不動産会社の受付で、問い合わせをエクセルの表で管理している会社は今も多くあります。物件名、問い合わせ日、氏名、連絡先、状況を並べた1枚のシートで、長く回してきた会社ほどその表は太くなっています。「不動産会社 問い合わせ エクセル 管理 移行」と調べる人が迷っているのは、移ること自体ではなく、これまでの記録をどこまで持っていけばよいのかという点です。この記事では、エクセルのまま続けてよい状況の見分け方、崩れる合図、移行の前に決める5つのこと、過去の添付と個人情報の扱い、そして二重管理をいつ終えるかまでを順番に並べます。
エクセル管理が回っているうちは、無理に変えなくてよい
先に書いておくと、エクセルでの管理は不動産の受付と相性が悪くありません。物件ごとに行を足し、状況を書き込み、月末に並べ替えて数える。この使い方で困っていないなら、変える理由はありません。
エクセルの強みは3つあります。第1に、列を自由に足せることです。会社ごとに追いたい項目は違いますが、エクセルなら思いついた項目をその場で足せます。第2に、全員が使い方を知っていることです。教育の手間がかかりません。第3に、費用がかからないことです。すでに社内にあるものを使うだけで済みます。
店舗が1つで、問い合わせが週に数件、扱う人が1人か2人であれば、この3つの強みがそのまま効きます。この規模で仕組みを入れ替えても、得られるものは多くありません。
無料で始められる手軽さから、フォームで受けた回答を表計算ソフトへ流し込んで管理している会社も多くあります。件数が少ないうちは十分に回ります。表計算で追える範囲と、追えなくなる境目についてはGoogleフォームとの比較に整理されているので、いまの使い方がどちらに近いかを確かめる材料になります。
エクセルが崩れる合図は、4つに絞られる
回らなくなる兆候は、だいたい決まっています。次に挙げるもののうち2つ以上が当てはまるなら、移行を考える段階です。
同時に開けない
いちばん分かりやすい合図です。誰かがファイルを開いていると、他の人は読み取り専用でしか開けません。内見の予約を入れようとして、担当者がファイルを閉じるのを待つ。この待ち時間が日常になっているなら、表が業務の速度を決めている状態です。
共有の設定で同時編集できるようにしている会社もありますが、行の挿入や並べ替えが重なると、思わぬ場所が書き換わります。誰かの操作で行がずれ、状況の列と氏名の列が1行ずれる。この種の事故は、起きたことに気づくまで時間がかかります。
色分けが意味を失う
エクセルの管理は、たいてい色分けから始まります。返信済みは緑、内見予約は黄色、見送りはグレー。運用している人には自然な取り決めですが、色の意味はファイルのどこにも書かれていません。
新しく入った人が色を知らずに塗る、途中で色の意味が増える、印刷したら区別がつかない。こうして色分けは崩れます。状況を色ではなく列の値として持つべきだと気づいた時点で、エクセルの中で解決するか、外へ出すかの分かれ道になります。
添付が別フォルダに散る
不動産の受付では、写真と書類が必ず届きます。エクセルの表にはファイルを置けないので、共有フォルダに保存し、ファイル名で表と結びつけることになります。
この結びつきは、担当者の頭の中でしか成立していません。フォルダの中が日付だけのファイル名で埋まると、どの問い合わせの写真か分からなくなります。担当者が休んだ日に別の人が探すと、見つからず、相手に再送を頼むことになります。一度送ったものを再送させられた相手は、その会社の受付を雑だと感じます。
外出先から見られない
不動産の仕事は、店舗にいる時間より現地に出ている時間のほうが長くなる日があります。内見の案内の合間に問い合わせが届いても、共有フォルダのエクセルを外出先で開くのは現実的ではありません。
結果として、外出中に届いた分は店舗に戻ってから処理されます。戻るのが夕方なら、その日の午前に届いた問い合わせは半日以上待つことになります。急ぎの内見の希望は、その間に他社で予約が入ります。
外出先で見られないことは、エクセルの欠点というより使い方の前提の問題です。ただ、この前提が業務の速度を決めているなら、合図として数えます。
誰がいつ更新したか分からない
行の内容が変わっていても、誰が変えたのかは残りません。空室だった物件が申し込み済みになっていても、いつ誰がそう書き換えたのかを追えません。
