社内アンケートを実施すると決めたとき、最初に用意されるのはたいてい設問の一覧です。ところが実際に回収率と回答の中身を左右するのは、設問より前の設計にあります。答えた人が誰なのかが割れない作りになっているか、そして「この回答を誰が読むのか」が回答者に伝わっているか。この2点が抜けたまま配ると、無記名にしてあっても当たり障りのない回答だけが並びます。
結論から書きます。無記名は必要条件ですが、十分条件ではありません。部署と役職と勤続年数を並べて聞いた時点で、無記名は形だけのものになります。そして回答者が黙る本当の理由は、名前欄があるかどうかではなく、「上司がこれを読むのかどうか分からない」という不確かさにあります。この記事では、特定されない作りの具体的な作り方、集計の粒度の決め方、結果の見せ方、そして回収率を上げる手順を順に整理します。
社内アンケートが増え、同時に警戒されるようになった背景
従業員に意見を聞く取り組みそのものは新しいものではありません。変わったのは頻度です。年に一度の大規模な調査に加えて、月次や週次で数問だけ聞く短い調査、研修直後の理解度確認、制度改定後の受け止め方の確認、異動シーズンの負荷確認と、小さな受付が組織のあちこちで立つようになりました。web のフォームで入口を作るコストがほぼゼロになったことが直接の理由です。以前は用紙を印刷して配り、回収箱を置き、手で集計していました。いまは URL を1本配るところから始まります。
回数が増えたぶん、回答する側の学習も進みました。何度か答えるうちに、「無記名と書いてあったのに、翌週の面談でその内容に触れられた」という経験をする人が出てきます。一度でもそれが起きると、その職場では以降のアンケートが機能しなくなります。回答が減るだけならまだ分かりやすいのですが、実際に起きるのはもっと厄介な形で、回収率は保たれたまま中身だけが無害になります。全員が「特に問題ありません」と書く調査は、集計上は健全に見えます。
現場でよく聞くのは、「毎年やっているが、去年と同じ結果しか出ない」という悩みです。これを設問の作り方の問題だと考えて質問文を練り直しても、たいてい変わりません。原因が設問ではなく、回答者が計算している開示リスクのほうにあるからです。10人の課で「あなたの課」と「あなたの役職」を聞けば、主任は組織内に1人しかいないかもしれません。その人が正直に書けない理由は、質問文が悪いからではありません。
もう一つの背景として、預かる情報の扱いに対する感覚が厳しくなったことがあります。社内アンケートは社員が対象なので個人情報とは無関係だと考えられがちですが、そうではありません。
この法律において「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。 出典: e-gov.go.jp
括弧の中が重要です。「他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができる」という部分は、まさに社内アンケートで起きることを指しています。回答そのものには名前が無くても、組織図という別の情報と突き合わせれば個人が割れる。社内で実施する調査は、この照合が最もやりやすい環境で行われます。実際にどこまでが個人情報に当たるか、どのような取り扱いが必要かの具体的な判断は、所管の窓口や社内の法務、専門家に確かめてください。ここで確認したいのは、社員向けだからといって扱いが軽くなるわけではない、という前提のほうです。
無記名にしただけでは特定は防げない
名前欄を外すことは出発点であって、対策そのものではありません。特定は、単独の項目ではなく組み合わせによって起きます。
部署と役職を並べた瞬間に、対象は数人まで絞られる
設問の冒頭に属性を並べるのは自然な発想です。部署、役職、勤続年数、雇用形態、年代、性別。この6つを聞けば、集計の切り口は増えます。しかし同時に、回答者から見た安全度は一気に下がります。
たとえば従業員200人の会社で、営業部に30人、そのうち課長職が3人、さらに勤続10年以上に絞ると1人になる、という構造はごく普通に存在します。回答者はこの計算を無意識にやります。「営業部・課長・勤続10年以上・40代」と選んだ自分の回答が、経営会議の資料に1行で載る場面が想像できてしまう。そこまで見えたら、書く内容は当たり障りのないものに寄ります。
