美容室で問い合わせや予約を表計算ファイルの台帳で管理している店は多い。始めるのが簡単で、列を自由に足せて、追加の費用もかからない。実際、件数が少ないうちは、これでほとんど困りません。
困り始めるのは、触る人が二人になったときです。片方が開いていると、もう片方は読み取り専用でしか開けない。書き込みたい人が待つことになり、待てないので手元にコピーを作る。コピーが増えると、どれが最新か分からなくなります。この一点が、表計算の台帳を抱えている店で最初に効いてくる詰まりです。
この記事では、指名と相談の問い合わせを受けている美容室を前提に、表計算の台帳から移るかどうかをどう判断し、移すと決めたら何から切り出すのかを順に並べます。移さなくてよい場合も先に書きます。いま使っているものを否定する話ではありません。
美容室の表計算ファイルは、何を抱えているか
予約と来店の台帳
最も大きいのが、予約と来店の記録です。日付、時間、名前、電話番号、担当したスタイリスト、施術の内容、金額。ここに、前回までの施術の記録が横に伸びていきます。
美容室の台帳が横に長くなるのは、来店のたびに列が増えるからです。前回のカラーの配合、放置した時間、仕上がりのメモ。縦に足していくと同じ人の行が増えて探せなくなるので、横に伸ばす形になり、画面をどこまでも右にスクロールする台帳ができあがります。
問い合わせの一覧
次に多いのが、届いた問い合わせを転記した一覧です。予約サイトのメッセージ欄や公式アカウントに届いたものを、手で表に写す。写す作業そのものが負担なので、忙しい日は飛ばされます。飛ばされた分は、表に存在しない件になります。
この一覧には、返信したかどうかの列が付いていることが多い。付いていても、更新するのは別の作業なので、実態とずれていきます。返したのに印が付いていない件と、印が付いているのに返していない件が、両方できます。
求人の応募の一覧
三つ目が、応募の一覧です。応募者の名前、連絡先、いまの勤務先、書類を受け取った日、面談の予定。これも同じファイルの別のシートに入っていることがあります。
ここが混ざっているのは、扱いとして重い。応募者はいま働いている店に知られたくないのが普通で、お客さまの台帳と同じファイルにあると、開ける人の範囲が同じになってしまいます。
同時に開けない問題が、いちばん先に効く
読み取り専用でしか開けない
表計算のファイルを共有の場所に置くと、先に開いた人が書き込みの権利を持ちます。後から開いた人は読み取り専用になります。
美容室では、これが実務に直接ぶつかります。受付が予約を入れようとしているときに、店長が売上の集計で同じファイルを開いている。書き込めないので待つ。待っている間にお客さまを待たせることになります。
回避のために、開いたら閉じるという約束を作る店もありますが、続きません。閉じ忘れは必ず起きますし、閉じ忘れた人が休みの日だと、その日は誰も書き込めません。
手元にコピーが増える
待てないので、コピーを作ります。デスクトップに置いた作業用のファイル、日付を足した控え、送ってもらった添付をそのまま保存したもの。
コピーが増えると、二つの問題が起きます。一つは、どれが最新か分からなくなること。もう一つは、消す作業の対象から漏れることです。決めた期間で情報を消す運用を作っても、コピーの存在を把握していなければ、そこには残り続けます。
法律は、扱わせる人についてこう定めています。
個人情報取扱事業者は、その従業者に個人データを取り扱わせるに当たっては、当該個人データの安全管理が図られるよう、当該従業者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。 出典: 個人情報保護委員会
必要かつ適切な監督が何を指すかは、店の状況によって変わります。判断に迷う場面では所管の窓口や専門家に確かめてください。ただ、誰の手元に何部あるのか把握できていない状態が、説明しやすい状態でないことは分かります。
スマートフォンから触れない
三つ目が、端末の問題です。美容室の受付は、鏡の前や施術の合間に発生します。パソコンの前に座っていない時間のほうが長い。
表計算のファイルは、スマートフォンからも開けますが、横に長い台帳を小さな画面で扱うのは現実的ではありません。結局、後でパソコンの前に座ったときにまとめて入力することになり、その間の記録は記憶か紙のメモに置かれます。記憶と紙は、そのまま抜けの原因になります。