不動産の場合、この履歴の欠落は実害につながります。二重返信が起きたとき、どちらが先に返したのか、どの時点の情報にもとづいて返したのかが分からないためです。返信したかどうかが表に残らないと、二重返信と返し忘れは必ず起きます。
移行の前に決める5つのこと
移行が長引く会社は、決めごとを後回しにして作業から始めています。先に決めます。
どこまで持っていくか
最初の決めごとです。原則として、過去の記録を全部持っていく必要はありません。判断の基準は「これから使うかどうか」の一点です。
契約中の入居者に関する記録は使うので持っていきます。進行中の問い合わせも持っていきます。一方、3年前に見送りになった問い合わせの行は、これから使う場面がありません。持っていくのではなく、保管期間に従って処分する対象です。
移行は、溜まった記録を整理する数少ない機会になります。全部を運ぶと決めた瞬間に、この機会が失われます。
列をそのまま持っていかない
長く使ったエクセルには、使われなくなった列が残っています。かつて追っていた項目、担当者が個人的に足したメモ欄、一度も埋まっていない列。
移行の前に列を1つずつ見て、直近1年で実際に埋まっているかを確かめます。埋まっていない列は運びません。運ぶと、新しい仕組みの中でも空欄のまま残り、使わない項目が並ぶ画面になります。
逆に、エクセルには無いが必要だった項目もあります。受付の日時、一次返信の日時、担当者名、経路。この4つが列として無い会社は多くありますが、移行を機に足しておくと、あとから件数や返信の速さを数えられるようになります。
1件の定義をそろえる
エクセルの行が何を表しているかは、実は会社の中でも揺れています。同じ人からの2回目の問い合わせを新しい行にしている担当者と、既存の行に追記している担当者が混在しているのが普通です。
移行の前に、1件をどう数えるかを決めます。物件ごとに数えるのか、人ごとに数えるのか。同じ人が同じ物件について何度も送ってきたときはどうするのか。ここを決めずに運ぶと、移行後の件数が前と比べられなくなります。
期間の線を、日付で引く
「最近の分だけ持っていく」という決め方は曖昧です。日付で線を引きます。移行の日から遡って1年分、あるいは直近の繁忙期から、というように、誰が見ても同じ範囲になる形にします。
線を引いたら、線より前の分をどう扱うかも同時に決めます。読み取り専用にして残すのか、保管期間に従って処分するのか。放置すると、いつまでも2か所を見る運用が残ります。
二重管理をいつ終えるかを、先に決める
移行でいちばん多い失敗が、エクセルと新しい仕組みの両方を使い続けることです。念のためエクセルにも書いておく、という運用が始まると、どちらが正しいのか誰にも分からなくなります。
切り替えの日を先に決めます。その日以降に届いた問い合わせは新しい側だけに記録し、エクセルには書かない。進行中の案件だけは両方に残るので、進行中の案件が片づくまでの期間を見込んで、エクセルを読み取り専用にする日も決めておきます。
列の棚卸しを、実際にどう進めるか
決めごとの中で、いちばん手が動く作業が列の棚卸しです。手順を4つに分けます。
第1に、いまのシートの列名を全部書き出します。横に長い表は、列名だけを縦に並べ直すと全体が見えます。
第2に、列ごとに直近の埋まり方を確かめます。直近1年で半分以上の行が空欄なら、その列は使われていません。
第3に、残す列を役割で分類します。相手を特定する情報、物件を特定する情報、状況を表す情報、日時、担当者、メモ。この6種類に分けると、新しい仕組みで何をどう持たせるかが決まります。
第4に、メモ欄に入っている内容を見ます。長く使った表では、メモ欄に重要な情報が集まっています。連帯保証人の状況、値引きの交渉経緯、鍵の受け渡しの取り決め。これらは本来それぞれの列であるべきものが、列がないためにメモへ流れ込んだものです。頻繁に出てくる内容は、移行後に独立した項目として持たせます。
この棚卸しは、移行のためだけの作業ではありません。何を記録すべきかを見直す作業でもあります。受け取ったあとに担当と状況を持たせて返信まで進める考え方はできることに整理されているので、列の設計と重ねて見ると決めやすくなります。
列の対応表を、1枚作っておく
棚卸しが終わったら、いまの列と移行後の持たせ方を1枚の表にします。この1枚があると、取り込みの作業でも、社内の説明でも迷いません。
