デザイン事務所に届いた問い合わせが止まるのは、返す内容が難しいからではなく、誰が返すのかが決まっていないからです。全員の目に入るアドレスに通知が届き、全員が見て、全員が「誰かが返すだろう」と思う。この構図が続く限り、返信の速さは人の気の利き方に依存し続けます。この記事では、デザイン事務所の受付で担当を決める基準の作り方と、決めた担当を見える形にする方法を整理します。読み終えたときに、いまの窓口で誰が何を持っているのかを言える状態を目指します。
担当が決まっていない窓口で起きること
デザイン事務所が受けているのは、制作の相談と見積もりの依頼です。この二つは、受けた人がそのまま制作まで持つことが多い性質を持っています。つまり問い合わせの担当を決めることは、その仕事を誰が作るかを決めることとほぼ同じです。
にもかかわらず、多くの事務所で担当は決まっていません。共有のアドレスに通知が届き、手が空いている人が拾う、という運用になっています。人数が二人か三人のうちは、これでも回ります。回らなくなるのは、全員が制作で手一杯になったときです。
そのとき起きるのは二つです。誰も返さない返し忘れと、二人が別々の内容で返す二重返信。どちらも、担当が見える形になっていないことが原因です。
返し忘れは忙しい週に集中する
返し忘れは、暇な週には起きません。全員が制作の締切に追われている週に集中します。
理由は単純で、目の前の制作には締切があり、新規の問い合わせには締切が無いからです。締切の無い作業から後回しになるのは自然なことで、担当者の意識の問題ではありません。
だから対策も、意識ではなく仕組みに置きます。誰が持っているかを決め、その人以外は返さないと決め、決めた期限を超えたら見えるようにする。この三つがそろえば、忙しい週でも取りこぼしは減ります。
二重返信は信用に直接響く
二重返信は、返し忘れより表に出やすい事故です。同じ相談に対して、二人が別々の金額や納期を書いて送ると、相手からは事務所の中がまとまっていないように見えます。
デザイン事務所の場合、金額の根拠は工数の見積もりから作ります。見積もる人が違えば、数字も違います。「先ほど別の方から違う金額をいただいたのですが」と言われた時点で、その相談の主導権は失われます。
二重返信が起きる典型は、共有アドレスに届いた通知を二人が同時に見て、両方が「自分が返そう」と思う場面です。返し始める前に、誰が持つかを表明する場所が要ります。
もう一つ多いのが、電話で答えた内容とメールで返した内容が食い違う場面です。電話を受けた人がその場で概算を口頭で伝え、後日、別の人が正式な見積もりをメールで送る。金額が違えば、相手は口頭のほうを覚えています。電話で概算を言わない、と決めるか、言ったなら必ず記録に残す、と決めるかのどちらかが要ります。
返し忘れと二重返信は同じ原因から来る
一見すると逆の事故に見えますが、原因は同じです。誰が持っているかが見えていないこと、それだけです。
見えていないとき、忙しければ全員が譲り合って返し忘れになり、余裕があれば全員が拾って二重返信になります。人の性格や意識で結果が変わるだけで、構造は変わりません。
だから対策も一つで足ります。誰が持っているかを一箇所で見えるようにすること。片方だけを狙った対策、たとえば「返す前に声を掛ける」という運用は、声が届かない場所で作業している人には効きません。
振り分けの基準を三つに絞る
担当を決める基準は、複雑にすると運用されません。デザイン事務所で使いやすいのは三つです。
一つ目は、相談の種類です。印刷物、ウェブ、ロゴやブランド、パッケージ、といった分野で分けます。得意分野が人によって分かれている事務所では、これが最も自然な基準になります。
二つ目は、既存の取引先かどうかです。過去に取引のある相手からの相談は、その取引を担当した人が持ちます。経緯を知っている人が返すほうが速く、相手の満足度も高くなります。
三つ目は、順番です。上の二つで決まらないものは、当番制で機械的に振ります。曜日で分ける、届いた順に交代する、といった形です。
この三つを、上から順に当てはめます。分野で決まればそこで確定、決まらなければ取引履歴、それでも決まらなければ順番。判断に迷う時間がゼロになります。
順番を上から固定しておくことには、もう一つ効果があります。振り分けの結果に不満が出たときに、基準の話として議論できることです。基準が無いと、誰が持つかの相談が毎回その人の忙しさや気分の話になり、長引きます。
