security

デザイン事務所が集めた個人情報の扱い|どこに置いて、いつ消すか

2026年9月4日 ・ Halict編集部

デザイン事務所が扱う個人情報は、受注してから増えるものだと思われがちです。実際には、制作の相談と見積もりの依頼を受け付けた瞬間から始まっています。相談フォームに書かれた会社名と担当者の氏名、返信先のメールアドレス、折り返し用の携帯電話の番号。ここまでは事務所の側も個人情報だと認識しています。

見落とされるのはその先です。会社案内の相談には社員の集合写真が付いてきます。採用サイトの相談には、載せる予定の社員の顔写真と部署名が届きます。名刺の一括制作の依頼では、全員分の氏名と役職と直通番号の一覧が表計算のファイルで送られてきます。これらは相談者本人の情報ではなく、相談者が預かっている第三者の情報です。受注が決まる前に、事務所の受信箱に入ってきます。

この記事では、デザイン事務所の問い合わせで集まった個人情報を、どこに置き、誰が見られるようにし、いつ消すのかを決めるために必要なことを順に並べます。法律の解釈を断定することはしません。判断に迷う場面では所管の窓口や専門家に確かめてください。ここで扱うのは、受付を回す側が実務として決められる範囲だけです。

デザイン事務所の窓口に集まる個人情報の中身

相談者本人についての情報

まず、相談を送ってきた人自身の情報です。氏名、会社名、部署、メールアドレス、電話番号。見積もりを郵送する場合は住所も加わります。個人事業主からの相談であれば、会社名の欄に本人の氏名が入り、屋号と個人名が同じ行に並びます。

この層の情報は量が読みやすく、扱いも決めやすい。問題は量ではなく期間です。相談が来て、見積もりを出して、返事が来なかった。この状態の連絡先が、受信箱と表計算の管理表の両方に残り続けます。3年前に一度だけ相談してきた相手の連絡先が、いまも二か所に残っている事務所は珍しくありません。

制作物のなかに入ってくる第三者の情報

デザイン事務所に固有なのはここです。作るものによっては、相談の段階で他人の個人情報を預かることになります。

会社案内なら役員の顔写真と経歴。採用のパンフレットやサイトなら、若手社員の顔写真、氏名、入社年次、出身校。店舗の紹介物ならスタッフの顔写真。名刺の一括制作なら全社員の氏名と役職と連絡先。ダイレクトメールの相談では、宛名の一覧そのものが送られてくることもあります。年賀状や挨拶状の制作を受けている事務所であれば、取引先の名簿を預かる場面が定期的に発生します。

これらに共通するのは、写っている本人や名前を書かれた本人が、事務所に情報が渡っていることを知らない場合があるという点です。相談者は自社の社員の写真を送っているつもりですが、その社員から見れば、知らない外部の事務所の受信箱に自分の顔写真が入っています。だからこそ、置き場と期間を決めておく必要があります。

受付の周辺で増える情報

さらに、制作の相談とは別の経路で入ってくるものがあります。事務所が求人を出していれば、応募の書類が同じ窓口に届きます。履歴書と作品集には、氏名、住所、生年月日、学歴、職歴が全部入っています。制作の相談とはまったく性質が違うのに、同じ受信箱に並びます。

イベントの企画も請け負っている事務所なら、来場申し込みの受付を代行する場面もあります。参加者の氏名と連絡先が、事務所側に一時的に集まります。この種の情報は、預かる理由も期間も相談の受付とは別なので、混ぜて置くと消す判断ができなくなります。窓口が同じでも、置き場は分けたほうが後が楽になります。

集めた時点で決めていないと、後から詰まること

何のために使うのかを示していない

個人情報の保護に関する法律は、取得の場面について次のように定めています。

個人情報取扱事業者は、個人情報を取得した場合は、あらかじめその利用目的を公表している場合を除き、速やかに、その利用目的を、本人に通知し、又は公表しなければならない。 出典: 個人情報保護委員会

問い合わせフォームで相談を受けている事務所であれば、フォームの近くに取り扱いの説明を置き、そこから詳しい記載にたどり着けるようにしておく形が一般的です。何をどう書けば足りるのかは、事務所が扱う中身や規模によって変わるため、判断に迷う場面では所管の窓口や専門家に確かめてください。