属性を減らすと分析ができなくなる、という反論は当然出ます。しかし、分析できても回答が本音でなければ、精度の高い無意味な数字が出るだけです。属性は「集計で本当に使う切り口」だけに絞ります。実務上は、部署(あるいは本部単位)と勤続年数帯の2つで足りる場合が多く、役職を聞くかどうかは慎重に判断すべきです。役職は組織内で最も人数が少ない属性であり、特定への寄与が突出して大きいからです。
自由記述は文体と語彙で持ち主が分かる
自由記述欄は、無記名の壁を最も簡単に突破します。特定の言い回し、漢字とひらがなの使い分け、句読点の打ち方、業務用語の選び方。日常的に同じ職場でやり取りしている相手なら、数行読めば書き手の見当がつきます。実際、集まった記述を読んだ管理職が「これは誰々だな」と口にする場面は、職場でしばしば起きます。
さらに危ないのは、記述の内容そのものです。「先月の展示会で対応が回らなかった件」と書けば、その案件に関わった数人に絞られます。回答者が具体的に書けば書くほど特定されやすくなるという構造があるため、「具体的に書いてください」と依頼するほど、当たり障りのない記述しか集まらなくなるという逆転が生じます。
対策は3つあります。1つ目は、自由記述を集計担当だけが原文で読み、外に出すときは要約と傾向に置き換えると先に宣言すること。2つ目は、原文をそのまま引用する場合、事前に本人の同意を取る手順を用意すること。3つ目は、自由記述の設問数自体を絞ることです。5問も6問も自由記述を並べると、書く量が増えるぶん筆跡にあたる特徴が濃くなります。自由記述は1問か2問で十分です。
送信の経路や時刻からも手がかりが残る
回答の中身以外にも、特定につながる情報は残ります。回答した時刻、社内ネットワークのどこから送信されたか、どの端末から送られたか。フォームによっては、社内アカウントでのログインを前提にしているために、設定次第で回答者のアカウント名が記録される場合があります。ここは道具の設定に依存するので、実施前に管理画面で必ず確認してください。「無記名」と書いてあっても、記録として個人が紐づいていれば無記名ではありません。
回答者にこの点を説明できるかどうかも重要です。「送信元は記録されません」と断言するなら、実際にそうなっていることを確かめてから書く必要があります。確かめずに書くと、後で1人でも「実は記録されていた」と気づいた時点で、その調査だけでなく人事や事務局そのものへの信頼が落ちます。回答者に安心して答えてもらうためのフォーム設計は、匿名の意見収集に限らず外部からの受付でも共通する論点で、問い合わせの受付の考え方が参考になります。
効くのは「無記名」より「誰が見るのか」を先に伝えること
無記名にすれば本音が出る、という理解は単純化しすぎです。回答者が知りたいのは名前欄の有無ではなく、この回答が最終的にどこへ行き、誰の目に触れ、何に使われるのかです。ここが不明なままだと、無記名であっても人は保険をかけます。
開示範囲を最初の画面に文章で置く
アンケートの冒頭に、次の内容を短く書きます。原文を読むのは誰か。集計結果を見るのは誰か。所属長は自分の部署の結果を見られるのか。個票(1人分の回答)は誰かが開けるのか。保存期間はどれくらいか。この5点です。
ここで「見られません」と書けない場合は、正直に「所属長には部署単位の集計のみを共有します」と書きます。曖昧にぼかすより、範囲を明示したほうが回答は具体的になります。よく聞くのは、「経営層だけが見ます」と書いた調査のほうが、「厳重に管理します」とだけ書いた調査より率直な記述が集まった、という話です。厳重に管理するという言葉は、回答者にとって何の情報も持っていません。
目的と、結果をどう使うかを書く
「今後の施策の参考にします」は目的を書いたことになりません。回答者は、自分の書いたことが何かに反映される見込みがあるときだけ、時間を使って考えて書きます。3分で終わる調査でも、その3分は業務時間から出ています。
書くべきは、いつまでに、何を、誰が決めるために使うのか。たとえば「10月の労働時間の見直し案を作る材料にします。集計結果は11月の全社会議で共有し、実施することになった項目は12月に一覧で返します」と書けば、回答者は自分の入力の行き先を追えます。ここまで書いてしまうと後で説明責任が生じるので嫌がられることがありますが、その責任を引き受けないなら回答の質は上がりません。
前回の結果と、変わったことを先に見せる
2回目以降の調査であれば、冒頭に前回の結果と、それを受けて実際に変えたことを載せます。1行でも構いません。変えられなかった項目については、変えられなかったと書きます。理由も添えます。
