NPOの事務局のパソコンには、たいてい似た名前の表計算ファイルが並んでいます。会員名簿、賛助会員名簿、寄付台帳、ボランティア登録一覧、そして月ごとのイベント参加者一覧。どれも誰かが必要に迫られて作ったもので、作った本人以外は中身の作りを知りません。
そろそろ別の仕組みに移そう、という話は何度も出ているはずです。ところが実行に移らない理由もはっきりしています。過去の記録をどうするのかが決まらないからです。全部持っていくのか、途中から始めるのか、古い情報をどこまで直してから移すのか。ここが決まらない限り、移行は始まりません。
この記事では、参加と寄付の申し込みを受け付けているNPOが、表計算での管理から別の仕組みへ移るときに、先に決めておくべきことを順番に並べます。取り込みで実際に起きる事故と、その前に確かめる点まで含めて整理します。
まず、表計算で足りている場合を確かめる
一人で回していて件数が少ないなら、替える理由がない
移行の話を始める前に、いまのままで足りるかどうかを確かめてください。次の条件がすべて当てはまるなら、替える手間のほうが大きくなります。
事務局が実質的に一人で、その人だけがファイルを開く。年間の申し込みが数十件で、繁忙期にも一日数件で収まる。受け付けたものは当日中に処理し、途中で止まる件がほとんどない。会員や寄付者への連絡が年に数回で、その都度手で宛名を作っても苦にならない。
この状態なら、表計算は十分に強い道具です。集計も並べ替えも自由で、その団体の事情に合わせて何でも作れます。移行には必ず手間と事故の危険が伴うので、困っていないなら動かさないのが正解です。
表計算のほうが向いている作業は残る
移行したあとも、表計算は使い続けることになります。年度の決算に向けた集計、助成金の申請書に添える数字の整理、複雑な条件での並べ替え。こうした一度きりの作業は、表計算のほうが速く終わります。
移行で目指すのは、表計算をなくすことではありません。日々の受付と対応の記録を表計算から外して、集計のときだけ書き出して使う形にすることです。この区別を最初に共有しておかないと、表計算に慣れた人から反対が出ます。取り上げられると感じるからです。
足りなくなるのは、どの場面か
ファイルが増え、どれが最新か分からなくなる
最初に現れる限界がこれです。作業のたびに複製が生まれます。名簿の複製、送付用に抜き出した表、前の担当者が作った旧版、パソコンの中と共有の置き場の両方にある同じ名前のファイル。
どれが最新かは、更新の日時では判断できません。誰かが開いて閉じただけで日時が変わるからです。結果として、住所変更を反映した版とそうでない版が並び、次に使う人が間違ったほうを開きます。
法律は、扱うデータの正確さについて次のように定めています。
個人情報取扱事業者は、利用目的の達成に必要な範囲内において、個人データを正確かつ最新の内容に保つとともに、利用する必要がなくなったときは、当該個人データを遅滞なく消去するよう努めなければならない。 出典: 個人情報保護委員会
どれが最新か分からない状態は、この求めに応えるのが難しい形です。判断に迷う場面では、所管の窓口や専門家に確かめてください。
二人以上で同時に触れない
事務局が二人になった時点で、次の限界が来ます。片方が開いていると、もう片方は編集できません。
共同編集ができる形にしていても、同じ行を同時に触れば内容が上書きされます。表計算は、行の順番と位置で意味が決まる道具なので、二人が別々に行を挿入すると、参照していた式がずれます。
さらに厄介なのが、片方が並べ替えをしたときです。並べ替えの範囲を間違えると、氏名と連絡先の対応が丸ごとずれます。この事故は、しばらく気づかれません。気づいたときには、どこからずれたのかを追えなくなっています。
誰が対応したかが残らない
表計算は、記録を書く場所であって、作業の履歴を残す道具ではありません。
対応状況の列を作って手で入れることはできますが、入れ忘れが起きます。忙しい日ほど入れ忘れるので、いちばん混乱している時期の記録が空きます。誰が入力したかも残らないので、あとから確認できません。
事務局を複数人で回すようになると、この点が最も痛くなります。誰かが返信したのかどうかが分からず、二重に連絡してしまう。あるいは、両方が「相手が返したはず」と思って誰も返さない。返信の履歴が受付の記録と別の場所にあることが、根本の原因です。届いたあとをどう回すかで比べたい場合はGoogleフォームとの比較に、送信されたあとの部分の違いが整理されています。
削除や訂正の求めに応えられない
会員や寄付者から「登録を消してほしい」という連絡が来たとき、表計算での管理は苦しくなります。