分野で分けるときの落とし穴
分野で分ける運用は、得意分野がはっきりしている事務所では効きます。ただし二つ落とし穴があります。
一つは、複数の分野にまたがる相談です。「ロゴを作って、それを名刺とウェブサイトに展開したい」という相談は、三つの分野にまたがります。この場合は、最も工数が大きい分野の担当が持つ、と決めておきます。最初に判断する人が迷わないように、優先順位を先に決めておくことが大事です。
もう一つは、特定の分野に相談が偏ることです。ウェブサイトの相談が全体の6割を占めるような状態だと、その担当だけが常に手一杯になります。この場合は、分野の基準を一時的に外して、順番で振るほうが回ります。
偏りは数えないと気づきません。分野ごとの件数を月に一度数えておくと、基準を見直す時期が分かります。
当番制を実際に回すコツ
当番制は、公平に見えて運用が崩れやすい方式です。崩れる理由は、当番の日に別の仕事が入ることです。
崩さないためには、当番の範囲を「返信を出すこと」ではなく「担当を決めること」に限定します。当番の人は、届いたものを読んで、誰が持つかを決めるだけ。自分が持つとは限りません。この形なら、当番の負荷は一件あたり数分に収まります。
決める人と返す人を分けると、返す人が決まらないまま宙に浮く危険がありますが、これは決めた時点で相手の名前を記録に書けば防げます。
振り分けをいつ行うか
基準と同じくらい大事なのが、いつ振り分けるかです。ここを決めないと、基準があっても運用されません。
方式は二つあります。届いた瞬間に振る方式と、時間を決めてまとめて振る方式です。
届いた瞬間に振る方式は、返信が速くなります。ただし、制作の作業が細かく中断されます。デザインの作業は集中が切れると戻すのに時間がかかるため、一日に何度も中断されると制作の効率が落ちます。
時間を決めてまとめて振る方式は、制作を止めません。朝の始業時と昼過ぎの二回、といった形です。この方式でも、遅れは最大で半日程度に収まります。急ぎの相談だけ通知の扱いを変えれば、実務上の問題はほとんど起きません。
デザイン事務所のように制作の集中を守りたい業種では、まとめて振る方式のほうが合います。振る回数は一日二回で足り、繁忙期でも三回あれば十分です。
急ぎだけを通す仕組みを作る
まとめて振る方式の弱点は、急ぎの相談が半日待たされることです。これを補うには、急ぎだけを別に通す仕組みを作ります。
一つは、フォームの設問に納期を置き、期日が近いものだけ通知の宛先を変えることです。条件によって通知先を分けられる道具なら設定できます。
もう一つは、電話を残すことです。本当に急ぐ相手は電話をかけてきます。電話番号をサイトに載せておくことは、急ぎの経路を確保することでもあります。載せたくない事情がある場合は、フォームの冒頭に「お急ぎの場合は件名に急ぎとお書きください」と書いておくだけでも、ある程度は仕分けられます。
相談の規模でも担当を分ける
分野と取引履歴に加えて、もう一つ使える軸が相談の規模です。
小さな相談と大きな相談では、必要な手数がまったく違います。既存データの文字を差し替える依頼は、返信も制作も短時間で終わります。ブランド全体を作り直す相談は、打ち合わせを重ねる前提になります。
この二つを同じ人が同じ日に処理しようとすると、大きいほうに引きずられて小さいほうが後回しになります。小さい相談は金額こそ小さいものの、件数が多く、返信が速ければそのまま受注になります。取りこぼすと積み上がった機会を失います。
対処は、小さい相談を専門に処理する時間帯を作ることです。一日30分を確保して、その時間で小さい相談を全部返す。大きい相談は別の時間に、腰を据えて扱う。この分け方をすると、両方が止まらなくなります。
規模の判断を最初の読みで済ませる
規模で分ける運用の前提は、届いた時点で規模が分かることです。分からないと、開いて読んで初めて判断することになり、振り分けの時間が伸びます。
フォームの設問で、作りたいものの種類と、既存のものの修正かどうかを聞いておけば、開く前に規模の見当が付きます。設問が無い場合は、件名や冒頭の一行から推測することになり、精度が落ちます。