これが効くのは、回答が無駄にならないという証拠になるからです。逆に、前回の結果を返していない状態で2回目を配ると、回答者は「答えても何も起きない」という前提で入力します。この状態の調査は、回収率は出るのに中身が空になります。回答の質を落とす最大の要因は、設問でも匿名性でもなく、前回の結果を返していないことである場合がかなり多いです。
実施主体を明確にする
誰が実施しているのかを書きます。人事部なのか、経営企画なのか、労使の協議体なのか、外部に委託しているのか。とくに外部に委託する場合は、委託先が原文を扱うのか、社内に返す前に匿名化するのかまで書きます。実施主体があいまいな調査は、回答者から見ると「どこかで誰かが自分の回答を見ている」という不安の対象になります。
集計の粒度を先に決めてから、設問を作る
設問を作ってから集計方法を考えると、必ず後戻りします。順序は逆で、どの粒度で結果を出すのかを決めてから、その粒度に必要な属性だけを聞きます。
最小集計人数を決める
集計の単位ごとに、何人以上なら公表してよいかを先に決めます。実務でよく使われる線は5人以上です。5人未満の単位は、個別の数字を出さず「他部署と合算」または「非公表」として扱います。この線を先に決めておくと、属性の聞き方が自然に決まります。
たとえば、この線を引いた時点で「課単位」で聞く意味が薄れる部署が出てきます。5人未満の課があるなら、最初から部単位で聞けばよいわけです。属性の選択肢を作る段階でこの判断をしておかないと、集めた後に「この課は3人しかいないので出せません」となり、聞いた意味が無くなります。
もう1つ決めておくのは、掛け合わせの扱いです。部署別と役職別をそれぞれ単独で出すのは問題なくても、「営業部の管理職」というクロス集計にした瞬間に2人になることがあります。単独では安全でも、掛け合わせると危険になるという性質があるため、公表するクロス集計の組み合わせを事前に列挙しておくのが安全です。「クロス集計は部署×勤続年数帯のみ、いずれのセルも5人以上の場合に限る」といった書き方で、実施前に文書にしておきます。
属性の選択肢を粗く作る
年代を「20代・30代・40代・50代・60代以上」で聞くのと、生年で聞くのとでは、特定のしやすさがまるで違います。勤続年数も「1年未満・1年以上3年未満・3年以上10年未満・10年以上」のような帯で十分です。細かく聞いておけば後で好きな粒度にまとめられる、という考え方は分析としては正しいのですが、回答者から見た安全度を下げます。細かく聞かれた時点で、回答者は「この会社は自分を特定できる情報を集めている」と受け取ります。
雇用形態も注意が必要な属性です。正社員が大半の職場で「契約社員」「派遣」「パート」を分けて聞くと、それだけで数人まで絞られる場合があります。人数の少ない区分は「その他」にまとめるか、そもそも聞かないという判断もあります。
「回答しない」という選択肢を用意する
すべての設問を必須にすると、答えたくない設問がある人はアンケート自体を離脱します。属性設問に「回答しない」を用意し、それを選んでも集計から除外されるだけで不利益が無いことを明記します。実際、この選択肢を入れると全体の回答数が増えることがあります。答えられる範囲だけ答えて送れるようになるからです。
必須にしてよいのは、集計の骨格になる設問だけです。目安として、必須は全体の半分以下に抑えます。設問が20問あって全部必須という設計は、回答者から見ると尋問に近くなります。
設問の作り方と、回答にかかる時間の設計
設問数と所要時間は、回収率に直接効きます。ここは感覚で決めず、実測してから配ります。
所要時間は実測して、冒頭に書く
設問を作り終えたら、事務局以外の数人に実際に答えてもらって時間を計ります。設問の意図を知っている人が答える時間より、初見の人が答える時間のほうが長くなります。目安として、選択式1問あたり10秒前後、自由記述1問あたり2分前後を見ておくと大きく外しません。
計った時間は冒頭に書きます。「所要時間の目安は5分です」と書くのと、書かないのとでは、開いた人が最後まで進む割合が変わります。書かない場合、回答者は最悪を想定します。そして、書いた時間より実際が長いと、次回から信用されません。多めに書いておくくらいでちょうどよいです。
設問の順序で離脱が変わる