その人の情報が、会員名簿にも、去年のイベント参加者一覧にも、会報の宛名の表にも載っています。どこに載っているかを把握していないので、消し漏れます。次の会報が届いて、本人から再び連絡が来ます。
移行を検討する動機として、これが最も切実な団体は多いはずです。個人情報をどこまで同意を取って持つかの考え方は問い合わせの受付にも関わる話で、移行の設計と一緒に決めておくと二度手間になりません。
引き継ぎで、ファイルの意味が失われる
表計算の限界として最後に挙げたいのが、引き継ぎの弱さです。
担当が代わると、ファイルの作りが分からなくなります。なぜこの列があるのか、この色分けは何を意味しているのか、非表示になっているシートは何なのか。作った本人にしか分からない工夫が、そのまま謎になります。
新しい担当は、謎の部分を触らずに使い続けます。触らないので、いつまでも意味の分からない列が残ります。数年後には、誰も理由を説明できない項目が並んだ表になっています。移行のときに、この機会をどう使うかが分かれ目です。中身を確かめずにそのまま移すと、謎ごと引き継ぐことになります。
事務局の外からは、状況が見えない
理事や、活動に関わっている人から「いま何件の申し込みが来ているか」と聞かれる場面があります。
表計算での管理だと、事務局の担当がファイルを開いて数え、報告することになります。聞かれるたびにこの作業が発生します。しかも、答えた数字がその後どうなったかは、また聞かれるまで分かりません。
見たい人が自分で見られる形になっていれば、この往復が消えます。移行を検討する理由として、これも小さくありません。
移行の前に決める、七つのこと
どこまで持っていくか
いちばん重要な決めごとがこれです。全部を持っていくと、これまでの汚れも全部持っていくことになります。
判断の基準は、その記録をこの先も使うかどうかです。現在の会員と、直近の寄付者と、活動中のボランティア。これらは持っていきます。数年前に一度だけイベントに参加した人の記録を持っていく理由は、たいていありません。
現実的な線引きは、直近の一定期間で切ることです。それ以前のものは、報告や会計のために必要な範囲だけを別に保管し、日々の管理からは外します。持っていく量が減れば、次に説明する整理の作業も軽くなります。
誰を一件とするか
同じ人が複数の表に別々に載っています。会員であり、寄付者であり、ボランティアでもある人は、三つの表に三回登場します。表記も微妙に違います。
移行のときに、これを一人にまとめるかどうかを決めます。まとめると、その人との関わりが一か所で見えるようになります。まとめずに、参加の記録と寄付の記録を別のものとして持つ選択もあります。
どちらを選ぶかは、団体の動き方で決まります。同じ人に何度も関わってもらう形の活動なら、まとめる価値があります。一度きりの参加が中心なら、無理にまとめる必要はありません。決めずに始めると、途中で判断が揺れて、まとまった人とまとまっていない人が混在します。これがいちばん困る結果です。
まとめる場合、何を同一人物の判断材料にするかも決めます。氏名だけでは同姓同名を区別できません。連絡先を軸にするのが一般的ですが、家族で同じ連絡先を使っている場合があるので、そこも見ておいてください。
まとめる作業は、機械に任せきりにしないほうが安全です。氏名の表記が違うだけの同じ人と、本当に別の人を、自動では区別しきれません。候補を機械で出して、最後は人が確かめる。件数が多い場合でも、候補として挙がるのは全体の一部なので、確認できない量にはなりません。
法人と個人を分けて考える
団体の名簿には、個人と法人が混在します。企業からの寄付、他団体からの参加、行政の担当者。
法人の記録では、団体名と担当者名の二つを持つ必要があります。担当者は代わりますが、団体との関係は続きます。表計算では、この二層を一行で表そうとして無理が出ます。担当者が代わるたびに上書きすると、前の担当者との経緯が消えます。
移行のときに、法人と個人を分けて持つかどうかを決めてください。企業や他団体との関わりが多い団体では、ここを分けておくと後の運用が楽になります。
項目の対応表を作る
いまの表の列と、移行先の項目を、一対一で並べた表を作ります。この作業を飛ばすと、取り込みの段階で必ず止まります。
作ってみると、行き先のない列が出てきます。前の担当者が作った意味の分からない列、一度も使われていない列、メモとして自由に書かれている列。これらをどうするかを、対応表の上で決めます。
自由記述のメモ欄は、特に扱いに注意が要ります。中に重要な経緯が書かれていることもあれば、その日限りの走り書きが残っているだけのこともあります。中身を一度読んでから判断してください。読まずに全部持っていくと、移行先が読みにくくなります。
表記のゆれを、どこまで直すか
移行の作業時間の大半は、ここに消えます。