表計算のまま続けてよい場合
移行の話をする前に、移さなくてよい場合を書きます。ここに当てはまるなら、無理に変える理由はありません。
触る人が実質ひとり
台帳を触るのが一人だけなら、同時に開けない問題は起きません。オーナーが一人で回している店、家族だけで運営している店。この形なら、表計算の自由さがそのまま利点になります。
列を好きに足せて、計算式を自分で組めて、印刷の体裁も自由に作れる。使い慣れた人にとって、これに勝る手軽さは簡単には出てきません。
件数が少なく、探す時間が問題になっていない
件数が数十件のうちは、探す作業も一瞬です。目で追えば見つかります。現場では、件数が百を超えたあたりから表が回らなくなると言われています。まだそこに達していないなら、急ぐ理由はありません。
判断の目安は、件数そのものより、探すのに時間がかかっているかどうかです。かかっていないなら、まだ問題は起きていません。
移す作業のほうが損になる場面
繁忙期の直前や、スタッフの入れ替わりが重なっている時期に移行を始めると、慣れない操作と忙しさが重なって事故が起きます。移すこと自体が正しくても、時期を選ぶ必要があります。
移すなら、閑散期に入る前に決めて、繁忙期までに定着させる形が現実的です。
移すと決めたら、最初に何を切り出すか
全部を一度に移さない
いちばんの失敗が、台帳のすべてを一度に移そうとすることです。予約、来店の記録、施術の履歴、問い合わせ、求人、売上。全部を同時に動かすと、動かしている間の記録がどこにも無い時期ができます。
そして、決めることが多すぎて止まります。列をどうするか、過去のデータをどう持っていくか、誰が入力するか。全部を一度に決めようとすると、決まらないまま数か月が過ぎます。
問い合わせの受け口から切る
最初に切り出すのは、問い合わせの受け口です。理由は三つあります。
第一に、いちばん詰まっているのがここだからです。転記の手間、返信したかどうかの管理、窓口の散らばり。表計算に写す作業そのものが要らなくなるので、効果がすぐ出ます。
第二に、切り出しても他が壊れないからです。予約の台帳と施術の履歴はそのまま残るので、移行に失敗しても店の運営は止まりません。
第三に、過去のデータを持っていく必要がほとんど無いからです。問い合わせは、対応が終われば参照する機会が減ります。今日から届く分だけを新しい場所で受ければよく、移行の作業がほぼゼロで始められます。
過去のデータをどこまで持っていくか
切り出しの範囲を決めたら、過去分の扱いを決めます。ここで全件を移そうとすると、作業が膨らみます。
現実的なのは、対応が終わっていない件だけを手で移す形です。返信待ちの件、来店の予定が入っている件、選考の途中の応募。これらは20件程度に収まることがほとんどで、手で移せます。
終わった件は、元のファイルを読み取り専用で残しておけば足ります。参照が必要になるのは稀で、必要になったときに開けばよい。全件を移す作業に時間を掛けるより、新しい形を早く動かすほうが効きます。
列を作り直す
そのまま移すと、詰まりも一緒に移る
移行のときにやりがちなのが、いまの表の列をそのまま再現しようとすることです。慣れた形を保てるので安心に見えますが、これをやると詰まりも一緒に移動します。
表計算の台帳の列は、必要になったときに右へ足していった結果です。設計された形ではありません。使っていない列、意味が重なっている列、誰も更新していない列が混ざっています。移行は、それを整理できる数少ない機会です。
残す列、捨てる列、分ける列
列を三つに仕分けます。
残す列は、返信や対応の判断に使っている列です。名前、連絡先、希望の日時、指名の有無、相談の内容、担当、状況。
捨てる列は、しばらく更新されていない列です。作ったときは必要だと思ったが、実際には誰も見ていない。判断は簡単で、直近の何十行かを見て空欄ばかりなら捨てます。
分ける列は、一つの列に複数の意味が入っているものです。美容室の台帳で典型的なのが、備考の欄です。ここに、アレルギーの申告も、駐車場の相談も、前回のクレームも、全部が書かれています。混ざったままだと、見られる人を絞ることも、集計することもできません。