| いまのエクセルの列 | 移行後の持たせ方 | 注意する点 |
|---|---|---|
| 問い合わせ日 | 受付の日時として自動で記録 | 手入力の日付は時刻が無いので、時間帯の分析には使えない |
| 氏名、連絡先 | 相手の情報として1か所に | 同じ人が複数の物件で登場する場合の扱いを決める |
| 物件名、部屋番号 | 対象の物件として選択式に | 表記のゆれを移行前に統一する |
| 状況(色分け) | 状況の選択肢として値で持つ | 色の意味を洗い出してから選択肢に落とす |
| 担当者 | 担当の割り当てとして持つ | 空欄のまま置かれた行が可視化される |
| メモ | やり取りの履歴と、独立した項目に分割 | 頻出する内容は独立した項目にする |
| 添付のファイル名 | 問い合わせのレコードに直接付ける | フォルダとの二重管理をここで終える |
表を作ってみると、いまの列がそのまま移せるものと、形を変える必要があるものに分かれることが分かります。形を変えるのは状況とメモと添付の3つで、残りはほぼそのまま移ります。難所が3つだと分かっているだけで、作業の見通しが立ちます。
物件名の表記ゆれは、移行前に片づけておく価値があります。同じ物件が「〇〇マンション」「〇〇マンション101」「〇〇マンション 101号室」と3通りで入力されていると、物件ごとの集計ができません。移行後に選択式にすれば以後のゆれは止まりますが、過去分は移行のときにそろえるしかありません。
過去の添付ファイルを、どう運ぶか
エクセルと別フォルダに散っている添付の扱いは、移行でもっとも手間がかかる部分です。ここで無理をすると移行そのものが止まります。
現実的な方針は、進行中の案件と契約中の案件の添付だけを運ぶことです。過去の見送り案件の添付は、そもそも保管期間の観点から処分の対象になっていることが多く、運ぶ理由がありません。
運ぶと決めたファイルは、どの案件のものかを1件ずつ確かめる必要があります。ファイル名から判別できない場合、中身を開いて確かめることになります。この作業量は、対象の件数に比例します。50件程度なら数時間で終わりますが、数千件あるなら運ばない判断のほうが現実的です。
運ばないと決めた分をどうするかも決めます。フォルダごと読み取り専用にして一定期間残す、保管期間が来たものから処分する、といった扱いを決めて、担当者を割り当てます。「あとで整理する」と決めた作業は、実行されません。
これから受けるものについては、添付が問い合わせのレコードに付いたまま動かない形にしておくと、フォルダとの二重管理が最初から発生しません。実際の画面でどう見えるかは動くところを見るで確かめられます。
書き出しと取り込みで、実際につまずく場所
作業そのものは書き出しと取り込みの繰り返しですが、不動産の受付データには特有のつまずきがあります。
第1に、電話番号です。エクセルは先頭の0を落とします。書き出したCSVを開くと「9012345678」になっている、という事故は必ず起きます。書き出す前に文字列として扱う設定にするか、書き出したCSVを表計算ソフトで開かずにそのまま取り込むかのどちらかで避けます。開いて保存し直した時点で、桁が壊れます。
第2に、日付です。「2月3日」のような表記が混ざっていると、年が失われます。西暦から書く形式に統一してから書き出します。和暦で入力されている行が混ざっている表も珍しくないので、書き出す前に日付の列を1度並べ替えて、極端に古い値と新しい値を目で確かめます。
第3に、セル内の改行です。メモ欄に長い経緯が改行つきで書かれていると、CSVの行が途中で割れることがあります。取り込んだあと件数が合わないときは、たいていこれが原因です。取り込む前と後で行数を数えて、一致するかどうかを必ず確かめます。
第4に、結合されたセルです。見やすさのために結合された見出し行や、物件ごとにまとめた結合が残っていると、そのままでは書き出せません。結合を解除してから作業します。
第5に、重複です。同じ人の同じ問い合わせが2行に分かれていることがあります。取り込んだあとに気づくと直すのが面倒になるので、書き出す前に氏名と物件名と日付で並べ替えて、隣り合う行を見比べます。
これらは地味ですが、確かめずに進めると取り込んだあとに1件ずつ直すことになります。書き出す前の30分が、あとの数時間を減らします。