属性設問を冒頭に全部並べる形式は、開いた直後に「特定されるかもしれない」という警戒を最大化します。属性は最後に回すという選択肢があります。本題の設問に答えてもらった後で属性を聞くと、そこまでの入力が惜しくなるため離脱が減り、かつ最初の印象が「意見を聞かれている」になります。
本題の中では、答えやすい設問を先に置きます。満足度のような尺度の設問から入り、具体的な状況の設問に進み、自由記述で締める。自由記述を冒頭に置くと、そこで手が止まって離脱します。
尺度は偶数か奇数かを決めておく
5段階のように中央がある尺度は「どちらでもない」が集まりやすく、4段階のように中央が無い尺度は必ずどちらかに寄せさせます。どちらが正しいということはなく、目的次第です。改善点を洗い出したいなら中央を無くしたほうが情報量は増えますが、回答者にとっては答えづらくなります。組織全体の傾向を経年で追う調査なら、途中で段階数を変えると比較できなくなるので、最初に決めて固定します。
誘導的な聞き方を避ける
「新しい制度は働きやすさの向上に役立っていますか」という設問は、役立っている前提が入っています。「新しい制度は、あなたの働き方にどのような影響がありましたか」と聞けば、否定的な回答も同じ重みで拾えます。社内アンケートは実施する側が施策の当事者であることが多く、無意識に肯定を引き出す設問になりがちです。設問を作った人以外の目で読み直す工程を、必ず1回入れてください。
結果の見せ方で、次回の回答が決まる
集計して終わりにすると、次回の回収率と回答の質が落ちます。返し方は実施設計の一部です。
全社に返すもの、経営に返すもの、部署に返すものを分ける
同じ集計結果を全員に同じ形で配る必要はありません。全社には全体傾向と、実施することになった施策を返します。経営層には部署別の数字を含む詳細を返します。各部署の長には、自部署の集計と全社平均との比較を返します。ここで、先に決めた最小集計人数の線を必ず守ります。5人未満の単位の数字は、部署の長にも出しません。
部署別の数字を所属長に返すかどうかは、事前に回答者へ伝えた内容と一致していなければなりません。冒頭で「所属長には部署単位の集計を共有します」と書いていないのに共有すると、約束を破ったことになります。この約束違反は、社内では驚くほど速く伝わります。
自由記述は原文で回さず、要約と分類で返す
自由記述をそのまま一覧にして配るのは避けます。特定のリスクが最も高い形だからです。分類して件数を出し、代表的な傾向を編集した文章で示します。原文をどうしても引用したい場合は、固有名詞と部署名を落とし、文体を整えたうえで、複数の記述をまとめた形にします。
要約する作業には主観が入るので、要約した人を明示しておきます。誰が編集したのか分からない要約は、回答者から見ると都合の悪い部分が削られている可能性のあるものになります。事務局が編集したと明記されていれば、少なくとも責任の所在ははっきりします。
「変えたこと」と「変えないと決めたこと」を両方返す
結果を返す文書の最後には、この調査を受けて実際に動いたことを書きます。ここが空欄だと、次回のアンケートは形式的な作業になります。全部の要望に応えることは不可能なので、変えないと決めた項目も、理由をつけて書きます。理由が予算や制度上の制約であれば、そう書きます。
現場では、変えられない理由を説明した項目のほうが、あいまいに「検討します」とされた項目より受け入れられるという話をよく聞きます。回答者が納得しないのは、要望が通らないことではなく、要望がどこかで消えたことです。
返すまでの期限を決める
集計から結果の共有までが空くほど、回答者の記憶から調査そのものが消えます。目安として、回収の締切から1か月以内には何らかの形で返します。詳細な分析が間に合わないなら、速報として全体の数字だけでも先に出します。「集計中です」という状態が数か月続くのが、最も信頼を落とす形です。
回収率を上げるためにやること
回収率は、督促の回数では上がりません。上がるのは、答えやすさと、答える理由が伝わっているときです。
回答者にアカウント登録や再ログインを求めない
社内システムの認証を経由しないと回答できない形にすると、そこで手が止まる人が出ます。とくに、普段パソコンを使わない部門や、共有端末で作業している現場では影響が大きくなります。パスワードを思い出せない、スマートフォンで開いたら認証が通らない、という理由で回答されないぶんは、そのまま回収率の目減りになります。