自由記述の欄に全部が入っている
備考の欄をどう分けるかは、移行の山場です。分け方の手がかりは、その欄に書かれた中身を眺めることです。
美容室なら、体質や体調の申告、指名に関する希望、来店時の事情、料金についての約束、この四つに分かれることが多い。特に体質や体調の申告は、他と混ぜないほうがよい。健康に関わる内容は慎重な扱いが求められる情報として整理されることがあるため、扱いに迷う場面では所管の窓口や専門家に確かめてください。
分けたあとは、新しく届く分について、入り口の欄で分かれる形にします。後から人が分類する運用は続きません。
移行の手順
並行で走らせる期間を決める
新しい形を動かし始めても、しばらくは古い表計算のファイルも残ります。両方が動いている期間が生まれるのは避けられません。
決めるのは、その期間の長さです。2週間から4週間が扱いやすい。短すぎると慣れる前に切り替わり、長すぎると二重入力が常態になります。
並行期間の間は、二重に書くのではなく、どちらが正かを決めておきます。問い合わせは新しい場所が正、予約の台帳は古いファイルが正。正が決まっていれば、食い違ったときに迷いません。
切り替える日を決める
期間の終わりに、切り替える日を置きます。この日を決めずに始めると、いつまでも並行のままになります。
切り替えの日は、忙しい日を避けます。定休日の翌日や、予約が埋まっていない日。その日に、古いファイルへの書き込みを止めます。止めるのは削除ではなく、読み取り専用にするだけで足ります。
戻れる用意をしておく
切り替えの日を決めたら、うまくいかなかったときにどうするかも決めておきます。決めておかないと、問題が起きたときにその場で判断することになり、判断した人が責められる形になります。
用意は単純で、古いファイルを切り替えの直前の状態で保管しておくことです。読み取り専用にする前に、その時点の控えを一つ取っておく。戻すと決めたら、その控えから再開できます。
戻る判断をする期限も決めておきます。切り替えから2週間経って回っていなければ一度戻す、といった形です。期限が無いと、回っていない状態がずるずる続きます。
古いファイルをどうするか
切り替えたあと、古いファイルは残すか消すかを決めます。すぐに消す必要はありませんが、置きっぱなしにしないことが要点です。
置きっぱなしにすると、二つのことが起きます。誰かが古いほうを開いて書き込む。そして、消す期間を決めた運用の外に残り続ける。読み取り専用にして置き場所を一か所にまとめ、いつ消すかを決めておけば、どちらも防げます。
手元にあるコピーの回収も、このタイミングで行います。コピーの存在を把握していないと回収できないので、切り替える前に、誰が手元に持っているかを聞いておきます。
移したあとに、戻ってしまう理由
慣れた形が恋しくなる
移行が失敗する最も多い形が、いつの間にか表計算に戻っていることです。急ぎの集計をしたくて書き出し、書き出した先で作業を始め、そのまま新しいファイルが育ちます。
防ぐには、戻る動機をなくすことです。多いのは、新しい場所で見たい形に並べられないという理由です。並べ替えや絞り込みが自由にできれば、書き出す必要が減ります。
書き出せることは、それでも必要
とはいえ、書き出せる機能そのものは要ります。税理士に渡す、集計を別の形で作る、控えを残す。書き出せない道具に移すと、そこで詰まります。
書き出しができることと、書き出した先で作業しないことは両立します。書き出しは持ち出すため、作業は元の場所で。この線を店の中で共有しておきます。
例外の運用が残る
三つ目が、例外です。特定のスタッフだけが古いやり方を続ける、特定の種類の相談だけ表計算に書く。例外が一つ残ると、全体の記録がそこで欠けます。
例外が生まれる理由は、たいてい新しい形で扱いにくい何かがあるからです。責めるより、扱いにくい理由を聞いて直すほうが早い。直せないなら、例外を正式な形として扱い、どこに書くかを決めます。決めていない例外だけが危ない。
表計算のまま改善できる部分もある
移行を決める前に、直せることを直す
移すと決める前に、いまの台帳のまま直せることがあります。直してみて足りるなら、移行は先送りできます。
一つ目が、シートを分けることです。お客さまの台帳と求人の応募が同じファイルに入っているなら、ファイルごと分けます。開ける人の範囲が違うものは、置き場所も分けるのが基本で、これはファイルの操作だけで済みます。