規模の判断を最初の読みで済ませられるかどうかは、フォームの設問設計にかかっています。振り分けの運用を整えるときは、設問の側も一緒に見直すのが効率的です。
電話や紹介で来た相談も同じ場所で振る
デザイン事務所の相談は、フォームだけから来るわけではありません。紹介、電話、名刺交換の場、既存の取引先からの追加依頼と、入り口がいくつもあります。
このとき起きるのが、フォームから来たものだけが振り分けの対象になり、それ以外は受けた人がそのまま抱える、という分断です。抱えた人が忙しければ、その相談は誰にも見えないまま止まります。
現実的な対処は、入り口が何であっても、同じ場所に記録を作ることです。電話で受けた相談を、受けた人が同じフォームに代理で入力します。入力の手間は2分ほどで、そのぶん振り分けの対象に乗ります。設問に「受付の経路」を一つ足しておくと、あとから経路ごとの件数も数えられます。
紹介で来た相談は、紹介元との関係があるため、代表が持つのが自然な場合もあります。その場合も記録は作ります。記録が無いと、代表が抱えていること自体が他の人に見えません。
担当を決めても動かないときに疑うこと
基準を作り、担当を決め、見える形にしても、返信が遅いままの相談が残ることがあります。このとき疑う場所は三つです。
一つ目は、担当が持っている件数です。一人が同時に抱えられる相談には限りがあります。制作を進めながら並行して扱えるのは、多くて5件程度です。それを超えると、どれも進まなくなります。件数を数えて、偏っていたら振り直します。
二つ目は、外部への確認が返ってきていない可能性です。印刷会社や外注先に投げたまま返答が無いと、担当は待っているつもりで止まっています。確認中の状態が何日続いているかを見れば分かります。
三つ目は、その相談を担当が受けたくないと感じている可能性です。条件が厳しい、相手の要求が読めない、といった理由で、着手が後ろにずれます。この場合は担当を替えるか、受けないと決めるかの判断が要ります。放置が最も悪い結果になります。
振り分けが効いているかを数える
振り分けの運用を変えたら、効果を確かめます。見るのは三つです。
一つ目は、届いてから担当が決まるまでの時間。まとめて振る方式なら、半日以内に収まっているはずです。
二つ目は、担当ごとの件数の偏り。特定の人に集中していないかを見ます。
三つ目は、返信していないまま7日以上経っている件数。これがゼロに近づいていれば、振り分けと追う工程が回っています。
数え方は手作業で構いません。30件ほど数えれば傾向は見えます。件数が増えて手作業で追えなくなったら、そこが道具を見直す時期です。
代表に集中させない
小規模なデザイン事務所でよく見るのが、代表がすべての問い合わせを見て、すべての見積もりを作っている状態です。品質はそろいますが、代表が制作で手を離せない期間は全部が止まります。
この構図を崩すには、代表しかできない部分と、他の人でもできる部分を分けます。デザイン事務所の場合、分けやすいのは次の形です。
一次返信を出すことは、誰でもできます。受け付けた事実と、いつまでに正式な回答を出すかを伝えるだけだからです。仕様の確認も、聞く項目が決まっていれば誰でもできます。印刷会社への見積もり依頼も、書式が決まっていれば任せられます。
代表が持つべきなのは、工数の見積もりと、受けるかどうかの判断です。ここは経験に依存する部分なので、他の人に渡すには時間がかかります。
この分け方をすると、代表の作業は相談一件あたり10分ほどに縮みます。縮んだぶん、制作の合間に差し込めます。
判断の基準を書き出すと渡せる範囲が広がる
代表が持っている判断を、少しずつ他の人に渡していくには、判断の基準を言葉にする必要があります。
たとえば「受けない相談」の条件を書き出します。予算が一定額を下回るもの、納期が2週間を切っていて既存の制作と重なるもの、対応していない分野のもの。この三つを書いておけば、当番の人が一次判断できます。
書き出すのは一度に全部でなくて構いません。相談が来るたびに、代表が判断した理由を一行メモしておき、たまったところで基準にまとめます。この作業を数か月続けると、渡せる範囲が目に見えて広がります。
担当が決まったことを相手に伝える
事務所の内側で担当を決めたら、その事実を相談の相手にも伝えます。伝えるかどうかで、そのあとの往復のしやすさが変わります。
