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デザイン事務所のエクセル管理から移る|一度に全部を変えない進め方

2026年9月4日 ・ Halict編集部

デザイン事務所の案件管理表は、たいてい一枚の表計算から始まります。相談を受けた日、相手の名前、内容、金額、状況。列が五つか六つの表で、最初のうちは問題なく回ります。制作の相談と見積もりの依頼を数十件抱える程度なら、これで十分足ります。

ところが、ある時期を境に急に回らなくなります。開いたら誰かが編集中で書き込めない、返信したかどうかは受信箱を見ないと分からない、列が二十を超えて横スクロールしないと状況が見えない。それでも表を捨てられないのは、そこに過去の案件が全部入っているからです。

この記事では、デザイン事務所の問い合わせ管理を表計算から移すときに、何をどの順で移すのかを扱います。一度に全部を移そうとすると、ほぼ確実に途中で止まります。止まらない進め方は、移す範囲を最初に狭く区切ることです。デザインの制作工程そのものには触れません。届いたものを受けて返す部分だけを対象にします。

デザイン事務所の表計算管理は、どこまで持つのか

最初の選択としては正しい

表計算で始めることを、遅れた選択のように言うのは正確ではありません。始めるのが早く、費用がかからず、事務所の事情に合わせて列を足せる。案件が少ないうちは、専用の仕組みより速く動きます。

とくにデザイン事務所は、扱う制作物によって管理したい項目が違います。印刷物なら部数と入稿日と印刷会社、Webなら公開予定日とサーバーの契約先、動画なら撮影日と素材の所在。この幅を最初から専用の仕組みで受けようとすると、設計に時間がかかりすぎます。表計算なら、必要になった列をその場で足せます。

だから、表計算をやめる理由は「古いから」ではありません。特定の限界に当たったからです。その限界がどこに現れるかを知っておくと、移す判断が感覚ではなくなります。

回らなくなる合図は三つ

一つ目は、同時に触ると壊れることです。二人が同じ表を開いて、それぞれ別の行を書き換える。片方の変更が消える、行がずれる、古い版が上書きされる。共有の仕組みを使っていても、同じ行を同時に触れば問題は起きます。壊れた回数を数えられるようになったら、限界の合図です。

二つ目は、受信箱との二重管理です。相談は受信箱にあり、状況は表にある。返したかどうかを知るには受信箱を見て、金額を知るには表を見る。この二か所を突き合わせる作業が毎日発生している状態は、表計算の外に半分の情報が置かれていることを意味します。

三つ目は、列が増えすぎることです。必要になるたびに足した結果、横に長い表ができます。横スクロールしないと状況が見えない表は、開いた人が全体を把握できません。把握できないので、埋めない列が出てきます。埋めない列がある表は、集計に使えなくなります。

件数より、関わる人数で限界が来る

よくある誤解は、件数が増えたら移すというものです。実際には、件数より関わる人数のほうが先に限界を作ります。1人で回している事務所なら、数百件を表計算で管理していても壊れません。同時に触る人がいないからです。

2人目が入った時点で、同時編集の問題と、状況の言葉のぶれが同時に発生します。「対応中」と書く人と「進行中」と書く人が混ざり、集計できなくなります。3人目が入ると、誰がどの案件を持っているかを表の外で確認する会話が増えます。

外部の協力者が加わる場面も同じです。イラストやコーディングを外に出すと、その工程の状況を表に入れるかどうかという問題が出ます。入れるなら表を共有することになり、共有すると他の案件の金額や相手の名前まで見えます。

移す前に、いまの表を読む

移行を決めたら、すぐに新しい場所を作りたくなります。その前に、いまの表を読む時間を取ると、後の作業が大きく減ります。読むのは三つの点です。

どの列が実際に埋まっているか

表を開いて、列ごとに空欄の割合を見ます。半分以上が空欄の列は、運用の中で使われなくなった列です。作ったときには必要だと思ったが、実際には埋める場面が無かった。この種の列が、長く使った表には必ず溜まっています。

埋まっていない列を移すと、新しい場所でも埋まりません。埋まらない項目が並んでいる画面は、全体が信用されなくなります。移す対象からは外し、必要になったときに足す形にします。足すのは簡単で、減らすのは難しいという順番を覚えておきます。