二つ目が、使っていない列を消すことです。横に伸びた台帳のうち、更新されていない列を消すだけで、探す速さが変わります。消す前に控えを取っておけば、戻せます。
三つ目が、入力する値を選択肢にすることです。表計算にも入力規則の機能があるので、担当者名や施術の種類を選ぶ形にできます。表記の揺れが減れば、集計の精度が上がります。
それでも残る限界を確かめる
直したうえで、何が残るかを確かめます。同時に開けない問題は、シートを分けても残ります。件ごとに担当と状況を持たせて、返し忘れを見つける仕組みも、表計算では作りにくい。
スマートフォンから扱えない問題も残ります。横に長い台帳を小さな画面で操作する形は、どう工夫しても実用になりません。
ここまで確かめてから移行を決めると、移す先に何を求めるかがはっきりします。何が足りないのかを確かめずに道具を探すと、比べる軸が定まらず、選んだあとで同じ詰まりに戻ります。
移行の前に、ファイルの棚卸しをする
いま何本あるのかを数える
移す先を選ぶ前にやるべき作業が一つあります。いま台帳が何本あるのかを数えることです。
多くの店で、想定より多く出てきます。共有の場所にある本体、店長の手元の作業用、受付が使っている月ごとのファイル、去年の分の控え、送ってもらった添付をそのまま保存したもの。数えてみると10本を超えることも珍しくありません。
数える目的は、移す対象を決めることと、切り替えたあとに回収する対象を決めることの二つです。把握していないファイルは、移行の対象にも回収の対象にもなりません。
どこに置いてあるかを書き出す
数えたら、置き場所を書き出します。共有の場所、個人のパソコン、外付けの記憶装置、メールの添付、印刷して綴じたもの。
美容室で見落とされやすいのが、印刷した紙です。予約表を朝に印刷して、その日の分をカウンターに置く運用は珍しくありません。紙は台帳の複製なので、扱いとしては同じ重さがあります。移行の対象にはなりませんが、回収と処分の対象にはなります。
もう一つ見落とされやすいのが、メールで送り合った添付です。集計を報告するために送ったファイルが、受信箱の中に残っています。送った本人も忘れています。
中身が重なっているものを見つける
書き出すと、同じ内容が複数のファイルに入っていることが分かります。予約の台帳と問い合わせの一覧に、同じ人の連絡先が両方あるような状態です。
重なりが分かると、移す範囲を減らせます。どちらか一方を正として、もう一方は移さない。重なりを整理しないまま両方を移すと、移した先でも二重に持つことになり、更新のたびにずれます。
入力する人が増えると、書き方が揃わなくなる
表記のゆれが集計を壊す
表計算の台帳は、何でも書けるのが利点であり、弱点でもあります。担当者の欄に、フルネームで書く人、名字だけの人、店内での呼び名で書く人が混ざります。
一人で使っているうちは問題になりません。書いた本人が読むからです。二人目が入ると、集計ができなくなります。同じ人が三通りの名前で数えられるからです。
移行のときは、この揺れを直す機会になります。人の名前、施術の種類、窓口、状況。この四つは、自由に書く形ではなく、決まった選択肢から選ぶ形にします。
選択肢を作りすぎない
選択肢にすると決めたあと、次に迷うのが数です。細かく分けたくなりますが、多すぎると選ぶのに時間がかかり、その他に逃げられます。
目安として、一つの項目の選択肢は6つまでに抑えます。それを超えるなら、分類の切り方を見直します。美容室の相談の種類なら、指名の空き確認、髪型の相談、料金の確認、ヘアセット、求人、その他で足ります。
足りないと感じたら、後から足せばよい。最初から網羅しようとすると、使い始める前に設計で止まります。
自由に書く欄は、一つだけ残す
すべてを選択肢にすると、書けないことが出てきます。相手が書いてきた事情、当日の細かい約束、次回に引き継ぎたいこと。
自由に書ける欄は一つだけ残します。ただし、その欄に何を書くかの基準を決めておきます。基準が無いと、また全部がそこに入ります。「返信や次回の対応で必要になる補足だけを書く」といった一行を、欄の説明として置いておきます。
スタッフへの伝え方と、慣れるまでの支え方
変える理由を、詰まりの話として伝える