実務として効くのは、書いたことと実際の運用をそろえておくことです。相談への回答にしか使わないと書いているなら、その連絡先を後から案内メールの送り先に足せません。逆に、案内も送りたいなら最初からそう書いておく必要があります。書いた内容を後から広げるのは手間がかかるので、最初に決めるほうが安く済みます。

置き場が散る

相談の本文はフォームの通知メールに、添付された社員の顔写真は担当者のパソコンのデスクトップに、名簿の表計算ファイルは共有フォルダに、途中でやり取りした修正の指示は担当者の個人のメールに。ひとつの案件の情報が四か所に散るのは、特別なことではありません。

散った状態の何が問題かというと、消せなくなることです。案件が終わって「あの件の資料は消しておいて」と決めたとき、四か所すべてを思い出せる人はいません。三か所消して一か所残る。残った一か所は、誰も残っていることを知らないまま置かれ続けます。

そしてもう一つ、誰が見られるのかが分からなくなります。共有フォルダに置いたファイルは事務所全員が見られる状態かもしれませんし、担当者のパソコンにあるファイルはその人しか見られないかもしれません。どちらが正しいかを決める前に、どうなっているかを把握できていないことのほうが多い。

見られる人を決めていない

小さな事務所ほど、全員が全部を見られる状態が既定になります。人手が足りないので誰でも代われるようにしておきたい、という理由があるからです。この判断そのものは合理的な場面もありますが、預かっている中身によっては見直す価値があります。

とくに、社員の顔写真や名簿を含む案件は、担当と代理の二人までに絞れます。絞ったうえで、誰がいつ見たかが残る形になっていれば、絞り込みが実際に機能しているかどうかを後から確かめられます。制作の作業自体は素材を手元に持たないと進みませんが、相談の段階で預かった名簿を全員が見られる必要はありません。

どこに置くかを決める

受信箱と個人端末は置き場にならない

事実上の置き場が受信箱になっている事務所は多い。検索すれば出てくるからです。しかし受信箱には、置き場としての性質が三つ欠けています。誰が見られるのかを制御できないこと、いつ消すのかを決められないこと、そして処理済みかどうかが残らないことです。

個人のスマートフォンやパソコンも同じです。担当者が外で相談を受けて、その場で写真を受け取り、自分の端末に保存する。この流れ自体は自然ですが、端末に残った素材は事務所の管理の外に出ます。退職や機材の入れ替えのときに、どこに何が残っているかを確かめる方法がありません。

法律は、安全管理について次のように定めています。

個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失又は毀損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。 出典: 個人情報保護委員会

何が必要かつ適切かは事務所によって変わります。ただ、置き場が決まっていない状態は、措置を講じる前の段階にあると言えます。まず一か所に集めることが、その後の判断を全部軽くします。

相談と同じ場所に置く

置き場を選ぶときの基準は一つです。預かった情報を、それが届いた相談と同じ場所に置けるかどうか。相談の記録と素材が別のところにあると、探す作業が二度発生し、片方だけが消えたり残ったりします。

送信フォームで受け取る形にすると、この一致は自動で取れます。送信された一件のなかに、入力された項目と添付されたファイルが一緒に入るからです。案件が終わったあとに消すときも、一件を消せば付随する素材も一緒に消えます。四か所を思い出す作業が要りません。

フォルダで管理する場合は、案件ごとにフォルダを作り、メールをそこに保存し直す運用になります。動く仕組みではありますが、保存し直す一手間が誰かの手作業として残り続けます。手作業は忙しい時期に飛びます。飛んだ件だけが後から見つからなくなり、消す作業からも漏れます。

外部の協力者に渡すとき

デザイン事務所は、撮影、イラスト、コーディング、印刷といった工程を外部に出します。そのとき、預かった素材の一部が外に出ます。社員の顔写真を撮影者に渡す、名簿を印刷会社に渡す、といった場面です。

法律は、委託について次のように定めています。

個人情報取扱事業者は、個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合は、その取扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。 出典: 個人情報保護委員会

実務として決めておけるのは、渡し方と、渡したことの記録です。誰にいつ何を渡したかが案件の記録に残っていれば、案件の終わりに「この人にも渡っている」と気づけます。記録が無いと、事務所の中の分だけ消して終わりにしてしまいます。監督の中身として何が求められるかは、公開されている指針を確かめるか、所管の窓口や専門家に確かめてください。