個人情報を含む記録を移すときに、注意すること
問い合わせの記録には、氏名、連絡先、勤務先、本人確認書類が含まれます。移行の作業は、この情報が普段と違う場所を通る場面です。法律は、安全管理の措置について次のように定めています。
個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失又は毀損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。 出典: e-Gov
移行の作業で気をつける点を3つ挙げます。
第1に、書き出したファイルの置き場所です。エクセルから書き出したCSVが、担当者のパソコンのデスクトップに置かれたまま忘れられる事故がよく起きます。書き出す、取り込む、元のファイルを消す。この3つを1つの作業として扱い、途中で中断しない時間帯に行います。
第2に、作業する人の範囲です。移行の作業では、普段は見ない範囲の情報を1人が全部見ることになります。誰が作業するのかを決め、作業した記録を残します。
第3に、移行の前後で保管期間の決まりを変えるなら、変えたことを社内で共有することです。古い場所は3年、新しい場所は1年、という状態のまま両方が動いていると、どちらが正しいのか誰も答えられなくなります。
なお、個人情報の取り扱いは事案によって判断が変わります。実際の運用を決めるときは所管の窓口や専門家に確かめてください。制度の全体像は個人情報保護委員会の解説が出発点になります。
移行の手順を、4段階に分ける
決めごとがそろったら、作業に入ります。段階を分けると止まりません。
第1段階は、新しい側で受け口を作り、テストで数件流すことです。実際に自社の担当者が送信して、受け取り、返信するところまでを通します。ここで項目の過不足が分かります。
第2段階は、切り替えの日から新規の問い合わせを新しい側だけで受けることです。過去分はまだ運びません。新規だけを流すと、毎日の運用が回ることを先に確かめられます。
第3段階が、過去分の取り込みです。決めた期間と範囲の行を書き出して取り込みます。件数が多いなら、進行中の案件を先に、残りを後に、と分けます。
第4段階が、エクセルを読み取り専用にすることです。進行中の案件がすべて新しい側に移った時点で行います。この段階を実施しないまま数か月が経つと、二重管理が固定化します。
段階の途中で、過去の記録の整形に時間をかけすぎないことが要点です。整形が完璧でなくても、日々の運用が新しい側で回っていれば、目的の大半は達成できています。
社内の合意を、どう取っておくか
移行の作業そのものより難しいのが、社内の合意です。エクセルを長く使ってきた人ほど、その表に愛着と自信を持っています。
説明の順番を間違えないことが要点になります。「エクセルをやめます」から始めると、反対されます。実際に起きていた困りごとから始めます。ファイルが開けなくて待った、写真が見つからず再送を頼んだ、二重返信が起きた。この3つは、反対しそうな人自身が経験しています。
そのうえで、移行後もエクセルを使い続けることを伝えます。日々の記録だけを外に出し、集計と分析はこれまで通りエクセルで行う。この整理であれば、道具を取り上げられる話ではなくなります。
もうひとつ、移行の期間中に誰の作業が増えるかを先に共有します。過去分の取り込みは、受付の担当者ではなく、決めた1人か2人が行います。全員の日々の作業が増えるわけではないことを最初に言っておくと、抵抗が減ります。
現地に出ている時間が長い担当者には、スマートフォンから見られるかどうかが最大の関心事になります。エクセルのファイルを外出先で開くのは面倒なので、この点は移行の利点として伝わりやすい部分です。実機で開いて見せると、説明が一度で済みます。
移行が失敗する典型を、先に知っておく
止まる原因は、たいてい次の3つです。
1つ目は、全部を運ぼうとすることです。何年分もの記録を整えてから切り替えると決めると、整える作業が終わらず、切り替えの日が来ません。新規から始めて、過去分は後から運ぶ順番にすると止まりません。
2つ目は、いまの表を再現しようとすることです。エクセルで作り込んだ関数や色分けを、新しい側でそのまま再現しようとすると、どこかで必ず行き詰まります。エクセルでやっていたことのうち、何が業務に必要で、何が表の都合だったのかを分けます。色分けは表の都合であって、必要なのは状況が誰にでも同じ意味で読めることです。
