デザイン事務所の問い合わせ窓口に、文章だけの相談が届くことはほとんどありません。ロゴを作り直したいという相談には現行のロゴの画像が付き、チラシの見積もり依頼には前回配ったチラシをスマートフォンで撮った写真が付き、パンフレットの改訂では元のデータが丸ごと添付されてきます。制作の相談と見積もりの依頼を受け付けている以上、ファイルが付いてくるのは例外ではなく標準の状態です。
詰まるのはその先です。メールの添付で受け取ると、容量の上限に当たって届かない、開けない形式が混ざる、ファイル名が案件と結びつかない、といったことが順番に起きます。そして届いたファイルは、置き場を決めないまま受信箱と個人のパソコンのデスクトップに散らばっていきます。半年後、あの件の元データはどこかという話になったとき、探し当てられません。
この記事では、デザイン事務所の問い合わせで写真や書類をどう受け取るかを決めるために、いま何が詰まっているのかを分解し、受け取り方を変えるときに先に決めておくことを順に並べます。デザインそのものの良し悪しや制作手法の話には触れません。届いたものを受けて返す側が、何をどこに置き、誰が見られるようにし、いつ消すのかを決められるようにすることだけを扱います。
デザイン事務所の問い合わせに、必ず何かが付いてくる理由
見積もりを出すには、現物を見るしかない
制作の見積もりは、聞いた話だけでは出せません。名刺を作りたいという一行の相談に対して金額を返すには、いま使っている名刺があるのか、ロゴのデータは手元にあるのか、原稿は誰が書くのか、印刷まで含むのか、部数はいくつか、といった条件を確かめる必要があります。この条件のうち、言葉で説明しにくいものが必ず写真やデータとして送られてきます。
とくに「いま使っているもの」は、説明されるより見たほうが早い。相談者にとっても、現物を撮って送るのがいちばん手間の少ない伝え方です。だから、チラシの写真、店の看板の写真、既存のパンフレットを開いて撮った写真、以前どこかで作ってもらったロゴの画像が、相談の最初の一通に付いてきます。これは面倒な相手の行動ではなく、話を早く進めようとしている行動です。
受け取る側にとっても、現物が見えていたほうが助かります。参考にしたいデザインの切り抜きが添えられていれば、方向性の相談なのか制作の依頼なのかが返信の時点で判別できます。手書きのラフを撮った写真が来ていれば、そこから作るのか、支給された原稿を組むだけなのかが分かります。見積もりの前段でやり取りする往復の回数は、最初に届いた材料の量でほぼ決まります。
送る側は、送り方を選んでいない
見落とされやすいのは、相談者が送信手段をほとんど選んでいないという点です。事務所のサイトに書いてあるメールアドレスをタップすれば、スマートフォンのメールアプリが開きます。そこにあるのは添付のクリップのマークだけです。だから添付になります。パソコンから送る相手も同じで、手元のフォルダにあるファイルをそのままドラッグして付けるだけです。
同じ相手が、共有リンクを送ってきたり、圧縮したファイルを送ってきたりすることもあります。行動が変わっているのではなく、目の前にある入り口の形が変わっているだけです。受け取り方を変えたいなら、まず入り口の形を変える必要があります。サイトに「大きなファイルは添付しないでください」と注意書きを置いても、読まれずに添付されます。
現場では、問い合わせの入り口が複数あるほど素材の届き先がばらけると言われています。サイトのフォームから本文だけ、その後のメールで写真、担当者の個人的なやり取りで元データ、というように、ひとつの案件の材料が三か所に散ることは珍しくありません。散った状態で見積もりを組むと、材料の抜けにその場で気づけません。
メールの添付で受け取ると、受付のどこが止まるのか
容量の上限に当たって、届いていないことに気づけない
多くのメールサービスで、添付できる大きさはおおむね25MB前後に設定されています。最近のスマートフォンで撮った写真は一枚で数MBありますし、印刷用のPDFや制作の元データは一つで数十MBに達します。パンフレットの改訂の相談で元データを送ろうとすれば、まず通りません。
厄介なのは、送信エラーが送った側にしか返らないことです。受け取る側から見ると、相談そのものが来ていないようにしか見えません。相談者のほうは「送ったのに返事が無い」と受け取ります。数日後に催促が来て、そこで初めて届いていなかったことが分かります。ここで失われるのは時間だけではありません。返信の遅い事務所だという印象が先に付きます。
