もりが出るまで返信しない運用にしていると、相手からは何も返ってこない状態が続きます。相手はその間、他の事務所からの返信を読んでいます。検討の順番は、金額の高低より先に、返信が来たかどうかで決まる場面が多くあります。
一次返信に書くのは三つです。受け付けたこと、何を確認しているか、いつまでに正式な回答を出すか。「印刷会社に用紙の在庫を確認しております。3営業日以内にお見積もりをお送りします」という二文で足ります。
この一次返信は、フォームの自動返信で一部を代替できます。ただし自動返信は全員に同じ文面が届くため、何を確認しているかまでは書けません。自動返信で受け付けた事実を伝え、担当者が読んだ段階で確認事項を追加で送る、という二段構えが実務的です。
足りない情報は一次返信でまとめて聞く
一次返信を書く時点で、見積もりに要る情報が足りていないことが分かっていたら、そこで全部まとめて聞きます。小出しに聞くと往復が増え、そのたびに相手の返答を待つ時間が発生します。
聞く順番は、金額への影響が大きいものからです。部数、納期、支給素材の有無、印刷まで含むかどうか、の順に並べます。箇条書きで4項目までに収めると、返答が返ってきやすくなります。項目が多いと、全部そろえてから返そうとして、結局返ってきません。
答えられない項目があることを前提に、「分かる範囲で構いません」と一文添えておくのも効きます。分からない項目があると送信を止める人がいるためです。
調べる工程を並行させる
一次返信を出したら、同じ日のうちに、外に投げる問い合わせを全部投げます。
印刷会社への見積もり依頼、外注先への空き状況の確認、素材の権利関係の確認。これらは相手のある作業なので、投げるのが一日遅れれば、返信も一日遅れます。
このとき問題になるのが、投げた先からの返答をどこで受けるかです。印刷会社からの返答はメールで届き、元の問い合わせとは別の場所に着地します。この二つを手で結び付ける作業が、取り違えの原因になります。
現実的な対処は、元の問い合わせの記録に、投げた先と投げた日をメモとして書き足すことです。返答が届いたら、その記録に追記します。記録が一箇所にまとまっていれば、いま何を待っているかが分かります。
待っているものを見える形にする
調べる工程で止まっているものは、担当者の頭の中では「待ち」ですが、外から見ると「返信していない」です。この二つを区別できる形にしておかないと、遅れているのか待っているのかが分かりません。
対処は、状態の区分に「確認中」を足すことです。未対応、確認中、返信済み、完了、の四つに分けると、確認中のまま何日経ったかが見えます。5営業日を超えて確認中のものは、投げた先から返答が来ていない可能性が高いので、催促します。
この区分は、表計算ソフトの一列でも作れます。ただし、行が増えて手で色分けを始めたら、そこが道具の見直し時です。それぞれの道具で集めたあとに何ができるかは、Googleフォームとの比較で、回答の状態を扱えるかどうかを軸に整理されています。
工数の見積もりを先に、金額の計算はあとに
調べる工程の中でも、事務所の内側で完結するのが工数の見積もりです。ここは待ちが発生しないので、外への問い合わせを投げたあと、返答を待つ間に進められます。
工数を見積もる順番は、作るものの点数を数える、点数ごとに作業の段階を並べる、段階ごとに時間を置く、の三段階です。パンフレットなら、表紙と本文のページ数を数え、それぞれに構成案、ラフ、本制作、修正、入稿データ作成という段階を並べ、段階ごとに時間を置きます。
この順番で進めると、金額の根拠が説明できる形になります。相談の相手から「なぜこの金額なのか」と聞かれたときに答えられるかどうかは、受注の分かれ目になります。逆に、過去の似た案件の金額をそのまま持ってくると、条件の違いを説明できず、値引きの要求に対して根拠のない譲歩をすることになります。
判断がつかない部分は幅で出す
見積もりの段階では、確定できない要素が必ず残ります。写真を何点使うか、原稿がいつ出てくるか、修正が何往復になるか。これらは相談の相手も決めていません。
確定できない部分は、幅で出すか、条件付きで出します。「写真を新規に撮影する場合は別途」「修正は3回まで含む」という書き方です。幅を出すことをためらって一つの数字にまとめると、あとから追加の請求をすることになり、そこで関係が悪くなります。
条件を書くときは、条件を満たさなかった場合にどうなるかまで書きます。「修正が3回を超える場合は、以降1回あたりの費用を別途お見積もりします」と書いてあれば、相手も回数を意識します。
返信の速さが効く場面と効かない場面
返信を速くすることには意味がありますが、すべての相談で同じだけ効くわけではありません。効く場面と効かない場面を見分けておくと、力の入れどころが決まります。