どの列を見て判断しているか

空欄が少ない列でも、判断に使っていない列があります。案件の番号、登録した日、細かい仕様の記録。埋めてはいるが、それを見て何かを決めたことはない。この種の列も、移す優先度は低い。

判断に使っている列は、日々の会話に出てくる列です。あの案件どうなってる、次いつまで、いくらの話だった。この会話で参照される項目が、実際に必要な項目です。数日のあいだ会話を意識して聞いておくと、はっきりします。

表の外に出ている情報はどれか

表に入っていない情報が、必ずあります。返信したかどうかは受信箱、素材の置き場は共有フォルダ、相談の経緯は担当者の記憶。この「表の外」を書き出しておくと、移す先に何が必要かが具体的に決まります。

移行で得られるいちばんの効果は、実はここにあります。表を新しい場所に置き換えることではなく、表の外に出ていた情報を同じ場所に入れることです。表だけを置き換えても、二か所を見る生活は変わりません。

一度に全部を移そうとすると、止まる

過去の案件を移すところで止まる

移行を決めた事務所の多くが、まず過去の案件を全部移そうとします。数年分、数百件から数千件。この作業には、単なる転記以上の手間がかかります。表の列と新しい場所の項目が一対一で対応しないからです。

「内容」の列に自由に書かれた文章を、制作物の種類と検討の段階に分け直す。「状況」の列に人によって違う言葉で入っているものを、決めた分類に振り直す。空欄になっている項目を、当時の記録を探して埋める。この作業を数百件分やろうとして、数十件で止まります。

止まった時点で、新しい場所には数十件だけ、古い表には全部が入っている状態になります。この状態がいちばん悪い。どちらを見ればよいか分からなくなり、結局両方を見ることになります。

進行中の案件が二重管理になる

過去の分と並んで問題になるのが、いま動いている案件です。新しい場所に移したつもりでも、担当者は慣れた表を開き続けます。表を更新し、新しい場所は更新しない。あるいは両方を更新して、手間が二倍になります。

二重管理は数週間しか続きません。人は二か所を更新し続けられないからです。どちらかが更新されなくなり、更新されなくなったほうが古い情報を持ったまま残ります。そして、たまたま古いほうを見た人が誤った判断をします。

誰も新しい場所を見ない期間ができる

移行の途中には、新しい場所にまだ情報が薄い期間があります。この期間に、担当者が新しい場所を開く理由がありません。開かないので慣れず、慣れないので使いにくく感じ、使いにくいので開かない。数週間でこの循環に入ると、移行そのものが立ち消えます。

これを避けるには、新しい場所に「そこにしか無い情報」が最初から入っている状態を作ります。全部を移すのではなく、ある種類の情報だけを完全に移す。そうすれば、その情報を見るために必ず新しい場所を開くことになります。

移す順番を決める

第一段階は、新しく届く相談だけ

移行の入口として最も確実なのは、これから届く相談を新しい場所で受けることです。サイトの問い合わせを送信フォームに寄せ、届いた相談がそのまま記録として残る形にします。過去の分には一切触りません。

この段階で得られるものは二つあります。今日以降に増える分が散らばらなくなること、そして担当者が新しい場所を毎日開く理由ができることです。新しい相談はそこにしか無いので、見ないわけにいきません。使い方は、実際の案件で自然に覚えます。

期間としては、この段階だけで一か月から二か月続けて構いません。焦って次に進むより、新しい相談の扱いが安定してから進むほうが結果的に速い。この間、進行中の案件は表計算のまま動かします。並行して動いていても、対象が分かれているので混乱しません。

第二段階は、進行中の案件だけ

新しい相談の扱いが安定したら、いま動いている案件を移します。進行中の案件は数が限られているので、現実的な作業量に収まります。20件から30件程度であれば、半日で移せます。

移すときに、全部の列を持っていく必要はありません。いま判断に使っている項目だけを移します。相手、内容、金額、状況、次にやること、期限。過去の経緯は表計算に残っているので、必要になったときに見に行けばよい。