3つ目は、切り替えの日を決めないことです。「準備ができたら移る」という進め方は、準備が終わりません。日を決めて、その日までに間に合う範囲で移るほうが、結果として早く終わります。
社内で全社的なグループウェアを使っていて、その環境の中で完結させたい会社もあります。社内利用と社外からの受付でどこが変わるかはMicrosoft Formsとの比較に書かれているので、選択肢のひとつとして見ておくと判断の幅が広がります。
移行したあとも、エクセルは使う
移行を「エクセルをやめること」と考えると、社内の抵抗が強くなります。実際には、エクセルは移行後も使い続けます。用途が変わるだけです。
移行後にエクセルが向いているのは、集計と分析です。受付の記録から月ごとの数字を書き出して、前年と比べる、物件ごとに並べる、店舗ごとに比較する。こうした一度きりの分析は、表計算ソフトのほうが自由に扱えます。
向いていないのは、複数人が同時に更新する日々の記録です。この部分だけを外に出し、分析は今まで通りエクセルで行う。この整理の仕方であれば、社内の説明も通りやすくなります。
オーナーへの報告資料も、エクセルで作り続ける場面が多く残ります。物件ごとの問い合わせ件数、内見の回数、成約までの経緯をまとめた資料は、相手の求める形に合わせて作る必要があるためです。日々の記録から必要な範囲だけを書き出して、体裁は表計算ソフトで整える。この分担であれば、記録の正確さと資料の自由さを両立できます。
書き出す範囲を決めるときは、オーナーに渡してよい情報かどうかを確かめます。問い合わせの件数や内見の回数は渡してよくても、問い合わせた個人の氏名や連絡先まで渡す必要があるかは別の判断になります。書き出しの手順に、渡さない列を落とす作業を組み込んでおくと、毎回考えずに済みます。
書き出しができるかどうかは、道具を選ぶときの条件に入れておきます。記録が外に出せない仕組みは、次に移るときに同じ苦労を繰り返すことになります。届いたものを受けて返す流れの全体像は問い合わせの受付に整理されているので、日々の運用と分析の境目をどこに置くかを考える材料になります。
移行の直後に確かめる4つのこと
切り替えた翌週に、確かめる項目を決めておきます。ここを飛ばすと、うまくいっていない部分に気づくのが1か月後になります。
第1に、届いたものが全部入っているかです。切り替え前の経路から届いていた分が、切り替え後に別の場所へ流れ込んでいないかを確かめます。サイトの複数の場所にフォームへの入口があると、古い側が1つだけ残っていることがあります。
第2に、通知が届いているかです。新しい仕組みからの通知が迷惑メールに振り分けられていて、誰も気づかないまま数日が過ぎる事故が起きます。切り替えの日に、受け取る全員の受信箱で実際に届いているかを確かめます。
第3に、一次返信までの時間が悪化していないかです。新しい操作に慣れるまでは、一時的に遅くなることがあります。1週間だけ数えて、元の水準に戻っているかを見ます。戻らないなら、操作の手数が多すぎるか、担当の決め方が変わってしまったかのどちらかです。
第4に、進行中の案件が両方に残っていないかです。切り替えの日をまたいだ案件は、エクセルと新しい側の両方に記録が残ります。片方に寄せる作業を、切り替えの週のうちに終わらせます。ここを先送りすると、二重管理が始まります。
この4つを確かめる担当を1人決めて、切り替えの翌週に時間を取ります。1時間あれば足ります。
移行の判断は、件数ではなく人数で決まる
最後に、移るかどうかの判断の軸を整理します。
判断の材料として使いやすいのは、問い合わせの件数ではなく、その表を触る人の数です。1人で触っているうちは、エクセルでほぼ困りません。2人になると同時編集の待ちが生まれ、3人を超えると色分けの意味が揺れ始めます。店舗が増えて、パートやアルバイトが受付に入るようになった時点で、誰が何を見てよいかの線引きも必要になります。
もうひとつの軸が、記録の寿命です。問い合わせを受けて数日で終わる業務なら、記録が短命なのでエクセルで足ります。不動産の場合、契約に至った相手との関係は数年続き、その間に緊急連絡先の変更や設備の対応が積み重なります。長く生きる記録を、行の追記だけで管理し続けるのは無理があります。