さらに、送信に失敗した相談者の一部は再送しません。別の事務所に問い合わせます。この取りこぼしは記録に残らないので、後から数えることもできません。受付の努力では減らせない種類の損失です。だからこそ、受け取る形そのものを変える価値があります。
開けない形式が混ざる
デザイン事務所に届くファイルの形式は幅が広い。相談者が手元にあるものをそのまま送るので、印刷会社から受け取ったままの入稿用データ、以前の制作会社が納品した編集用の元データ、Wordで組まれた原稿、表計算で作られた商品一覧、スマートフォンの標準設定で保存された新しい形式の画像が混ざります。
このうち、事務所の環境で開けないものが必ず一定数あります。相談者の手元では普通に見えているので、開けないことに気づいていません。「先ほどの資料を確認しました」と返せない状態のまま、受付が形式を確かめて再送を依頼する往復が発生します。往復が二回増えるだけで、見積もりの提出は数日ずれます。
もう一つ、開ける形式でも中身が確認できない場合があります。フォントが手元に無い状態で編集用の元データを開くと、文字が置き換わって表示されます。相談の段階では中身が見えれば十分なので、確認用の画像やPDFを一緒に送ってもらう形にしておくと、この確認が一往復で済みます。何を送ればよいかを先に示しておけるかどうかが、ここでの分かれ目です。
ファイル名が案件とつながらない
添付で届いた画像のファイル名は、ほぼ例外なく撮影機器が自動で付けた連番です。編集用の元データも「最終版」「最終版2」「修正後」といった、送り主の頭の中でしか意味を持たない名前で届きます。誰のどの案件のものかは、メールの本文と並べて初めて分かります。
ところが受付の作業は、メールを開いたままでは進みません。ファイルを保存し、どこかのフォルダに置き、後で見返します。その瞬間に、ファイルと案件のつながりが切れます。連番と「最終版」が何十個も溜まったフォルダを開いて、どれが今日の相談のものかを探す作業は、想像以上に時間を食います。
探し当てられなかったときに起きるのは、単なる遅れではありません。別の相談者の素材を見ながら見積もりを組んでしまう事故です。デザインの相談は、送られてきたものに社名や商品名がそのまま写り込んでいます。取り違えたまま返信すると、他社の情報を別の相手に見せることになります。取り違えは注意力の問題ではなく、素材と案件が別々の場所に置かれている構造の問題です。
圧縮ファイルと共有リンクという迂回
添付で送れないと気づいた相談者は、二つの迂回路を取ります。一つは、まとめて圧縮して送る方法。もう一つは、外部の共有サービスにアップロードしてリンクだけを送る方法です。どちらも送る側の工夫としては正しいのですが、受ける側には別の問題を持ち込みます。
圧縮されたファイルは、中身が見えません。開いてみるまで、必要なものが入っているのか、関係のない古いデータまで混ざっているのかが分かりません。開いた結果、中に十数個のファイルが入っていて、そこから見積もりに必要なものを選び出す作業が発生します。相談の一次受けとしては重い作業で、返信までの時間がそのぶん伸びます。
共有リンクのほうは、期限が付いていることが多い。無料で使えるサービスは、一定の日数が過ぎるとファイルが消えます。相談を受けた日に開いていれば問題ありませんが、他の案件が立て込んで数日置いた結果、見に行ったときにはリンクが切れていた、ということが起きます。相手に再送を頼むところからやり直しになり、相談者の側も「もう一度やるのか」となります。素材を受け取る仕組みが用意されていれば、この迂回そのものが不要になります。
相談の種類ごとに、付いてくるものは違う
デザイン事務所の受付を難しくしているのは、扱う仕事の幅です。同じ問い合わせ窓口に、名刺一種類の相談と、Webサイト全面リニューアルの相談と、商品パッケージの相談が並んで届きます。付いてくる素材の種類も量も違うので、ひとまとめの受け方では必ずどこかが合いません。種類ごとに、何が届くのかを整理しておくと、項目の設計が具体的になります。
ロゴやマークの相談