この段階が終わると、表計算を毎日開く理由が消えます。動いている案件は全部新しい場所にあるからです。ここまで来れば、移行はほぼ完了しています。

第三段階で、過去の案件は移さない

過去の案件は、移さないという判断ができます。表計算のファイルを読み取り専用にして、参照用として残す。これで十分な場合がほとんどです。

過去の案件を見る場面は、実は限られています。同じ相手から再び相談が来たとき、以前の見積もりの条件を確かめたいとき、実績として制作物を振り返るとき。どれも頻度が低く、そのために数百件を移す手間は見合いません。

読み取り専用にしておく理由は、更新されないことをはっきりさせるためです。編集できる状態で残すと、誰かが書き込み、新しい場所と食い違います。凍結したファイルであることが分かる名前を付けて、置き場所も一か所に決めておきます。

移す前に決めておくこと

列を減らす

移す作業のいちばんの罠は、いまある列を全部持っていこうとすることです。表計算で増え続けた列には、使われていないものが必ず混ざっています。

判断の基準は、その列を見て何かを決めたことがあるかどうか。直近の数か月で一度も参照していない列は、移す必要がありません。移してから足すのは簡単ですが、移してから減らすのは、埋まってしまった後だと手間がかかります。

デザイン事務所の案件管理で、実際に判断に使われている項目はそれほど多くない。相手、制作物の種類、金額の規模、状況、次にやること、期限。この六つに絞っても、日々の判断はできます。工程ごとの細かい記録は、案件ごとの記録の中に文章として残せば足ります。

状況の言葉をそろえる

表計算で最も荒れやすいのが状況の列です。「対応中」「進行中」「作業中」が混在し、「保留」と「ペンディング」が同じ意味で使われ、終わった案件が「完了」と「納品済」に分かれます。

移す前に、この言葉を決めます。相談中、見積もり提出済み、受注、制作中、納品済み、失注、対象外。事務所の実態に合わせて七つ前後に収めます。数を増やすと、選ぶときに迷います。迷う分類は使われません。

決めた言葉は、選ぶ形にします。手で入力する形にしていると、必ずぶれます。選択肢から選ぶ形になっていれば、集計がそのままできます。

期限の持たせ方を決める

表計算では、期限を一つの列にしか持てないことが多い。実際の案件には期限が複数あります。見積もりを出す期限、初校を出す期限、入稿の期限、納品の期限。一つの列に入れると、直近のものだけが見える状態になり、その先が見えません。

移す前に、どの期限を持つかを決めます。受けて返す部分の管理としては、次にこちらが動く日を一つ持てば足ります。見積もりを出す日、返信する日、確認の連絡をする日。制作工程の細かい期限は、受注後の工程管理として別に持つほうが整理されます。

この整理をしておくと、移した後に見る画面が単純になります。今日と明日にこちらが動く案件だけが並ぶ状態になれば、朝に一度見るだけで抜けが防げます。期限が複数入り混じった表では、この見方ができません。

誰が見られるかを決める

表計算をそのまま共有していると、全員が全部の案件を見られる状態になっています。金額も、相手の名前も、断った理由も。人数が少ないうちは問題になりませんが、外部の協力者が加わる場面では見直しが要ります。

あわせて、移行のときに古いファイルが複製される点にも注意が要ります。移す作業の途中で、担当者が手元にコピーを作り、そのまま残ります。案件の記録には相談者の氏名や連絡先が含まれているので、コピーが増えるほど把握できなくなります。

個人情報の保護に関する法律は、安全管理について次のように定めています。

個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失又は毀損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。 出典: 個人情報保護委員会

何が必要かつ適切かは事務所によって変わるため、判断に迷う場面では所管の窓口や専門家に確かめてください。実務として決められるのは、移行の作業を終えたときに、作業用に作ったコピーを消すところまでを手順に入れておくことです。手順に書いていないと、必ず残ります。

移す途中で起きる、よくあるつまずき

段階を分けても、実際に動かすといくつか引っかかります。先に知っておけば、その場で対処できます。

電話とメールで来た相談が、新しい場所に入らない

第一段階でサイトのフォームを新しい場所に寄せても、電話で受けた相談と、担当者の個人のメールに直接届いた依頼は入りません。この抜けを放置すると、新しい場所の記録が不完全になり、そこを見ても全体が分からない状態に戻ります。