過去の制作物を見せるとき

事務所の実績として過去の制作物を見せる場面でも、預かった情報の扱いが関わります。会社案内や採用パンフレットの実績を紹介するとき、そこには社員の顔写真と氏名が入っています。営業の場で見せる、サイトの実績のページに載せる、応募してきた人に見せる。どれも扱いが違います。

実績として公開してよいかどうかは、制作物ごとに相談者と決めておく必要があります。決めていないと、担当者の判断で見せてしまい、後から取り下げを求められます。案件の記録に、公開の可否と範囲を残せる形になっていると、担当が変わっても判断が引き継がれます。口頭で聞いた話は、聞いた人がいなくなった時点で消えます。

いつ消すかを決める

期間を決めていない状態は、永久保存と同じ

法律には、保存期間の具体的な数字の定めがありません。だから事務所が決めることになります。決めていない状態は、事実上の永久保存です。この点だけは、はっきりさせておく価値があります。

法律は、不要になった情報について次のように定めています。

個人情報取扱事業者は、利用目的の達成に必要な範囲内において、個人データを正確かつ最新の内容に保つとともに、利用する必要がなくなったときは、当該個人データを遅滞なく消去するよう努めなければならない。 出典: 個人情報保護委員会

利用する必要がなくなったのがいつなのかは、案件の性質で変わります。だから、事務所の側で区切りを決めておく必要があります。区切りを決めれば、削除は判断ではなく作業になります。

相談だけで終わった件

相談を受けて見積もりを出し、返事が来ないまま止まっている件。ここがいちばん量が多く、いちばん忘れられます。6か月動きが無ければ消す、といった期間を一つ決めておくと、月に一度の作業として組み込めます。

期間を決めるときに迷うのは、後から再開する可能性です。半年後に「あのときの見積もりで進めたい」と連絡が来ることは実際にあります。ただ、その場合も条件を確かめ直すことになるので、素材を持ち続けている必要は薄い。連絡先だけを残し、素材は消すという分け方もできます。何を残して何を消すかを分けておくと、期間を短くしやすくなります。

納品が終わった案件

納品後の素材は、事情が少し違います。同じ相手から改訂の依頼が来ることがあるので、一定期間は持っておく理由があります。ただ、その一定期間が「なんとなくずっと」になっているのが実情です。

区切りとして使いやすいのは、制作物の想定される使用期間です。年に一度更新される会社案内なら、次の版が出た時点で前の版の素材は不要になります。名刺の一括制作なら、次の発注が来た時点で名簿は入れ替わります。案件の性質ごとに「次があるまで」と決めておくと、期間を数字で決めるより自然に運用できます。

消したことを残す

消す作業でいちばん抜けるのは、消した記録です。記録が無いと、本当に消えたかどうかを後から確かめられません。相談者から「あのときの資料はどうなっていますか」と聞かれたとき、答えられるかどうかがここで決まります。

案件の記録が一か所にまとまっていれば、消したという状態をその一件に残せます。件ごとに状況が持てる形になっていることが、そのまま記録として使えます。逆に、受信箱と手元のフォルダに散らばっている状態では、消した記録を残す場所自体がありません。

外部の協力者が増えるほど、経路が枝分かれする

デザイン事務所は、工程を外に出すことで仕事を回しています。撮影、イラスト、コーディング、印刷、翻訳。案件が大きくなるほど関わる人が増え、預かった情報の経路も枝分かれします。

誰にどこまで渡すかを、案件ごとに決める

撮影者に渡すのは撮影の対象と場所と日時であって、名簿全体ではありません。印刷会社に渡すのは入稿データであって、相談の経緯ではありません。渡す範囲を案件ごとに決めていないと、手元にあるファイルをまとめて渡す形になり、必要のない情報まで外に出ます。

まとめて渡すのが楽なのは事実です。分けるには手間がかかります。ただ、分ける手間は最初の一回だけで、その後は同じ形を繰り返せます。案件の種類ごとに「この工程にはこの範囲を渡す」と決めておけば、判断が毎回必要なくなります。