現行のロゴの画像が届きます。ただし多くの場合、それは名刺やサイトから切り出した粗い画像で、そのままでは使えません。相談の段階ではこれで十分ですが、受注後には元データが必要になるので、その所在を早めに確かめておく必要があります。以前の制作者しか持っていない、会社の誰も場所を知らない、という状況は珍しくありません。
あわせて、ロゴを使っている場所の写真が届きます。看板、封筒、社用車、ユニフォーム。使用箇所が多いほど、作り直したときの影響範囲が広がるので、見積もりの前提が変わります。写真が最初に届いていれば、その範囲を返信の一往復目で確かめられます。
印刷物の相談
現物の写真が中心です。前回配ったチラシ、店に置いてあるメニュー、取引先に配っているパンフレット。表と裏、開いた状態と閉じた状態というように、一つの現物で複数枚になります。ここで枚数の上限が低すぎると、必要な面が届きません。
印刷物の相談では、原稿の文章がWordや表計算のファイルで送られてくることもあります。商品一覧、価格表、店舗一覧。これらは見積もりの段階では分量が分かればよいので、中身よりも「何ページ分あるか」が読み取れるかどうかが重要です。受け取ったファイルが開けないと、この分量の見立てができず、金額を出せません。
Webサイトや動画の相談
Webの相談は、既存サイトのURLが一行あれば大半が確かめられるので、素材の点では軽い。むしろ問題は、更新したい範囲が言葉で書かれないことです。「全体的に古いので新しくしたい」で終わっている相談に対して、画面を撮ったスクリーンショットに手書きで印を付けたものが添えられていると、話が一気に進みます。
動画の相談では、参考にしたい動画のリンクが届きます。ファイルとして送られてくることもありますが、容量が大きく、受け取り方を決めていないと最初の一通で詰まります。相談の段階ではリンクで受ける、と決めておくのが現実的です。撮影素材の受け渡しは、受注後の別の仕組みに寄せます。
届いたファイルの置き場を先に決める
受信箱は置き場ではない
多くの事務所で、事実上の置き場は受信箱になっています。検索すれば出てくるからです。しかし受信箱には、置き場としての性質が三つ欠けています。誰が見られるのかを制御できないこと、いつ消すのかを決められないこと、そしてどれが処理済みなのかが残らないことです。
デザイン事務所に届く素材には、公開前の商品の写真、発表前の社名やロゴ案、社員紹介のページに使う顔写真、名刺に載せる全員分の氏名と役職といったものが含まれます。これらが受信箱に無期限で溜まり、転送のたびに複製が増え、スタッフの個人端末にも同じものが残る状態は、置き場が決まっていないことの帰結です。
個人情報の保護に関する法律は、事業者に対して次のように定めています。
個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失又は毀損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。 出典: 個人情報保護委員会
何が必要かつ適切かは、事務所の規模や扱う中身によって変わります。判断に迷う場面では、所管の窓口や専門家に確かめてください。ここで確認しておきたいのは、置き場が決まっていない状態そのものが、措置を講じる前の段階にあるという点です。
案件の単位で一か所に置く
置き場を決めるときの基準は一つです。ファイルを、それが届いた相談と同じ場所に置けるかどうか。相談の記録と素材が別のところにあると、探す作業が二度発生し、片方だけが消えたり残ったりします。
送信フォームで受け取る形にすると、この一致は自動で取れます。送信された一件のなかに、本文の項目と添付されたファイルが一緒に入るからです。連番のファイル名のままでも、どの相談に付いてきたものかは失われません。案件が終わったあとで見返すときも、相談の中身と素材が同じ場所にあるので、当時の条件を確かめながら見られます。
フォルダで管理する場合は、案件ごとにフォルダを作り、相談のメールをそこに保存し直す運用になります。動く仕組みではありますが、保存し直す一手間が誰かの手作業として残り続けます。手作業は忙しい時期に飛びます。飛んだ件だけが後から見つからなくなります。
見られる人と、消す時期を決める
置き場が一か所に決まると、次の二つを一度決めるだけで済むようになります。誰が見られるようにするか、いつ消すか。散らばったままだと、この二つを場所の数だけ決めることになり、たいてい途中で止まります。