速さが最も効くのは、相手が複数の事務所に同時に声を掛けている場面です。この場合、返信の順番がそのまま検討の順番になります。最初に返した事務所が前提を作り、あとから返した事務所はその前提と比べられます。
次に効くのが、納期が迫っている相談です。展示会や開店の日が決まっていて、逆算すると余裕が無い、という状況では、返信が一日遅れるだけで受けられる仕事が受けられなくなります。
逆に効きにくいのは、社内で予算の承認を待っている段階の相談です。この場合、相手の側で数週間動かないことがあります。速く返しても検討は進まないので、丁寧さと分かりやすさのほうが効きます。
この見分けは、フォームの設問で検討の状況を聞いておくと、開いた時点でつきます。聞いていない場合は、一次返信で「他社様にもご相談中でしょうか」と一行入れて確かめます。
電話や紹介で来た相談も同じ線に乗せる
デザイン事務所の相談は、フォームだけから来るわけではありません。紹介、電話、名刺交換の場、既存の取引先からの追加依頼と、入り口がいくつもあります。
このとき起きるのが、フォームから来たものだけが記録に残り、それ以外は担当者の頭とメモ帳に残る、という分断です。分断が起きると、いま何件の相談を抱えているかが誰にも分からなくなり、返信の流れを整えても効果が半分になります。
現実的な対処は、フォームを外向けの窓口としてだけでなく、内部の記録の入り口としても使うことです。電話で受けた相談を、受けた人が同じフォームに代理で入力します。入力の手間は2分ほどで、そのぶん記録が一箇所にそろいます。設問に「受付の経路」を一つ足し、フォーム、電話、紹介、対面、といった選択肢を置いておくと、あとから経路ごとの件数も数えられます。
既存の取引先からの追加依頼も記録する
見落とされやすいのが、既に取引のある相手からの追加依頼です。担当者の携帯に直接届くことが多く、記録に残りません。
残らないと、忙しい時期に取りこぼします。取引先からの依頼は信頼が積み上がっているぶん、取りこぼしたときの損失が大きくなります。受けた本人が短く記録に入れる習慣を作ると、この取りこぼしは減ります。
書く工程を型にする
返信文は、毎回ゼロから書く必要はありません。デザイン事務所の返信は、種類ごとに構成が決まっています。
見積もりの返信なら、前提の確認、金額、内訳、納期、次にすること、の順です。前提の確認を最初に置くのは、金額だけ先に読まれて前提が読み飛ばされるのを防ぐためです。
修正の依頼への返信なら、直せるかどうか、元データの要否、金額、納期の順。相談への返信なら、理解した内容の要約、考えられる進め方、次の打ち合わせの提案、の順です。
型を作ったら、差し込む部分だけを毎回書きます。全文を定型にすると読み手に伝わるので、金額の根拠と、その相談に固有の部分は必ず自分の言葉で書きます。
金額の書き方で往復が変わる
見積もりの返信で往復が増えるのは、金額の見せ方が原因であることが多くあります。総額だけを書くと、「高い」か「安い」かの反応しか返ってきません。内訳を書くと、どこを削れば予算に収まるかを相手が自分で判断できます。
内訳の粒度は、作業の段階ではなく、成果物の単位に合わせます。「構成案に何時間」ではなく、「表紙のデザイン」「本文8ページ」「入稿データの作成」という並びです。作業時間で分けると、相手にとっては削れるかどうかが判断できません。
印刷まで手配する場合は、制作費と印刷費を必ず分けて書きます。分けないと、部数を変えたときにどこが動くのかが伝わらず、部数の相談のたびに見積もりを作り直すことになります。
断るときの型も作っておく
受けられない相談も届きます。予算が合わない、納期が間に合わない、対応していない分野である、といった理由です。
断る返信は書きにくいので後回しになりがちですが、後回しにすると相手の検討を止めることになります。断る型を作っておいて、届いた日のうちに返すのが、双方にとって良い形です。
型の中身は、受けられないことと、その理由を一つだけ、そして可能なら次の当たり先の示唆です。理由を並べると言い訳に見えるので、一つに絞ります。
記録する工程を飛ばさない
返信を出したら、出したという事実を残します。この工程は、やらなくても当日は困りません。困るのは数週間後です。
残す内容は四つです。誰に返したか、いつ返したか、何を返したか、次に何をする予定か。この四つがあれば、あとから見返したときに状況が復元できます。
受信箱の送信済みフォルダも記録の一種ですが、そこには「次に何をする予定か」が残りません。相手からの返答を待っているのか、こちらのボールなのかが分からないと、追う工程が回りません。
記録は返信を書きながら残す
記録が続かない事務所に共通しているのは、返信を出したあとに別の場所へ転記する運用にしていることです。転記は一件あたり一分に満たない作業ですが、返信を出した瞬間には次の作業に意識が移っているので、飛びます。