渡した記録を、案件の中に残す

外に渡したという事実が案件の記録に残っていないと、案件を終えるときに気づけません。事務所の中の分だけ消して、外に渡した分は相手の手元に残ったまま、という状態になります。

記録として残すのは、渡した相手、渡した日、渡した中身の三つで足ります。この三つが案件の記録に並んでいれば、終わったときに一件ずつたどれます。口頭やその場のやり取りで渡すと記録が残らないので、渡す作業自体を記録の残る経路に寄せておくのが実務的です。

再委託が起きることを前提にする

外部の協力者が、さらに別の人に一部を出すことがあります。撮影者がレタッチを別の人に頼む、コーディングの担当者が一部を他の人に回す。これは珍しいことではありません。

事務所として決めておけるのは、再委託の可否と、あった場合に知らせてもらうことです。決めていないと、どこまで情報が広がっているのかを把握できなくなります。監督として何がどこまで求められるかは、公開されている指針を確かめるか、所管の窓口や専門家に確かめてください。実務としては、把握できていない経路を作らないことが基本になります。

少人数の事務所が、現実的に手を付けられる順番

やることを並べると多く見えます。人数が少ない事務所では、全部を同時に整えようとすると最初の一歩で止まります。順番を決めれば、一日で動き出せる範囲があります。

一日目に、いま何がどこにあるかを書き出す

最初にやるのは、対策ではなく棚卸しです。相談の記録がどこにあるか、素材がどこにあるか、名簿を含むファイルがどこにあるか。受信箱、共有フォルダ、担当者のパソコン、個人のスマートフォン、外部の共有サービス。心当たりを全部書き出します。

この作業をすると、たいてい想定より多い場所が出てきます。数えてみて初めて、消せなくなっていた理由が分かります。書き出した紙が、そのあとの判断の土台になります。書き出さずに対策から始めると、把握していない場所が残ったまま「対策済み」になります。

二日目に、入り口を一つに寄せる

次に、新しく入ってくる分の経路を一本にします。サイトの問い合わせを送信フォームに寄せ、素材もそこで受ける形にする。ここを変えると、今日以降に増える分は散らばらなくなります。過去の分の片付けと、これから増える分を止めることは別の作業で、後者のほうが先に効きます。

電話で受けた相談も、同じ場所に流す方法を決めておきます。受付が代わりに入力するのか、折り返しでフォームの案内を送るのか。決めていないと、電話で受けた案件だけが記録の外に出ます。

三日目に、期間と権限を二行で決める

見られる人と、消す時期。この二つを決めるのに時間はかかりません。担当と代理の二人まで、受注に至らなかった件は6か月で消す。この二行を決めて、事務所の中で共有できる場所に書いておくだけで、判断が属人的でなくなります。書いていないと、担当者が変わった時点で運用が消えます。

書いたあとは、月に一度だけ見る日を決めます。決めた期間を過ぎた件を消す作業は、まとめてやれば短時間で終わります。思い出したときにやる形にすると続きません。

何かが起きたときに、動ける状態にしておく

置き場と期間を決める作業には、もう一つ理由があります。何かが起きたときに、範囲を確かめられるようにしておくことです。

範囲を答えられるかどうかが分かれ目になる

ファイルを誤った相手に送ってしまった、共有の設定を間違えていた、端末を紛失した。こうした場面で最初に必要になるのは、何がどこまで含まれていたのかを答えることです。相談者への連絡も、その後の対応も、範囲が分からないと決められません。

置き場が一か所で、案件の記録に何を預かっているかが残っていれば、範囲はすぐに出せます。受信箱と複数のフォルダと個人の端末に散らばっている状態では、範囲の確認そのものに数日かかります。その数日のあいだ、相談者には何も伝えられません。

連絡先の一覧を、案件と別に持っておく

範囲が分かったあと、関係する相手に連絡することになります。このとき、案件ごとの担当者の連絡先がすぐ引ける形になっていると動けます。案件の記録の中に連絡先が入っていれば、そこから抜き出せます。

同時に、社内の誰が判断するかも決めておきます。少人数の事務所では、判断する人と作業する人が同じであることが多いのですが、決めていないと最初の数時間が「どうするか」の相談で消えます。何が起きたら誰に知らせるかを一行決めておくだけで、この時間が縮みます。