見られる人については、案件を担当していない人まで全部が見える状態を既定にしないことです。とくに社員の顔写真や名簿を含む案件は、担当と代理の二人までに絞れます。誰がいつ見たかが残る形になっていれば、絞り込みが機能しているかどうかも後から確かめられます。
消す時期については、法律に具体的な期間の定めがありません。だから事務所が決めることになります。決めていない状態は、事実上の永久保存です。相談から受注に至らないまま6か月経った件の素材は消す、といった形で一つ期間を置けば、削除を月に一度の作業として組み込めます。思い出したときにやる作業は続きません。
送ってもらう段階で、届く形をそろえる
何を送ればよいかを先に示す
見積もりに必要な材料は、案件の種類ごとにほぼ決まっています。ロゴなら現行のロゴの画像と使用箇所、印刷物なら現物の写真と部数とサイズ、Webなら既存サイトのURLと更新したい範囲。これを相談者に想像させると、届く材料の量が人によってばらつきます。
送信フォームの項目として並べておくと、ばらつきが減ります。「参考にしたいデザインがあれば」「いま使っている現物の写真」といった名前の欄を用意しておくだけで、何を送ればよいかが伝わります。項目の名前が説明として機能するので、注意書きを長く書く必要もなくなります。
同時に、送らなくてよいものも決まります。相談の段階で編集用の元データは要らない、確認用の画像かPDFで足りる、という線を項目の作りで示せます。この線が引けていないと、最初の相談でいきなり大きなデータが送られてきて、そこで容量の問題に当たります。
枚数と形式に上限を置く
上限を決めていないと、動画が届きます。店舗の様子を撮った数分の動画を送られても、どこを見ればよいのかが分からず、結局は追加のやり取りが必要になります。写真は5枚まで、といった上限を先に置いておくと、送る側も何を選ぶかを考えます。選んで送られたものは、そのまま判断の材料になります。
形式についても、受け取る側が開けるものを明示しておくほうが早い。画像とPDFで受け付ける、編集用の元データは契約後に別の方法で受け取る、と分けておけば、開けないファイルの往復が消えます。制作に入ってからのデータのやり取りは、相談の受付とは別の話として設計したほうがうまくいきます。
大きなデータの受け方は別に決めておく
相談の段階と、制作が始まってからでは、扱うデータの大きさが違います。相談は数MBで足りますが、制作に入ると数百MBのやり取りが日常的に発生します。この二つを同じ入り口で受けようとすると、どちらかに合わせて無理が出ます。
現実的なのは、相談の受付は軽いものだけを通し、制作段階のデータは別の共有の仕組みに寄せる形です。受注が決まった時点で共有の場所を用意し、そこから先はそちらでやり取りする、と決めておけば、問い合わせの入り口を軽く保てます。入り口が軽ければ、相談者が送信で詰まる場面も減ります。
送り方を伝える文面を、先に用意しておく
入り口を変えても、相談者は前と同じやり方で送ろうとします。伝える文面を用意しておくと、切り替えが早く進みます。
受付の控えに、送り方の案内を入れる
相談が届いた直後に返る控えの文面に、素材の送り方を一行入れておきます。相談の段階では画像かPDFで足りること、編集用の元データは受注後に別の方法で受け取ること。この二つを最初に伝えるだけで、容量の上限に当たって届かない事故がほとんど消えます。
控えを人が手で送っている事務所は多いのですが、これは自動で返せる種類の文面です。届いた瞬間に返るほうが、数時間後に人が送るより相手の安心につながります。返信までの目安の日数も一緒に書いておくと、催促が減ります。目安は守れる範囲で書きます。守れない日数を書くと、書かないほうがましな結果になります。
素材が足りないときに送る案内を、種類ごとに用意する
相談を受けて、見積もりに必要な材料が足りていないときに送る文面も用意できます。何を送ってほしいか、どの形式で、何枚まで。この三つが書いてあれば、相手ごとに変える必要がありません。
案件の種類ごとに版を分けておくと、そのまま送れます。ロゴなら現行のロゴと使用箇所の写真、印刷物なら現物の表と裏、Webなら既存サイトのURLと変えたい箇所を示した画面の写し。三つか四つ用意しておけば、選ぶだけで済みます。毎回書いていると、書くこと自体が面倒になって省略され、材料が足りないまま見積もりを組むことになります。