一次返信に担当者の名前を書いておくと、相手は次に誰に連絡すればよいかが分かります。共有アドレスからの返信で名前が無いと、追加の質問をするときに宛先が分からず、電話をかけることになります。電話は受ける側の作業を止めるので、名前を書くだけで両方の手数が減ります。
途中で担当が替わる場合も、替わったことを伝えます。伝えないまま別の人が返すと、相手は事務所の中で情報が共有されていないと感じます。「担当が替わりましたが、これまでの経緯は引き継いでおります」という一文があるだけで、印象が変わります。
名前を出すことに抵抗がある場合
小規模な事務所では、担当者の個人名を出すことに抵抗がある場合があります。名前を出すと、その人が退職したときに問い合わせが宙に浮く、という心配です。
その場合は、名前ではなく役割で書きます。「印刷物担当」「ウェブ担当」といった書き方です。役割で書いておけば、人が替わっても文面は変わりません。
ただし、打ち合わせに進んだ段階では名前を出します。会って話す相手の名前が分からない状態は、相手にとって不安の材料になります。
外注のデザイナーが入るときの線引き
デザイン事務所の多くは、繁忙期に外部のデザイナーやコーダーに制作を出しています。このとき、問い合わせの担当をどこまで外に出すかは、先に決めておく必要があります。
原則として、相談の相手とのやり取りは事務所の側が持ちます。外注先が直接やり取りすると、金額や納期の合意が事務所の知らないところで変わります。
ただし、制作の途中で技術的な確認が必要になる場面はあります。この場合は、事務所の担当が間に入るか、外注先を同席させるかを、案件ごとに決めます。決めないまま進めると、相手が誰に連絡すればよいか分からなくなります。
記録の共有範囲も決めます。問い合わせの記録には、相手の連絡先や事業の内容が含まれます。外注先に渡すのは、制作に必要な部分だけにするのが安全です。
個人情報取扱事業者は、個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合は、その取扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。 出典: 個人情報保護委員会
どこまでが必要かつ適切な監督にあたるかは、事務所の状況によって変わります。所管の窓口や専門家に確かめてください。
記録の見える範囲を人によって変える
外注先が制作に入る案件では、記録を全部見せるか、一部だけ見せるかを選べる形になっていると運用が楽になります。全部見せると情報の管理が緩くなり、何も見せないと事務所の担当が転記する作業が発生します。
このあたりで何ができるかは道具によって変わります。できることの一覧で、記録を見られる人を分けられるかどうかを確かめておくと、外注を使う前提の運用が組みやすくなります。
担当を見える形にする
基準を決めても、決めた結果が見えなければ意味がありません。見える形にするために必要なのは、三つの情報です。
誰が持っているか、いまどの段階にあるか、いつまでに返すか。この三つが一覧で見られる状態が、担当を決めることの完成形です。
段階は、未対応、確認中、返信済み、完了の四つで足ります。確認中を独立させるのが大事な点で、これがないと、遅れているのか外部の返答を待っているのかが区別できません。
いつまでに返すかは、相談の種類ごとに目安を決めておきます。既存データの修正は1営業日、新規の制作は3営業日、といった形です。目安を超えたものが色や並び順で分かるようになっていれば、朝に一度見るだけで手当てができます。
受信箱では担当が見えない
多くの事務所が使っている受信箱は、この三つを持てません。誰が持っているかは書けず、段階も分からず、期限も見えません。
補うために、メールにフラグを付ける、件名に担当者名を足す、別の表に転記する、といった手が使われます。どれも動きますが、二重管理になるため、片方が更新されない状態が必ず生まれます。
判断の目安は、表の行を手で色分けし始めたときです。色分けは、道具が持てない情報を人が補っている状態を意味します。集めるところは無料の道具で十分でも、集めたあとの状態を持てるかどうかは別の話です。Googleフォームとの比較では、この集めたあとの扱いを軸に違いが整理されています。
人数が増えたときに要る仕組み
一人で回している事務所では、担当を決める必要はありません。全部が自分だからです。二人になった時点で、決める必要が生まれます。