記録が残っていることが、説明の材料になる

相談者から取り扱いについて尋ねられたとき、答えられるかどうかは記録の有無で決まります。いつ預かって、誰が見て、いつ消したか。件ごとに状況が残る形になっていれば、この説明ができます。

記録が無い状態で「適切に管理しています」とだけ答えると、その場は済んでも、次に何か起きたときに根拠がありません。仕組みとして残る形にしておくことが、いちばん手のかからない備えになります。

相談者に伝える一文を、どこに置くか

取り扱いを決めたら、それを相手に伝える場所が要ります。伝える場所は三つあり、それぞれ役割が違います。

フォームの送信ボタンの手前

いちばん効くのはここです。相談を送る直前に、取り扱いの説明へのリンクを一行置きます。長い文章を並べる必要はなく、詳しい記載にたどり着ける状態になっていればよい。ここに何も無いと、相談者は自分の情報がどう扱われるか分からないまま送ることになります。

チェック欄を置いて同意を取る形にするかどうかは、事務所の判断です。置けば送信の手前に一手間が増え、その分だけ送信をやめる人が出ます。置かない場合でも、送信ボタンの近くに説明へのリンクを出しておく形が一般的です。どちらが適切かは扱う中身によって変わるため、判断に迷う場面では所管の窓口や専門家に確かめてください。

自動返信のメール

送信直後に届く自動返信は、読まれる確率が高い文面です。ここに、預かった情報を何に使うのかを一文入れておくと、後から説明を求められたときの根拠になります。同時に、送った側の安心にもつながります。相談を送ったあとに何も返ってこない状態は、内容の不安と手続きの不安を同時に生みます。

自動返信には、素材の送り方の案内も一緒に入れておけます。相談の段階では画像かPDFで足りること、大きなデータは受注後に別の方法で受け取ること。この二つを最初に伝えておくと、添付で詰まる往復が減ります。

名簿や顔写真を預かるときの一往復

制作物に第三者の情報が入る案件では、相談者本人への説明だけでは足りない場面があります。社員の顔写真を使う、名簿を印刷物に載せる、といった案件です。写っている本人や名前が載る本人への説明は、相談者の側が行うことになります。

事務所として実務的にできるのは、その確認を返信の項目に入れておくことです。掲載する本人への確認は取れているか、撮影した写真の使用範囲は決まっているか。この二つを見積もりの前に聞いておくと、制作が進んだあとで差し替えが発生する事態を減らせます。差し替えは工程の後ろになるほど費用も時間もかかるので、受付の段階で聞いておく価値があります。

道具を選ぶときに見る軸

入り口を変えると決めたあと、道具を比べる段になって迷いが出ます。作る画面の使いやすさで比べ始めると判断がつきません。個人情報を預かる受付という観点で効くのは、次の三つです。

第一に、送る側にアカウント登録を求めるかどうか。求める形だと、相談の途中でやめる相手が出ます。加えて、登録という形で相談者の情報が別の場所にも増えることになります。無料で使える定番の道具と、送信されたあとの扱いがどう違うのかは、Googleフォームとの比較で、回答が表に溜まったあとに何が起きるかという観点から整理されています。

第二に、届いたあとに担当と状況を持たせられるかどうか。誰が見たか、返したか、消したかが件ごとに残らないと、この記事で挙げた判断が全部できません。すでにサイトにフォームを置いている事務所であれば、Contact Form 7との比較に、送信の通知だけが飛ぶ状態と、送信後の管理まで持つ状態の違いがまとめられています。

第三に、素材と相談が同じ場所に残るかどうか。実際にどう動くのかを先に見たい場合は、動くところを見るで、送信されたあとの画面がどうなっているかを触れます。送信されたあとの道具がそろっているかどうかは、作る画面を見ても分かりません。どこまでの範囲が基本に含まれるのかは料金に書かれているので、比べる前に確かめておくと後から作り直さずに済みます。

決めたことが守られているかを、どう確かめるか

置き場と期間を決めても、決めただけでは運用は変わりません。確かめる材料が要ります。

見るべきものは三つあります。一つ目は、消す作業を実際に何件行ったか。決めた期間を過ぎた件が残っているなら、作業として組み込めていません。二つ目は、案件の記録の外に素材が置かれていないか。担当者のデスクトップに案件名のフォルダが増えていれば、入り口が一本になっていない証拠です。三つ目は、外部に渡した記録が案件ごとに残っているか。