3つ目の軸が、外から受ける量です。社内の申請だけを扱うなら、社内の仕組みで完結します。社外の相手が登録なしで送ってきたものを受ける割合が高いほど、受け口と記録が一体になっている形の価値が上がります。
この3つの軸のどれにも余裕があるなら、移行は先送りしてよい判断です。ただし、先送りする場合でも、いまのうちにやっておくと後が楽になることが2つあります。
1つ目は、受付の日時と一次返信の日時を列として持ち始めることです。手入力でも構いません。この2つが残っていれば、移行するかどうかを決めるときに、実際の数字で判断できます。残っていなければ、判断は体感に頼ることになります。
2つ目は、物件名の表記をそろえることです。移行するときにいちばん手間がかかるのがここなので、日々の入力の段階でそろえておくと、いざ移るときの作業が減ります。表記のゆれは放置するほど増えます。
この2つは、移行するかどうかに関わらず得になります。移らないと決めたとしても、返信までの時間が測れるようになり、物件ごとの集計ができるようになります。
この3つの軸で見て、いまのエクセルが持ちこたえているなら、無理に動かす必要はありません。持ちこたえていないなら、まず新規の受付から移し、過去分は範囲を絞って運ぶ。この順番を守れば、移行は数週間で片づきます。
移行を決めたときに最初にやることは、道具を探すことではありません。いまのシートの列名を書き出して、直近1年で埋まっている列だけに印を付けることです。この作業を1時間やると、自社の受付が実際に何を記録しているのかが分かります。多くの場合、想像していたより記録している項目は少なく、逆にメモ欄に押し込まれている情報が多いことに気づきます。
その結果を持って道具を見に行くと、比べる軸が具体的になります。「この6つの項目を持てるか」「状況の選択肢を自社の言葉で作れるか」「添付をレコードに直接付けられるか」「書き出しができるか」。この4つを確かめれば、選定はほぼ終わります。機能の一覧を端から比べる必要はありません。費用の見当をつけるときは、受付を触る人の数と月に受ける件数の2つを先に数えると、比べる軸が定まります。実際の金額は料金で確かめられます。
Q1. 問い合わせのエクセル管理は、どうなったら限界ですか?
4つの合図で判断します。誰かが開いていると他の人が編集できない、色分けの意味が人によって違う、添付ファイルが別フォルダに散って探せない、誰がいつ更新したか分からない。このうち2つ以上が当てはまるなら、移行を考える段階です。件数そのものより、その表を触る人の数が効きます。1人なら困りませんが、3人を超えると色分けの意味が揺れ始めます。
Q2. 過去の記録は、全部持っていくべきですか?
全部を運ぶ必要はありません。基準は「これから使うかどうか」の一点です。契約中の入居者と進行中の問い合わせは持っていき、数年前に見送りになった行は保管期間に従って処分します。移行は溜まった記録を整理する数少ない機会なので、全部を運ぶと決めた時点でその機会が失われます。範囲は「直近1年」のように日付で線を引き、誰が見ても同じになる形にしてください。
Q3. 添付ファイルはどこまで移せばよいですか?
進行中の案件と契約中の案件の分だけで足ります。過去の見送り案件の添付は保管期間の観点から処分の対象になっていることが多く、運ぶ理由がありません。運ぶと決めたファイルは、どの案件のものかを1件ずつ確かめる必要があるため、50件程度なら数時間で終わりますが、数千件あるなら運ばない判断のほうが現実的です。運ばない分の処分も担当者を決めてください。
Q4. エクセルと新しい仕組みを、しばらく併用してもよいですか?
併用の期間は決めておいてください。念のため両方に書く運用が始まると、どちらが正しいのか誰にも分からなくなります。切り替えの日を先に決め、その日以降の新規は新しい側だけに記録します。進行中の案件が片づいた時点で、エクセルを読み取り専用にする日も決めておきます。この日を決めないまま数か月が経つと、二重管理が固定化します。
Q5. 移行したら、エクセルは使わなくなりますか?
用途が変わるだけで、使い続けます。移行後にエクセルが向いているのは集計と分析です。月ごとの数字を書き出して前年と比べる、物件ごとや店舗ごとに並べるといった一度きりの作業は、表計算ソフトのほうが自由に扱えます。向いていないのは、複数人が同時に更新する日々の記録です。この部分だけを外に出す整理の仕方なら、社内の説明も通りやすくなります。