対処は二つあります。受付が代わりに入力する形にするか、折り返しの連絡でフォームの案内を送る形にするか。既存の取引先からの依頼は前者、初めての相手からの電話は後者が向きます。どちらにするかを決めていないこと自体が問題なので、決めてしまえば運用に乗ります。

入力の手間を気にして決めきれない場合は、最初は最小限の項目だけ入れる形で構いません。相手と内容と日付が入っていれば、記録としては成立します。詳しい条件は返信のやり取りで埋まります。

古い表の「内容」の列が、そのままでは移せない

進行中の案件を移す段階で必ず出てくるのが、自由に書かれた文章の扱いです。「A社パンフ 8P 4C 修正2回目まで完了 印刷は先方手配」といった書き方が並んでいます。これを新しい場所の項目に分け直そうとすると、一件ずつ判断が要ります。

分け直そうとしないことです。文章はそのまま文章として移し、分類が必要な項目だけを別に埋めます。制作物の種類と状況と期限。この三つだけを新しく決めれば、残りは文章のまま持っていって支障ありません。全部を構造化しようとすると、20件の移行が数日仕事になります。

慣れた担当者が古い表を開き続ける

第二段階が終わっても、長く表計算を使ってきた担当者は開き続けます。悪意ではなく、手が覚えているからです。開いた結果、そこに古い情報が見えるので、それを信じて動きます。

確実な対処は、第二段階の完了と同時に、表計算を読み取り専用にすることです。書き込めなくなれば、更新のために新しい場所を開くしかなくなります。読み取り専用にする前に、進行中の案件が全部移っていることを一度確かめておきます。確かめずに凍結すると、移し漏れた案件が宙に浮きます。

新しい場所の項目が、実務に合わない

移した後で、必要な項目が足りないことに気づく場面があります。印刷会社の名前を入れる場所が無い、色数を書く場所が無い、支給素材の有無を書く場所が無い。

この時点で作り直そうとしないことです。当面は自由に書ける欄に文章として書いておき、同じ内容を三回以上書いたら項目として足す。この基準を決めておくと、思いつくたびに項目が増えることを防げます。項目が増えすぎた表を捨てて移ってきたのに、同じことを繰り返すのはよくある展開です。

移した直後だけ、入力が増えたように感じる

新しい場所を使い始めた最初の週は、入力の手間が増えたように感じます。慣れていないので操作に時間がかかり、以前は書いていなかった項目を埋めるからです。

ここで戻ってしまう事務所があります。判断は、二週間から三週間使ってからにします。慣れた後でも手間が減っていないなら、項目が多すぎるか、入力の場所が実務の流れに合っていません。慣れの問題と、作りの問題を分けて考えることが大事です。

移行の作業を、誰がいつやるか

移行が止まる理由の半分は、作業として予定に入っていないことです。制作の合間にやろうとすると、常に後回しになります。

担当を一人に決める

複数人で分担すると、決め方がぶれます。列をどう減らすか、状況の言葉をどうそろえるかは、一人が決めたほうが早く、後から直すのも簡単です。作業そのものは分担できますが、決めるのは一人に寄せます。

決める人は、日常的に相談を受けて返している人が向きます。制作だけを担当している人が決めると、実務で必要な項目が抜けます。抜けた項目は運用が始まってから足すことになり、そのときには既に埋まっていない行が溜まっています。

時期は、繁忙期を外す

移行の作業に必要な時間そのものは多くありません。第二段階の20件から30件を移すのは半日程度です。問題は、その半日を確保できるかどうかです。

案件が立て込む時期に始めると、第一段階で止まります。新しい相談の扱いが安定する前に手が回らなくなり、両方が中途半端になります。比較的落ち着く時期に第一段階を始め、繁忙期に入る前に第二段階まで終えておくと、繁忙期の混乱がむしろ減ります。忙しいときこそ、返していない相談が見える形になっている効果が出ます。

表計算に残しておいてよいもの

移行というと、表計算を使わなくなることだと考えられがちですが、そうではありません。表計算が得意な仕事は残せます。

売上の集計、年度ごとの推移、制作物の種類ごとの単価の分析。数字をまとめて眺める作業は、表計算のほうが速い。案件の記録から必要な列を書き出して、表計算で分析する形にすれば、両方の良いところが使えます。