道具を変えると伝えると、身構える人が出ます。特に、いまの台帳を作った人がいる場合は、否定されたように受け取られることがあります。
伝え方は、道具の優劣ではなく、詰まりの話にします。「書き込みたいときに開けなくて待つ場面をなくしたい」「写す作業をやめたい」。実際に困っている場面を挙げれば、話が具体的になります。
そして、いまの台帳が悪かったという言い方をしないことです。件数が少ないうちは最適な選び方だったのであり、規模が変わったから合わなくなっただけです。
最初の二週間は、手順を見える場所に置く
新しい形に切り替えた直後は、操作を覚えていない人が出ます。ここで一人ずつ教えて回ると、教える人の時間が全部そこに消えます。
置いておくのは、よく使う操作だけを書いた短い手順です。届いた件を開く、返信する、状況を変える、探す。この四つが書いてあれば、たいていの場面は回ります。分厚い手引きを作ると、誰も読みません。
置き場所は、作業する画面の近くにします。別の場所に保管された手引きは、忙しいときに開かれません。
つまずいた場所を集めておく
切り替えの期間中に、誰がどこでつまずいたかを集めます。集めた結果は、手順の追記に使えますし、道具側の設定を直す材料にもなります。
同じ場所で複数の人がつまずいているなら、それは覚え方の問題ではなく、形の問題です。欄の並び順、選択肢の名前、初期表示。直せる箇所がたいてい見つかります。
集める仕組みは大げさでなくてよい。困ったことを書き留める場所を一つ決めて、切り替えから1か月だけ運用すれば足ります。
移すと、情報の扱いはどう変わるか
表計算のファイルから移すと、扱いの面でも変わることがあります。
一つ目は、開ける人を絞れることです。ファイル単位ではなく、束ごとに分けられます。お客さまの相談を見る人と、求人の応募を見る人を別にできる。同じファイルの別のシートに入っている状態では、これができません。
二つ目は、複製が減ることです。手元にコピーを作る動機が消えるので、把握できない場所に残る中身が減ります。
三つ目は、消す作業ができることです。決めた期間を過ぎた件を、条件で絞って消せます。表計算のファイルでは、行を消しても、控えのファイルには残ります。
一方で、変わらないこともあります。予約サイトの側に残る記録、公式アカウントのトークに残るやり取り、紙のカルテ。移行しても、これらは別の場所にあります。どこに何があるかの一覧は、移行の前後どちらでも要ります。
予約サイトや公式アカウントとの関係
移行しても、外の窓口は残る
問い合わせの受け口を新しい場所に移しても、予約サイトのメッセージ欄と公式アカウントは残ります。これらをサイトの外に出させることはできません。
だから、移行は「全部を一本にする」話にはなりません。決めるのは、写真や体質の申告のような重い中身をどこで受けるか、という一点です。日時の調整は今までどおり各窓口で受けたままでよい。
各窓口の定型文に、詳しい相談の入り口を案内する一行を入れておきます。この一行があるかどうかで、重い中身がどこに集まるかが決まります。案内が無ければ、これまでどおりトークの中に写真が溜まり続けます。
電話で受けたものをどう入れるか
電話は残ります。指名の確認は電話が早いからです。移行後も、電話で受けた内容をどこに残すかを決めておかないと、そこだけが管理の外に出ます。
紙のメモに書いて貼る運用が残っていると、書いた本人が休みの日に、他の人がメモの意味を読み解けません。受けた人がその場で件として残す形にしておけば、休みの人の分を代わりに返せます。件になっていれば、集計の対象にも、消す期間の対象にも入ります。
その場で入力する形が回るかどうかは、端末の置き場所で決まります。カウンターに常時開いている画面があるかどうか。ここが用意できていないと、結局メモに戻ります。
道具を選ぶときに見る軸
移す先を選ぶとき、比べる点を整理します。
第一の軸は、複数人が同時に触れるかどうかです。これが移行の動機なので、ここを外すと意味がありません。触れるだけでなく、誰が更新したかが残るかも見ます。
第二の軸は、届いた件がそのまま入るかどうかです。転記の手間が残る形だと、詰まりの半分しか解けません。無料で使える定番のフォームで受けた場合に、回答が表に溜まったあと何が起きるかは、Googleフォームとの比較に整理されています。すでに表計算の道具一式を契約している店なら、同じ提供元のフォームとの違いをまとめたMicrosoft Formsとの比較のほうが近い比較になります。