続く形にするには、返信を書く場所と記録が残る場所を同じにします。問い合わせの一覧から相手を開いて、そこで返信を書き、書いた内容がそのまま履歴として残る形です。この形なら、記録を残す作業が独立して存在しません。
同じ場所にできない場合の次善は、記録に残す項目を減らすことです。誰にいつ返したかだけなら、一覧の一列に日付を書くだけで済みます。項目を欲張ると、続きません。
二人以上いるなら記録は必須になる
一人で回している事務所では、記録が無くても当面は回ります。二人以上いる場合は、記録が無いと必ず事故が起きます。
起きるのは二種類です。二人が同じ相談に別々の内容で返す二重返信と、相手が返すと思って両方が放置する返し忘れです。どちらも、誰が持っているかが見える形になっていないことが原因です。
記録の置き場所は、二人が同時に見られる場所である必要があります。個人の受信箱は、この条件を満たしません。
追う工程を仕組みにする
見積もりを出したあと、相手から返答が無いことは珍しくありません。社内で検討している、他社と比べている、予算の承認を待っている、といった事情があります。
このとき、こちらから一度も追わないと、そのまま流れます。追えば、検討の状況が分かり、条件を調整して受注に至ることもあります。
追う頻度は、見積もりを出してから1週間後に一度、そのあと3週間後にもう一度、という程度が一般的です。それ以上は催促に見えます。
追う作業を仕組みにするには、いつ追うかを記録に書いておくことです。頭で覚えている限り、忙しい週には飛びます。
追わない相談を決めておく
すべてを追う必要はありません。金額が合わないことが明らかなもの、対応範囲外のもの、営業目的だったものは追いません。
追うかどうかを一次返信の時点で決めて記録に書いておくと、追う工程で判断が要らなくなります。判断が要らない作業は、忙しくても続きます。
追う文面も型にしておきます。「先日お送りしたお見積もりについて、その後いかがでしょうか」だけでは、相手は返答を書く材料がありません。「ご不明な点があればお伺いします」「条件によっては調整できる部分もあります」のように、返答しやすい入り口を一つ添えると、返ってくる割合が上がります。返ってこなかった相談も、断られたと決めつけずに記録だけ残しておくと、次に同じ相手から相談が来たときに前提を引き継げます。
制作が立て込む時期に流れを崩さない
デザイン事務所の仕事量は平らではありません。年度の切り替わり、展示会の集中する時期、新商品の発売前など、制作が立て込む山があります。
問題は、この山が来ると返信の工程がいちばん先に犠牲になることです。目の前の制作には締切があり、新規の相談には締切がありません。締切の無い作業から後回しになるのは自然なことで、担当者の意識の問題ではありません。
対処は、返信にも締切を作ることです。種類ごとの目安の日数を決めて記録に書いておけば、それが締切になります。締切が可視化されていれば、制作の合間に差し込む判断ができます。
もう一つの対処は、忙しい時期の一次返信を短くすることです。「現在、制作が立て込んでおりまして、お見積もりは5営業日ほどお時間をいただきます」と正直に書いて出すほうが、丁寧な返信を数日温めるより相手の役に立ちます。待てる相手は待ち、待てない相手は早く他を当たれます。
受けられない量が来たときの判断
山の時期には、受けられる量を超えた相談が来ます。ここで全部を保留にすると、全部が遅れます。
判断の順番は、納期が動かせるかどうか、既存の取引先かどうか、規模が事務所に合うかどうか、の三つです。納期が動かせる相談は、開始時期を後ろにずらす提案ができます。既存の取引先は、多少無理をしても受ける価値があります。規模が合わない相談は、早めに断るのが双方のためです。
この判断を毎回その場で考えると時間がかかるので、事務所として順番を決めておきます。決めておけば、判断は数十秒で済みます。
返信の流れが整ったかを確かめる
工程を並べて手を入れたら、効果を確かめます。見るのは三つです。
一つ目は、届いてから一次返信を出すまでの時間です。同じ日のうちに出せている割合を数えます。この割合が上がっていれば、受け取ると読むの工程は詰まっていません。
二つ目は、届いてから見積もりを出すまでの日数です。ここが縮まっていれば、調べる工程の並行化が効いています。
三つ目は、返信していないまま7日以上経っている件数です。これがゼロに近づいていれば、記録と追うの工程が回っています。
数え方は手作業で構いません。30件ほど数えれば傾向は見えます。件数が増えて手作業で追えなくなったら、そこが道具を見直す時期です。
個人情報の扱いを工程に組み込む
問い合わせには、氏名、連絡先、事業の内容、場合によっては未公開の商品情報が含まれます。返信の工程を設計するときは、この情報をどこに置くかも決めておく必要があります。
個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱うに当たっては、その利用の目的をできる限り特定しなければならない。 出典: 個人情報保護委員会