住所の番地が漢数字と算用数字で混ざっている。都道府県が入っている行と入っていない行がある。電話番号にハイフンがある行とない行がある。氏名の姓と名の間が全角の空白だったり半角だったり無かったりする。日付の書き方が三種類ある。
全部を直そうとすると終わりません。直す優先順位を決めてください。連絡に使う項目が最優先です。宛名の氏名、住所、連絡先。これらが揃っていないと、移行した瞬間に連絡が届かなくなります。逆に、集計にしか使わない項目のゆれは、後で直せます。
直すときは、機械でできるところと人がやるところを分けます。ハイフンの有無や全角と半角の統一は、置き換えの機能でまとめて直せます。住所の番地の書き方や、氏名の読み仮名の欠落は、一件ずつ見るしかありません。人がやる作業だけを抜き出しておけば、複数人で分担できます。
古くて連絡が取れない記録も、この段階で見つかります。宛先不明で戻ってきた郵便の記録が残っているなら、その人は移行の対象から外す判断もあります。移してから気づくより、移す前に外すほうが手間が小さくて済みます。
添付や書類の扱い
表計算で管理していると、申込書の画像やPDFは別のフォルダに置かれています。ファイル名と表の行が、担当者の頭の中でだけつながっている状態です。
移行のときに、この対応をどうするかを決めます。書類も一緒に移して申し込みの記録に紐づけるのか、書類は別に残して移行先には記録だけを持つのか。
一緒に移すなら、どのファイルが誰のものかを一覧にする作業が先に必要です。ここが最も手間のかかる部分になることがあります。書類の量が多い団体では、過去のぶんは別に凍結して、これから受け付けるぶんだけ紐づける形にするのが現実的です。
過去に取った同意の扱い
見落とされやすいのがこれです。移行しても、過去に取っていない同意は生まれません。
写真の掲載可否を聞いていなかった参加者の記録を移行しても、その欄は空のままです。会報の送付について明示していなかった寄付者も同じです。移行を機に一斉に確認を取るのか、次に連絡するときに個別に聞くのかを決めておきます。
移行先に「同意の有無」の欄を作るなら、過去のぶんは空欄であることが分かる形にしてください。空欄と、同意なしを区別できないと、あとから判断ができなくなります。
切り替える日を決める
新しい仕組みと表計算を並行して動かす期間は、短いほど安全です。長引くと、どちらにも入っている記録と、片方にしかない記録が生まれます。
日を決めて、その日以降に届いたものは新しい仕組みだけで受ける。過去のぶんは、その前に取り込みを終えておく。この形が最も事故が少なくなります。
決めた日は、事務局の全員に伝えます。とくに、事務を手伝っているボランティアや、たまにしか関わらない理事には、確実に伝わるようにしてください。伝わっていない人が古いファイルを更新し続けると、切り替えの意味がなくなります。
切り替える日は、事業の区切りに合わせると分かりやすくなります。事業年度の初日、大きなイベントが終わった直後、募集期間の合間。区切りに合わせておけば、集計のときに新旧が混ざらずに済みます。月の途中で切り替えると、その月だけ二つの場所から数字を集めることになります。
旧ファイルをどうするか
取り込みが終わったあと、元のファイルをどうするかを決めます。すぐ消すのは危険ですが、そのまま置いておくのも危険です。誰かが開いて使ってしまいます。
現実的なのは、書き込みができない形にして、決められた場所に一定期間だけ保管することです。ファイル名の先頭に、使わないことが分かる語を付けておくのも有効です。そして、保管の期限を決めておきます。期限を決めていないと、いつまでも残ります。
法律は、扱うデータの安全な管理について次のように定めています。
個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失又は毀損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。 出典: 個人情報保護委員会
移行のときに複製が増えることは避けられません。増えた複製をいつ消すかまで決めておくのが、移行の作業の一部です。
取り込みで起きる事故と、その前に確かめること
文字化け
書き出したファイルを取り込むと、日本語が読めない文字の並びになることがあります。文字の記録方式の食い違いが原因です。
この事故は、取り込む前に少数の行で試せば必ず気づけます。逆に、全件を一度に取り込んでから気づくと、取り込んだぶんを消してやり直すことになります。
先頭のゼロが消える
電話番号と郵便番号で必ず起きます。表計算が数値として扱うため、先頭のゼロが落ちます。