三人を超えると、決めるだけでは足りなくなり、決めた結果を全員が同じ場所で見られる必要が出てきます。口頭で共有していると、外出している人に伝わりません。
送信されたあとの道具がそろっているかどうかは、この人数の段階で効いてきます。実際の動きは動くところを見るで確かめられます。
一人の事務所でも担当を決める意味はある
人数が一人であれば、担当を決める必要は無いように見えます。実際、返し忘れと二重返信のうち、二重返信は起きません。
それでも決める価値があるのは、自分と自分の別の役割を分けるためです。一人の事務所では、制作をする人と、窓口を回す人と、経理をする人が同じです。この三つを同じ時間の中で混ぜると、いちばん締切の遠い窓口の仕事が消えます。
対処は、窓口の役割に時間を割り当てることです。一日30分、朝の始業直後に窓口の時間を置く。その時間は制作をしないと決める。この割り当てが、一人の事務所における担当の決め方です。
記録も同じ理由で要ります。自分が持っていることは自分には自明ですが、次に何をする予定かは一週間後の自分には分かりません。記録は他人のためだけのものではありません。
二人目が入る前に形を作っておく
一人で回している事務所が二人になるとき、最も混乱するのが窓口です。制作は分担しやすいのですが、窓口は「これまで代表の頭の中にあったもの」なので、渡し方が分かりません。
先に形を作っておけば、この混乱は避けられます。作っておくのは、相談の一覧が見える場所と、状態の区分と、種類ごとの返信の目安です。この三つがあれば、二人目は初日から窓口の一部を持てます。
形が無いまま二人目を迎えると、代表が口頭で説明する時間が積み上がり、結局は代表が全部見る状態に戻ります。
引き継ぎの形を決めておく
担当を決めても、その人が休む日や、退職する場面は来ます。引き継ぎの形を決めておかないと、そのたびに手作業の棚卸しが発生します。
引き継ぎに必要なのは、抱えている相談の一覧と、それぞれがいまどの段階にあるか、次に何をする予定かの三つです。記録にこの三つが残っていれば、引き継ぎは一覧を見せるだけで終わります。
残っていない場合は、本人の記憶から聞き出すことになります。休みに入る前日に時間を取って聞く、という運用をしている事務所もありますが、急な休みには対応できません。
引き継ぎで抜けやすいのが、口頭で約束したことです。打ち合わせの場で「その部分はこちらで用意します」と言った内容は、メールにも見積書にも残っていません。引き継いだ人がその約束を知らずに進めると、相手からは前言を撤回したように見えます。口頭の約束は、その日のうちに記録へ一行足す習慣を作ってください。
休みの日の受け皿を決める
短期の休みについては、受け皿を決めるだけで足ります。担当が休みの日に届いた相談は、当番の人が一次返信だけ出し、担当が戻ってから正式に返す、という形です。
一次返信で「担当が3日後に戻りますので、それ以降のご返信となります」と正直に書けば、相手は待てるかどうかを判断できます。何も返さずに待たせるのが、最も相手の役に立たない選択です。
制作が始まったあとの担当も同じ形で持つ
問い合わせの担当を決める話は、受注した瞬間に終わるわけではありません。制作に入ったあとも、相手からの連絡は続きます。原稿の追加、写真の差し替え、日程の変更、支払いの相談。
このとき、受付の記録と制作の記録が別の場所にあると、相手からの連絡がどちらに着地するか分からなくなります。「最初に問い合わせたときの担当」と「いま制作を進めている担当」が違う場合は、特に混乱します。
避けるには、受注した相談を消さずに、状態を進めていく形にします。未対応から確認中、返信済み、受注、制作中、完了と進めれば、一つの記録が最初から最後まで残ります。途中で担当が替わったなら、その履歴も同じ場所に残ります。
記録を分けると、探す場所が二つになります。探す場所が二つある状態は、忙しいときに必ず片方が漏れます。
完了したあとの記録も残す価値がある
制作が終わったあとの記録は、捨ててしまいがちです。しかし残しておくと、次の相談のときに効きます。
同じ相手から二度目の相談が来たとき、前回の内容と金額が分かれば、見積もりの精度が上がります。前回の担当が誰だったかが分かれば、その人に振れます。前回の制作データがどこにあるかが分かれば、探す時間が減ります。