既存の取引先には、変えたことを別に伝える
新規の相談は入り口の作りだけで誘導できますが、既存の取引先は前と同じ経路で連絡してきます。担当者の個人のメールに、これまで通り素材を添付して送ってきます。
この層には、変えたことを一度伝える必要があります。次の案件の連絡のときに、素材はこちらから送ってほしいと一言添える。強く言う必要はなく、案内するだけで大半は移ります。移らない相手については、受け取ったあとで記録の側に入れ直す運用を決めておきます。全員を一度に移そうとすると、関係のほうに無理が出ます。
手を付ける順番を決める
やることを並べると多く見えますが、順番を決めれば一日で動き出せます。全部を同時に整えようとすると、たいてい最初の一歩で止まります。
最初に、入り口を一つに寄せる
サイトに書いてあるメールアドレスを消して、相談は送信フォームで受ける形に変えます。消すのが不安なら、フォームを目立つ位置に置いて、メールアドレスは問い合わせ以外の用途として残しても構いません。重要なのは、素材の付いた相談が入ってくる経路を一本にすることです。経路が一本なら、この先の判断が全部その一本についてだけになります。
このとき、電話で受けた相談も同じ場所に流す方法を決めておきます。受付が代わりにフォームへ入力するのか、折り返しのメールでフォームの案内を送るのか。決めていないと、電話で受けた案件だけが記録の外に出て、後から数えられなくなります。
次に、項目を三つか四つに絞る
最初から完璧な項目を作ろうとすると、長いフォームができあがり、途中でやめる相談者が増えます。相談の種類、いま使っている現物の写真、希望の時期、連絡先。この四つがあれば、一往復目の返信は書けます。足りない情報は返信で聞けばよい。
項目を増やすかどうかは、実際に届いた相談を見てから決めます。同じ質問を返信で毎回聞いているなら、それは項目にする価値があります。逆に、用意したのに一度も埋まらない欄は消します。この調整は、届いた件が記録に残っていれば数えるだけで判断できます。
最後に、消す時期を決めて紙に書く
見られる人を絞る設定と、消す時期の決定は、後回しにされやすい割に、決めるのに時間がかかりません。担当と代理の二人まで、受注に至らなかった件は6か月で消す。この二行を決めて、事務所の中で共有できる場所に書いておくだけで、判断が属人的でなくなります。書いていないと、担当者が変わった時点で運用が消えます。
受け取り方を変えるとき、何を軸に比べるか
入り口を変えると決めたあと、道具を比べる段になって迷いが出ます。作る画面の使いやすさで比べ始めると、判断がつきません。受付の側から見て効くのは三つの軸です。
第一の軸は、送る側にアカウント登録を求めるかどうかです。求める形だと、相談の途中でやめる相手が出ます。デザインの相談は思い立った瞬間に送られるものなので、手前に壁を置くと届く数がそのまま減ります。無料で使える定番の道具と、送信されたあとの扱いがどう違うのかは、Googleフォームとの比較で、回答が表に溜まったあとに何が起きるかという観点から整理されています。
第二の軸は、届いたあとに担当と状況を持たせられるかどうかです。返したかどうかが件ごとに残らないと、二重返信と返し忘れは必ず起きます。見積もりの依頼は返信が遅れた時点で他社に流れる種類の問い合わせなので、ここは特に効きます。すでにサイトにフォームを置いている事務所であれば、Contact Form 7との比較に、送信の通知だけが飛ぶ状態と、送信後の管理まで持つ状態の違いがまとめられています。
第三の軸は、添付されたファイルが相談と同じ場所に残るかどうかです。ここが分かれていると、この記事で挙げた詰まりがそのまま残ります。実際にどう動くのかを先に見たい場合は、動くところを見るで、送信されたあとの画面がどうなっているかを触れます。フォームを作る画面よりも、届いたあとの画面のほうを長く見たほうが判断がしやすい。送信されたあとの道具がそろっているかどうかは、作る画面を見ても分からないからです。
料金の考え方も、比べる前に見ておくと迷いが減ります。料金には、どの範囲までが基本に含まれるのかが書かれています。受け取ったファイルをどこまで置いておけるのかは、料金の区切りに関わることが多いので、先に確かめておくと後から作り直さずに済みます。
変えたあと、何を見て良し悪しを判断するか