第三の軸は、件ごとに担当と状況が持てるかどうかです。返したかどうかが残らないと、二重返信と返し忘れは表計算のときと同じように起きます。すでにサイトにフォームを置いている場合は、Contact Form 7との比較に、送信の通知だけが飛ぶ状態との違いがまとめられています。
何がどこまでできるのかはできることに機能の単位で並んでいます。実際の画面は動くところを見るで触れます。送信されたあとの道具がそろっているかどうかが、表計算から移る価値のほとんどを決めます。フォームを作る画面だけを見ても、その判断はできません。
費用の考え方は料金に、どこまでが基本に含まれるかという形で書かれています。表計算は追加の費用がかからないので、比べるときはここが必ず論点になります。
移したあと、何を見て良し悪しを判断するか
移行の効果を感覚で判断すると、変えたことを正当化する方向に記憶が寄ります。数えられる材料を三つ決めておきます。
一つ目は、待たされる場面の回数です。同時に開けない問題が動機なら、これが減っていなければ意味がありません。減っていない場合、移した範囲が足りていない可能性があります。
二つ目は、転記にかかっていた時間です。問い合わせを表に写す作業が消えたなら、その分が丸ごと浮きます。浮いた時間が何に使われているかまで見ると、次に切り出す範囲が決まります。
三つ目は、返していない件が残った日数です。表計算で管理していたころの数字と比べます。ここが改善していないなら、必要なのは道具の変更ではなく、担当の決め方のほうです。
そして、移行を一度で終わらせようとしないことです。問い合わせの受け口を切り出して落ち着いたら、次に応募の一覧を切り出す。その次に予約の台帳を検討する。一つずつ動かせば、失敗したときに戻せます。全部を一度に動かすと、戻す先が無くなります。表計算の台帳は、長く使われてきた分だけ店の運営に深く入り込んでいます。深く入り込んでいるものを一気に抜くと、抜いた穴のほうが問題になります。詰まっているところから順に、一つずつ外していくのが確実です。
Q1. 美容室でエクセルの台帳をやめるべきかは、どう判断すればよいですか?
触る人が実質ひとりで、探すのに時間がかかっていないなら、急いで変える必要はありません。判断の目安は件数そのものより、同時に開けなくて待つ場面があるかどうかです。書き込みたい人が待ち、待てずに手元へコピーを作っている状態が出ていれば、そこが移行の動機になります。繁忙期の直前に始めるのは避けます。
Q2. 移すとき、最初に何から切り出せばよいですか?
問い合わせの受け口です。転記の手間が消えて効果がすぐ出ること、切り出しても予約の台帳や施術の履歴は壊れないこと、過去のデータをほとんど持っていかなくてよいことの三つが理由です。今日から届く分だけを新しい場所で受ければよいので、移行作業がほぼゼロで始められます。
Q3. 過去のデータは全部移す必要がありますか?
必要ありません。対応が終わっていない件だけを手で移せば足ります。返信待ち、来店予定、選考中の応募を合わせても20件程度に収まることがほとんどです。終わった件は元のファイルを読み取り専用で残しておき、必要になったときに開けば済みます。全件移行に時間を掛けるより、新しい形を早く動かすほうが効きます。
Q4. いまの表の列は、そのまま作り直してよいですか?
そのまま移すと、詰まりも一緒に移動します。表計算の列は必要になるたび右へ足した結果で、設計された形ではありません。使われていない列は捨て、備考のように複数の意味が混ざった列は分けます。特に体質や体調の申告は他と混ぜないほうがよく、扱いに迷う場面では所管の窓口や専門家に確かめてください。
Q5. 移したあと、また表計算に戻ってしまいます。どう防げますか?
戻る動機は、たいてい新しい場所で見たい形に並べられないことです。並べ替えと絞り込みが自由にできれば、書き出す必要が減ります。書き出し機能そのものは必要なので、持ち出すために書き出すのはよいが書き出した先で作業はしない、という線を店の中で共有します。例外を作るなら、どこに書くかまで決めます。