残すべきでないのは、日々動く情報です。誰が担当しているか、返信したか、次に何をするか、いつまでにやるか。この種の情報は複数人が同時に書き換えるので、表計算では壊れます。動く情報は受けて返す場所に置き、止まった数字を表計算で見る。この線を引くと、どちらも無理なく使えます。

見積もりや請求の管理は分けて考える

デザイン事務所の表計算には、案件の管理と一緒に、見積もり番号や請求の状況まで入っていることがよくあります。この部分は、問い合わせの管理とは別の話です。会計の仕組みや請求書の発行に使っている道具との関係があるので、同じ移行に巻き込むと範囲が一気に広がります。

移行の対象は、相談が届いてから受注が決まるまでに区切ります。受注後の請求や入金の管理は、いまの形のまま残しておいて構いません。両方をつなぐ必要が出てきたら、そのときに考えれば足ります。範囲を広げないことが、途中で止まらない最大の条件です。

移す先を選ぶときの軸

移す先を比べるとき、機能の一覧を並べても判断がつきません。表計算で詰まっていた三つの点が解けるかどうかで見ると、絞れます。

第一に、届いた相談がそのまま記録になるかどうか。転記が発生する形だと、表計算のときと同じ手作業が残ります。無料で使える定番の道具と、送信されたあとの扱いがどう違うのかは、Googleフォームとの比較で、回答が表に溜まったあとに何が起きるかという観点から整理されています。表に溜まる形は、表計算の延長線上にあります。

第二に、返信したかどうかが件ごとに残るかどうか。ここが解けないと、受信箱との二重管理が続きます。すでにサイトにフォームを置いている事務所であれば、Contact Form 7との比較に、送信の通知だけが飛ぶ状態と、送信後の管理まで持つ状態の違いがまとめられています。

第三に、複数人が同時に触れるかどうか。表計算をやめる理由の大半はここにあるので、実際の動きを確かめておく価値があります。動くところを見るで、送信されたあとの画面がどうなっているかを触れます。送信されたあとの道具がそろっているかどうかは、フォームを作る画面を見ても分かりません。どこまでが基本に含まれるのかは料金に書かれているので、移す前に確かめておくと後から作り直さずに済みます。

移したあと、うまくいっているかを確かめる

移行が成功したかどうかは、感覚では判断できません。三つの材料で確かめます。

一つ目は、表計算を開いた回数です。移行から一か月経っても毎日開いているなら、移しきれていない情報があります。何を見るために開いているのかを確かめれば、それが移すべき残りです。二つ目は、返していない相談が何件残っているか。移行前より減っていなければ、記録の形が変わっただけで運用は変わっていません。三つ目は、担当を確認する会話の回数です。誰が持っているかを口頭で聞く場面が減っていれば、記録が機能しています。

この三つは、移行から一か月後と三か月後に見ます。一か月では慣れの問題が混ざるので、三か月後の数字のほうが実態に近い。慣れていないことによる不便は時間が解決しますが、移しきれていないことによる不便は時間が経っても消えません。この二つを取り違えると、直すべきところを直さないまま「使いにくい道具だった」という結論に落ち着きます。

確かめた結果、移しきれていない情報が見つかった場合の対処は単純です。その情報だけを追加で移すか、あるいは表計算に残したままにすると決めて、どちらで運用するかを明文化します。宙に浮いたまま放置するのがいちばん悪い。どちらかに決めてしまえば、開く場所が一つに定まります。

デザイン事務所以外の受付でも、同じ構造が出てきます。表計算で始めた管理が、人数が増えた時点で壊れる。どの場面でどう詰まるのかは、問い合わせの受付に、受け取ってから返すまでの流れとして整理されています。求人の応募を同じ表で管理している事務所であれば、採用の応募受付のほうも合わせて見ておくと、混ぜてはいけない線がどこにあるのかが分かります。

移行が終わったあとで、表計算に戻したくなる場面もあります。特定の集計をしたい、一覧を印刷して持ち歩きたい、取引先に一覧を渡したい。この種の必要が出たときは、戻すのではなく書き出す形で対応します。案件の記録から必要な列だけを取り出して表計算で開けば、目的は果たせます。管理の場所を戻す必要はありません。