デザイン事務所は、一度取引した相手から繰り返し依頼が来る業種です。過去の記録は、次の受注のための材料になります。保管の期間は、個人情報の扱いと合わせて事務所として決めておいてください。
担当を決めたあとに残る仕事
振り分けの基準を作り、担当を見える形にすると、返し忘れと二重返信は減ります。ただし、それで解決するのは受付の部分だけです。
デザイン事務所で残る仕事は三つあります。相談の内容から工数を見積もること、印刷や外注の手配を進めること、そして制作の進み具合を相手に伝えることです。前の二つは担当を決めても軽くなりません。三つ目は、記録が一箇所にあれば楽になります。
問い合わせの受付の場面で共通して起きているのは、集めるところまでは無料の道具で足りているのに、集めたあとを表計算ソフトと受信箱と付箋で継ぎ足していることです。継ぎ足した部分は担当者の記憶に依存し、その人が現場に出た日に止まります。
自社サイトに埋め込んだフォームを使い続けたい場合は、Contact Form 7との比較で、送信後の記録に担当や状態を持てるかどうかを確かめておくと判断しやすくなります。
同じ振り分けの構造は、他の業種でも繰り返し現れます。応募書類を受けたあと、誰が面接の日程を返すのかで同じ詰まり方をする採用の応募受付がその例です。デザイン事務所の相談が受けた人の分野によって持ち先が変わるのと同じで、届いた内容を読まないと担当が決まらない型です。
最後に、担当を決めるときに判断が要る場面を並べておきます。分野で分けるか順番で分けるか、複数分野にまたがる相談を誰が持つか、当番の役目を決めることに限定するか返すことまで含めるか、代表が持つ判断をどこまでにするか、外注先に記録をどこまで見せるか、段階を何段階にするか、種類ごとの目安の日数を何日にするか、担当が休んだ日に誰が受けるか、引き継ぎに何を残すか。この九つを決めれば、誰が持っているかが言える窓口になります。決め切れないものは、いまのやり方を三か月続けて、実際に止まった場所から決めれば済みます。
Q1. デザイン事務所で問い合わせの担当を決める基準は何にすればよいですか?
相談の分野、既存の取引先かどうか、順番の三つを、この順で当てはめます。得意分野が分かれている事務所なら分野で決まり、決まらなければ過去の取引を担当した人が持ち、それでも決まらなければ当番制で機械的に振ります。基準を複雑にすると運用されないので、三つまでに絞ってください。判断に迷う時間がゼロになることが、基準を持つ最大の効果です。
Q2. 複数の分野にまたがる相談は誰が持つべきですか?
最も工数が大きい分野の担当が持つ、と先に決めておきます。ロゴを作って名刺とウェブサイトに展開したい、という相談は三つの分野にまたがるため、その場で相談すると時間がかかります。優先順位を事務所として決めておけば、最初に読んだ人が数十秒で判断できます。持ち先が決まったら、その時点で記録に名前を書いて他の人が返さないようにしてください。
Q3. 代表にすべての問い合わせが集中しています。どこから外せますか?
一次返信、仕様の確認、印刷会社への見積もり依頼の三つは、書式と聞く項目が決まっていれば他の人に渡せます。代表が持つべきなのは工数の見積もりと、受けるかどうかの判断です。この分け方をすると、代表の作業は相談一件あたり10分ほどに縮み、制作の合間に差し込めます。判断の基準を書き出していくと、渡せる範囲はさらに広がります。
Q4. 二重返信を防ぐには何が要りますか?
返信を書き始める前に、誰が持つかを表明できる場所です。共有アドレスに届いた通知を二人が同時に見て両方が返し始める、という場面で二重返信は起きます。誰が持っているかが一覧で見えていれば、書き始める前に気づけます。デザイン事務所の場合は見積もる人が違えば金額も違うため、二重返信は相手からの信用に直接響きます。
Q5. 担当が休んだ日に届いた相談はどうすればよいですか?
当番の人が一次返信だけ出し、担当が戻ってから正式に返す形にします。「担当が3日後に戻りますので、それ以降のご返信となります」と正直に書けば、相手は待てるかどうかを自分で判断できます。何も返さずに待たせるのが最も相手の役に立たない選択です。長期の不在に備えるなら、抱えている相談の一覧と各件の段階と次にすることを記録に残しておいてください。