同時に、認証を経由する形は「誰が回答したかシステム上は分かる」という状態を作ります。未回答者を特定して督促するために認証を入れる、という設計はよくありますが、匿名性とは正面から衝突します。両立させたいなら、回答の受付と、回答済みかどうかの記録を分けて持つ設計が必要です。ここは道具の仕様を確認してから決めてください。
回答者側に登録を求めない形で受け付ける考え方は、社外向けの受付でも同じです。参加者の負担を最小にする設計はイベントの申し込みや講座の受講申し込みでも共通の論点になります。
スマートフォンで完結するか実機で確認する
現場部門の回答率が低い調査は、たいていスマートフォンでの操作性に問題があります。設問が横に長い表形式になっている、選択肢が小さくて押しづらい、途中保存ができないので中断すると最初からになる。この3つはよく起きます。実施前に、パソコンだけでなくスマートフォンの実機で最後まで通してください。
締切と告知の回数を決める
告知は最低3回です。開始時、締切の数日前、締切当日。それぞれで文面を変えます。開始時は目的と所要時間、締切前は残り日数と現在の回収状況、当日は最終案内です。回収状況を全体の数字で共有するのは効果があります。「現在の回答率は62%です」という情報は、まだ答えていない人の背中を押します。
やってはいけないのは、未回答者を名指しして個別に督促することです。匿名調査で個別督促が来た時点で、回答者は「誰が答えたか把握されている」と理解します。督促は必ず全員宛てに、「すでに回答された方はご放念ください」を添えて送ります。
業務時間内に答えてよいと明示する
回答は業務です。業務時間内に答えてよいと明示しないと、忙しい部署ほど後回しになり、結果として現場の声が集まらなくなります。所属長にもその旨を伝えて、時間を確保してもらいます。回収率が部署によって大きく偏る調査は、この一手で改善することがあります。
受け付けたあとに回すための道具の考え方
社内アンケートは「集めて数えて終わり」の片道の受付に見えますが、実際にはそうならない場面が出てきます。ここを設計に入れておくと、後で慌てずに済みます。
匿名のまま個別に返す必要が出ることがある
自由記述に、ハラスメントの示唆や安全に関わる報告が入ることがあります。匿名で集めた以上こちらから連絡はできませんが、回答者側から名乗り出られる導線だけは用意しておきます。具体的には、アンケートとは別に、任意で連絡先を書ける窓口の URL を案内に添える形です。アンケート本体に連絡先欄を作ると、匿名性の約束が崩れます。別の入口にするのが要点です。
社外からの相談や申告を受ける窓口も構造は同じで、受け付けたあとに担当を割り当て、対応状況を記録する道具が要ります。この部分の考え方は問い合わせの受付や修理・サポートの受付に整理されています。
集計は表計算ソフトで足りるが、履歴は残らない
回答を書き出して集計するだけなら表計算ソフトで十分です。むしろ、そのほうが速いです。困るのは、複数の担当者で作業を分けたときと、翌年に同じ調査をするときです。誰がどのセルを直したのか、どの記述をどう分類したのかが残らないため、判断の根拠を後から追えません。
年に1回の調査であっても、前年の分類基準が残っていないと経年比較ができません。設問文、選択肢、分類基準、集計の除外ルールをまとめた文書を、集計データとは別に必ず残してください。担当が代わったときに効きます。
回答の保存場所と削除の期限を決める
回答データをどこに置き、誰がアクセスでき、いつ消すのかを決めます。集計が終わった原文を残し続ける必要があるかは、目的次第です。経年比較のために集計値だけを残し、自由記述の原文は一定期間で削除するという設計も現実的です。削除の期限は、回答者に伝えた保存期間と一致していなければなりません。
保存先が個人のパソコンやメールの添付ファイルに散らばるのは避けます。実務でよく起きるのは、集計担当が書き出したファイルを自分の端末に置いたまま異動する形です。組織として管理できていない状態になります。
道具を選ぶときに見る順番
社内アンケートに使う道具は、まず「回答者に何を求めるか」で絞り込みます。ログインを求めるか、URL だけで答えられるか。次に「集めた後に何をするか」で絞ります。集計だけか、個別の対応が発生しうるか。この順で見ると、候補はかなり絞れます。
比較の材料としては、表計算ソフトへの書き出しを軸に運用する場合の考え方がGoogleフォームとの比較に、自社サイトの中にフォームを置いて運用する場合の考え方がContact Form 7との比較に、社内のアカウント基盤の上でフォームを配る場合の考え方がMicrosoft Formsとの比較にまとまっています。いずれも、いま使っているものを続けたほうがよい条件を先に書いてあります。なお、他社の仕様や上限、料金は変更されます。実際に選ぶときは各サービスの公式ドキュメントで、確認した日付とあわせて控えておいてください。