この三つは、どれも件ごとの記録が残っていれば確かめられます。逆に言えば、受信箱で受けている限りは確かめられません。確かめられる状態にすること自体が、入り口を変える理由の一つです。

デザイン事務所以外の受付でも、同じ構造が出てきます。届いたものに個人の情報が含まれ、置き場と期間が決まっていないと消せなくなる。どの場面でどう詰まるのかは、問い合わせの受付に、受け取ってから返すまでの流れとして整理されています。求人の応募を同じ窓口で受けている事務所であれば、採用の応募受付のほうも合わせて見ておくと、混ぜてはいけない線がどこにあるのかが分かります。

確かめる頻度は、月に一度で十分です。頻度を上げても見るものが増えるわけではなく、続かなくなるだけです。決めた期間を過ぎた件を消す作業と同じ日にまとめてしまうと、一度の作業で両方が済みます。作業の日を決めていないと、どちらも思い出したときにやる形になり、数か月抜けます。

順番としては、置き場を一つに決めるところから始めるのが確実です。置き場が決まっていない状態で見られる人を絞ろうとしても、絞る対象が数えられません。期間を決めようとしても、消す場所が把握できません。一か所に集めることが、残りの判断を全部軽くします。集める作業そのものは、これから届く分だけを対象にすれば一日で始められます。過去の分の整理は、そのあとで時間を取って進めれば間に合います。先に過去を片付けようとすると、量の多さで止まり、その間も新しい情報が散らばり続けます。止血を先にして、片付けを後にする順番が実務では確実です。

Q1. 相談だけで終わった相手の連絡先は、消さなければいけませんか?

法律に具体的な期間の定めはなく、事務所の考え方で決めることになります。大事なのは期間を決めること自体で、決めていない状態は事実上の永久保存です。動きが無いまま6か月経った件は消す、といった区切りを一つ置けば、削除が判断ではなく月に一度の作業になります。判断に迷う場面では所管の窓口や専門家に確かめてください。

Q2. 相談者から預かった社員の顔写真は、誰の個人情報として扱えばよいですか?

写っている本人の情報として扱うのが実務上は安全です。相談者は自社の社員の写真を送っているつもりでも、その社員から見れば外部の事務所に自分の顔写真が渡っています。相談の段階で預かる分は、担当と代理の二人までに絞り、案件が終わったら消す時期を決めておくと、後から判断に困りません。掲載する本人への確認が取れているかを見積もりの前に聞いておくと、後の差し替えも減らせます。

Q3. 撮影者や印刷会社に素材を渡すとき、何を決めておけばよいですか?

渡し方と、渡したという記録の二つです。誰にいつ何を渡したかが案件の記録に残っていれば、案件の終わりに外部にも渡っていることに気づけます。記録が無いと、事務所の中の分だけ消して終わりにしてしまいます。委託先の監督として何が求められるかは、公開されている指針を確かめるか、所管の窓口や専門家に確かめてください。

Q4. 求人の応募と制作の相談を、同じ窓口で受けても問題ありませんか?

窓口が同じでも構いませんが、置き場は分けたほうが後が楽になります。履歴書には氏名や生年月日や職歴が入っており、預かる理由も適切な期間も制作の相談とはまったく違うからです。同じ場所に混ぜると、消す判断のときに一件ずつ中身を確かめることになり、その手間で作業が止まります。見られる人の範囲も別に決める必要があるため、置き場を分けておくほうが結果的に手間が少なくて済みます。

Q5. プライバシーポリシーには何を書けばよいですか?

書く内容は事務所が扱う中身や規模によって変わるため、公開されている指針を確かめるか、所管の窓口や専門家に確かめてください。実務として効くのは、書いたことと実際の運用をそろえておくことです。相談への回答にしか使わないと書いているなら、その連絡先を後から案内メールの送り先に足せません。広げるのは手間がかかるので、最初に決めておくほうが安く済みます。

ガイド一覧へ

デザイン事務所が集めた個人情報の扱い|どこに置いて、いつ消すか|Halict