書き出したファイルは、その場限りのものとして扱います。作業が終わったら消す。残すと、それが二つ目の管理表になり、時間が経つほど中身が古くなります。古い一覧を見た誰かが誤った判断をするのは、移行前に起きていたことと同じです。書き出すのは簡単なので、必要になったときにもう一度作れば足ります。

進め方として押さえるべき点は一つです。移す範囲を最初に狭く区切ること。新しく届く相談だけ、次に進行中の案件だけ、過去は移さない。この順番なら、どの段階で止まっても損失が出ません。全部を一度に移そうとした場合だけ、途中で止まったときに二か所を見る生活が残ります。

もう一つ添えるなら、移行の目的をはっきりさせておくことです。表計算をやめること自体が目的になると、移した先で同じ形を再現して終わります。目的は、返していない相談を無くすこと、誰が持っているかを口頭で確認しなくて済むようにすること、素材と相談を同じ場所に置くこと。この三つのどれが自分の事務所でいちばん困っているのかを先に決めておくと、移す先を選ぶときも、移した後の確かめ方も、迷わずに決められます。困っていることが特定できていない状態で道具を比べ始めると、機能の数で選ぶことになり、たいてい重い仕組みを選んで使いこなせません。困っていることが一つに絞れていれば、それが解ける形かどうかだけを見ればよく、比較にかける時間そのものが短くなります。

移行を終えた事務所に共通しているのは、始める前に範囲を狭く区切っていたことです。全部を良くしようとせず、いちばん困っている一つだけを先に解く。解けたことが確認できてから次に進む。この進め方なら、途中で止まっても、その時点までの改善は残ります。一度に全部を変える計画は、完了しなければ何も残りません。同じ手間をかけるなら、途中で止まっても何かが残る形を選ぶほうが確実です。範囲を狭く切ることは、慎重さではなく、確実に終わらせるための手順です。

Q1. 過去の案件は、全部移さなくても問題ありませんか?

問題ありません。過去の案件を見る場面は、同じ相手から再び相談が来たとき、以前の条件を確かめたいとき、実績を振り返るときに限られます。頻度が低いのに数百件を移す手間は見合いません。表計算のファイルを読み取り専用にして参照用に残し、凍結したと分かる名前を付けて置き場所を一か所に決めておけば足ります。編集できる状態で残すと誰かが書き込み、新しい場所と食い違うので、読み取り専用にすることが重要です。

Q2. 何件くらいになったら表計算をやめるべきですか?

件数より、関わる人数のほうが先に限界を作ります。1人で回しているなら数百件でも壊れませんが、2人目が入った時点で同時編集の問題と状況の言葉のぶれが同時に出ます。3人目で、誰が持っているかを表の外で確認する会話が増えます。外部の協力者に表を共有する必要が出たときも、見直す時期です。共有すると他の案件の金額や相手の名前まで見えてしまうため、人数の問題は同時に権限の問題にもなります。

Q3. 移行の期間はどれくらい見ておけばよいですか?

新しく届く相談だけを新しい場所で受ける段階に、一か月から二か月かけて構いません。この間は進行中の案件を表計算のまま動かします。扱いが安定してから進行中の案件を移すと、20件から30件程度なら半日で終わります。焦って次に進むより、段階ごとに安定させたほうが結果的に速く終わります。案件が立て込む時期に始めると第一段階で止まるので、落ち着く時期を選んで始めます。

Q4. 移行の途中で二重管理になるのを、どう防げばよいですか?

対象を分けることで防げます。新しく届く相談は新しい場所、進行中の案件は表計算、と決めておけば、同じ情報を二か所に書く場面が生まれません。両方に同じ案件を入れると、数週間で片方が更新されなくなり、古いほうを見た人が誤った判断をします。二重管理は人の意志では続きません。第二段階が終わった時点で表計算を読み取り専用にしておくと、この状態に戻ることを構造的に防げます。

Q5. 表計算は完全に使わなくなりますか?

使い分ければ残せます。売上の集計、年度ごとの推移、種類ごとの単価の分析といった、数字をまとめて眺める作業は表計算のほうが速い。残すべきでないのは、担当、返信済みかどうか、次にやること、期限といった日々動く情報です。動く情報は受けて返す場所に置き、止まった数字を表計算で見る形にします。案件の記録から必要な列を書き出して分析する形にすれば、両方の良いところが使えます。

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