受付の画面と管理側の動きを先に見ておきたい場合は動くところを見るが早く、機能の一覧はできることにあります。費用の考え方は料金、細かい疑問はよくある質問にまとまっています。
受付という仕事の構造から見た、社内アンケートの位置づけ
用途別に整理された受付の一覧を並べて眺めると、社内アンケートがどういう性質の仕事なのかがはっきりします。採用の応募受付、助成金・公募の受付、会員の入会申し込み、施設利用の申請。これらはいずれも、送信されたあとに審査や返信という往復が発生します。届いた時点が仕事の始まりです。
社内アンケートは、この分類では珍しく片道に見える受付です。回答を集め、集計し、結果を出したら終わる。個別に返信する相手がいません。だからこそ、フォームを作る側の関心は設問の作り込みに集中し、送信されたあとの設計が手薄になります。
しかし実際には、社内アンケートには往復の受付と共通する要素が2つあります。1つは、結果を組織に返すという工程が必ずあること。返さない調査は次回から機能しません。もう1つは、自由記述の中に個別対応が必要な内容が混ざりうることです。この2つがあるため、完全な片道にはなりません。
そして、片道に見えるがゆえに、社内アンケートは特定のリスクを最も見落としやすい受付でもあります。外部からの応募や申し込みでは、氏名や連絡先を最初から預かる前提なので、保存先とアクセス範囲を決める工程が自然に入ります。ところが社内アンケートは「無記名だから個人情報ではない」と扱われがちで、その工程が飛ばされます。実際には、組織図という照合先が常に手元にある環境で集めているぶん、外部からの受付より特定は容易です。ここが逆転している点を押さえておく必要があります。
したがって、社内アンケートの設計は次の順で決めるのが合理的です。第1に、どの粒度で結果を出すか。第2に、その粒度に必要な属性だけを聞く。第3に、誰が何を見るかを冒頭に書く。第4に、設問を作る。第5に、返し方と期限を決める。設問から着手すると、この5つのうち4つが後回しになります。
受付の仕事は、フォームの URL を配った瞬間ではなく、送信ボタンが押された瞬間から始まります。社内アンケートも例外ではありません。集めた回答をどう扱い、誰に何を返し、どこに残し、いつ消すのか。送信されたあとの道具がそろっているかどうかで、同じ設問でも集まる中身が変わります。次に社内アンケートを実施するときは、設問一覧を開く前に、この5つの順序を1枚の紙に書き出してみてください。
Q1. 社内アンケートは無記名にすれば本音が集まりますか?
無記名は前提であって、それだけでは足りません。部署と役職と勤続年数を並べて聞くと、組織によっては数人まで絞られ、回答者はそれを計算したうえで書きます。効くのは、誰が原文を読み、所属長には何が共有され、いつまで保存されるのかを冒頭に明記することです。開示範囲がはっきりしているほど、具体的な回答が集まります。
Q2. 集計するとき、何人以上なら数字を公表してよいですか?
実務では5人以上を線にする例が多いです。5人未満の単位は他部署と合算するか非公表にします。あわせて、単独では安全でもクロス集計にすると人数が減る点に注意が必要です。公表するクロス集計の組み合わせを実施前に列挙し、いずれのセルも最小人数を満たす場合に限る、と文書にしておくと運用がぶれません。
Q3. 回答率が上がらないとき、まず何を見直せばよいですか?
督促の回数ではなく、答えやすさを先に見ます。所要時間を冒頭に書いているか、スマートフォンの実機で最後まで通せるか、回答にログインや再認証を求めていないか、業務時間内に答えてよいと明示しているか。この4点で改善することが多いです。未回答者を名指しで督促するのは、匿名性への信頼を壊すので避けてください。
Q4. 自由記述の内容を、そのまま社内に共有してもよいですか?
避けたほうが安全です。文体や語彙、記述に含まれる具体的な出来事から書き手が推測されます。分類して件数を出し、傾向を編集した文章で返す形にしてください。原文を引用する場合は、固有名詞と部署名を落とし、複数の記述をまとめた形にします。要約した担当を明示しておくと、都合よく削られたという疑念を避けられます。