入り口を変えたら、変えた効果を見る材料が必要です。感覚で判断すると、変えたことを正当化する方向に記憶が寄ります。
見るべきものは三つあります。一つ目は、素材が付いた相談の割合です。添付の詰まりが消えた代わりに、そもそも素材が届かなくなっていたら、項目の作りに問題があります。二つ目は、相談が届いてから見積もりを出すまでの日数です。材料が最初にそろっていれば、この日数は縮みます。縮んでいないなら、必要な材料の見立てがずれています。三つ目は、返していない件が残った日数です。
この三つは、どれも件ごとの記録が残っていれば数えられます。逆に言えば、受信箱で受けている限りは数えられません。数えられる状態にすること自体が、入り口を変える理由の一つです。
デザイン事務所以外の受付でも、同じ構造が繰り返し出てきます。届いたものに写真や書類が付いてきて、その置き場と担当が決まっていないと詰まる。どの場面でどう詰まるのかは、問い合わせの受付に、受け取ってから返すまでの流れとして整理されています。
数え始めると、変えた直後の一か月は判断に使えないことも分かります。相談者の側が新しい入り口に慣れるまで少し時間がかかり、既存の取引先は前の経路で連絡してきます。二か月目と三か月目の数字を見て判断するほうが、実態に近い結論になります。一か月目の数字だけを見て戻す判断をすると、慣れの問題と作りの問題を取り違えます。
最後に順番の話をします。ファイルの受け取り方を変えるとき、多くの事務所は「安全な保管方法」から考え始めます。しかしそこから始めると、決めることが多すぎて止まります。先に決めるのは、どこで受け取るかです。受け取る場所が一つに決まれば、見られる人を絞る話も、いつ消すかの話も、その一か所についてだけ決めればよくなります。受信箱と個人端末とフォルダに散らばったまま安全を確保しようとするから、終わらないだけです。
Q1. 相談の段階で、編集用の元データまで送ってもらう必要はありますか?
見積もりを出すだけなら不要です。中身が確認できる画像かPDFがあれば、作り直すのか流用するのかの判断は付きます。元データは容量が大きく、フォントが手元に無いと表示も崩れるため、相談の段階では詰まりの原因にしかなりません。受注が決まってから、別の共有の仕組みで受け取る形に分けておくと、入り口を軽く保てます。
Q2. 相談者からファイルが送れないと言われます。どこを直せばよいですか?
まず容量です。多くのメールサービスで添付の上限は25MB前後で、印刷用のPDFや写真を数枚付けると簡単に超えます。送信エラーは送った側にしか返らないので、事務所側は届いていないことにすら気づけません。送信フォームにファイルの欄を置き、受け取る枚数と形式を先に決めておくと、この往復がなくなります。届かなかった相談者の一部は再送せずに他社へ行くため、この取りこぼしは後から数えることもできません。
Q3. 参考の写真は何枚まで受け取れるようにすればよいですか?
いま使っている現物が1枚か2枚、参考にしたいデザインが2枚か3枚で、見積もりの材料としてはおおむね足ります。合計5枚を上限にしておくと、送る側も何を選ぶかを考えて送ってくれます。上限を決めていないと動画が届くことがあり、どこを見ればよいのかも分からず、結局は追加のやり取りが発生します。印刷物の相談では表と裏で二枚必要になるため、低すぎる上限も同じように往復を増やします。
Q4. 受け取った素材は、いつまで置いておけばよいですか?
法律に具体的な期間の定めはなく、事務所の考え方で決めることになります。大事なのは期間を決めること自体です。決めていないと事実上の永久保存になります。相談から受注に至らないまま6か月経った件は消す、といった形で一つ期間を置けば、削除を月に一度の作業として組み込めます。判断に迷う場面では所管の窓口や専門家に確かめてください。
Q5. 担当者が個人のメールで素材を受け取ってしまいます。どう止めればよいですか?
禁止を先に置くと、隠れて続くだけになります。事務所の窓口に届いた相談が、そのまま担当者の手元に回る形にするのが実務的です。個人の連絡先を教える理由が消えるので、自然に減ります。私物の端末に素材が残ったままだと、退職のときに進行中の案件の材料がまとめて見えなくなり、引き継ぎもできません。案件の記録と素材が同じ場所にある状態を先に作れば、個人の手元に置く動機そのものが減ります。