利用目的をどこまで書けばよいか、保管の期間をどう決めるかは、事務所の状況によって変わります。所管の窓口や専門家に確かめてください。
実務として決めておきたいのは、記録を誰が見られるかです。外注のデザイナーに制作を頼むとき、問い合わせの記録をそのまま渡すのか、必要な部分だけ抜き出して渡すのかを、先に決めておきます。よく聞かれる内容は固定ページにまとめておくと、返信で毎回説明せずに済みます。よくある質問のように、質問文をそのまま見出しにして、答えを二文か三文で書く形が読みやすくなります。
工程を一本の線にしたあとに残る仕事
七つの工程を並べて、それぞれに担当と目安の日数を付けると、返信の流れは一本の線になります。線になれば、どこで止まっているかが見えます。
ただし、線にしただけでは速くなりません。速くなるのは、止まっている場所に手を入れたときです。デザイン事務所の場合、手を入れる価値が最も高いのは、一次返信を届いた日のうちに出すことと、外に投げる問い合わせを同じ日に投げることの二つです。この二つだけで、返信までの日数は大きく縮みます。
残るのは、記録をどこに置くかという問題です。問い合わせの受付の場面で共通して起きているのは、集めるところまでは無料の道具で足りているのに、集めたあとを表計算ソフトと受信箱と付箋で継ぎ足していることです。継ぎ足した部分は担当者の記憶に依存し、その人が現場に出た日に止まります。
自社サイトに埋め込んだフォームを使い続けたい場合は、Contact Form 7との比較で、送信後の記録がどこに残るかを確かめておくと判断しやすくなります。集めるところは問題なく動く道具でも、返信の状態を持てるかどうかは別の話です。送信されたあとの道具がそろっているかどうかが、工程を一本の線にできるかどうかを決めます。
同じ工程の詰まり方は、他の業種でも繰り返し現れます。受講の申し込みを受けたあと、定員と日程を確かめてから返す講座の受講申し込みがその例です。デザイン事務所の見積もりが外部への確認を挟むのと同じで、届いた情報だけでは返信が完結しない型です。
最後に、返信の流れを整えるときに決めることを並べておきます。通知をどこで受けるか、件名に何を入れるか、仕分けの基準を何にするか、種類ごとの目安の日数を何日にするか、一次返信をいつ出すか、足りない情報をどうまとめて聞くか、確認中の状態をどう見せるか、返信の型を何種類作るか、記録に何を残すか、いつ追うか。この十個を決めれば、受け取ってから返すまでが一本の線になります。決め切れないものは、いまのやり方を三か月続けて、実際に止まった場所から決めれば済みます。
Q1. デザイン事務所の問い合わせ返信が遅れる原因はどこにありますか?
文章を書く時間ではなく、見積もりの前提を調べる時間です。印刷会社への見積もり依頼や外注先への空き確認は相手のある作業で、返答まで一日か二日かかります。返信までの日数の大半はこの待ち時間です。書く速度を上げても縮まないため、届いた日のうちに一次返信を出し、必要な問い合わせを同じ日に投げて、待ちを並行させる設計にしてください。
Q2. 一次返信には何を書けばよいですか?
受け付けたこと、いま何を確認しているか、いつまでに正式な回答を出すか、の三つです。「印刷会社に用紙の在庫を確認しております。3営業日以内にお見積もりをお送りします」という二文で足ります。全員に同じ文面が届く自動返信では確認事項まで書けないので、自動返信で受付を伝え、担当者が読んだ段階で確認事項を追送する二段構えが実務的です。
Q3. 見積もりに足りない情報は、どう聞けばよいですか?
一次返信でまとめて聞きます。小出しにすると往復が増え、そのたびに相手の返答を待つ時間が発生します。聞く順番は金額への影響が大きいものからで、部数、納期、支給素材の有無、印刷まで含むかどうか、と並べ、箇条書きで4項目までに収めます。「分かる範囲で構いません」と添えておくと、答えられない項目があっても返信が止まりません。
Q4. 返信の状態は、どこまで細かく分けるべきですか?
未対応、確認中、返信済み、完了の四つで足ります。重要なのは「確認中」を独立させることです。担当者の頭の中では待ちでも、外から見れば返信していない状態なので、区別できないと遅れなのか待ちなのか分かりません。確認中のまま5営業日を超えたものは、投げた先から返答が来ていない可能性が高いため、こちらから催促してください。
Q5. 見積もりを出したあと、返答が無い相手はいつ追えばよいですか?
見積もりを出してから1週間後に一度、その後3週間後にもう一度が目安です。それ以上は催促に見えます。追う作業を続けるコツは、いつ追うかを記録に書いておくことです。頭で覚えているだけだと忙しい週に飛びます。あわせて、金額が合わないものや対応範囲外のものは追わないと一次返信の時点で決めておくと、追う工程で判断が要らなくなります。