書き出したファイルを開いて確かめるときも注意が要ります。開いた瞬間に表計算が数値へ変換し、確かめたつもりが壊れた状態を見ていることがあります。数値ではなく文字として扱う設定にしてから開いてください。
日付が数字になる
日付の列が、意味の分からない五桁の数字に変わることがあります。表計算が内部で日付を数値として持っているためです。
移行先に取り込むと、その数値がそのまま入るか、まったく違う日付になります。入会日や寄付の日付がずれると、会計の照合ができなくなります。日付の列は、取り込み前に必ず表示を確かめてください。
重複した行と、空の行
長く使われた表には、同じ人の行が二つ入っていたり、途中に空の行が挟まっていたりします。空の行は、そこで表が終わったと判断されて、以降が取り込まれない原因になります。
取り込みの前に、行数を数えておいてください。数えていないと、取り込んだ結果が正しいかどうかを確かめられません。
検算のやり方
取り込みが終わったら、必ず確かめます。確かめる項目は三つです。
件数が一致しているか。移行元の行数と、移行先の件数を突き合わせます。1件でもずれていれば、原因を突き止めるまで先へ進みません。
金額の合計が一致しているか。寄付の記録を移した場合、合計金額を比べます。ここがずれるのは、数値でない文字が混ざっている行があるためです。
先頭と末尾と、途中の数件を目で見る。氏名と連絡先の対応がずれていないか、日付が正しいかを、実際の行で確かめます。並べ替えの事故は、この目視でしか見つかりません。
検算は、取り込んだ本人以外の人がやるのが理想です。取り込んだ人は、自分の作業を正しいと思って見るため、ずれに気づきにくくなります。事務局に二人いるなら、片方が取り込み、もう片方が確かめる形にしてください。
取り込みは、一度で終わらせようとしない
すべての表を一度に移そうとすると、どこで失敗したのかが分からなくなります。
会員名簿を移し、検算し、問題がなければ次に寄付の記録を移す。この順で一つずつ進めます。途中で問題が出ても、そこまでは正しいことが分かっているので、戻る範囲が小さくて済みます。
順番は、日々使う頻度の高いものからです。いちばん使う名簿が先に移っていれば、途中で作業が止まっても、その部分は新しい仕組みで回せます。
移行の進め方
時期は、繁忙期を外す
移行の作業中は、両方の仕組みを見ることになります。この状態で申し込みが集中すると、確実に取りこぼします。
年度末や、大きなイベントの募集期間、寄付が集まる時期は避けてください。事業の合間の、いちばん静かな時期を選びます。静かな時期がない団体でも、比較的落ち着く月はあるはずです。件数を数えていれば、その月が分かります。
試験の取り込みを必ずやる
全件を取り込む前に、十件ほどで試します。この一手間を飛ばす団体が多いのですが、飛ばすと上に書いた事故を全件で踏むことになります。
試験のときに見るのは、項目が正しい場所に入っているか、文字が化けていないか、日付と番号が壊れていないかの三点です。ここが通れば、全件でも同じ結果になります。
移行の前に、いま何があるかを一覧にする
作業に入る前に、団体の中にある表計算のファイルを全部書き出してください。ファイル名、置き場所、作った人、最後に使われた時期、行数。
書き出すと、想像より多いことに気づきます。そして、半分近くはもう使われていないことも分かります。使われていないものは移行の対象から外せるので、この一覧を作る時間は必ず回収できます。
一覧を作るときに、そのファイルを誰が使っているかも確かめます。事務局が知らないところで、活動の担当者が自分用の表を持っていることがあります。移行後もそれが残っていると、情報が二か所に分かれた状態が続きます。
一覧は、移行が終わったあとも使います。どのファイルを凍結し、どれを消したかを、その一覧に書き足していけば、作業の記録がそのまま残ります。別に記録を作る必要はありません。
二重運用を長くしない
新旧を並行して動かす期間は、一か月を超えないようにしてください。長くなるほど、どちらにも入っていない記録が生まれます。
並行の期間に届いたものは、必ず新しい仕組みに入れます。慣れないうちは表計算のほうが速いので、つい古いほうに書いてしまいます。これをやると、切り替えたあとに漏れが見つかります。
全員が使える状態にしてから切り替える
移行は、道具を替える作業であると同時に、事務局の全員の作業の仕方を替える作業です。
新しい仕組みに入れるのが一人だけだと、その人が不在のときに元に戻ります。切り替える前に、事務を触る全員が一度は使ってみる時間を取ってください。何ができるのかを先に確かめておきたい場合はできることから見られます。
使ってみる時間は、長く取る必要はありません。実際の申し込みを一件受けて、返信して、対応が終わった印を付ける。この一連を各自が一度やれば足ります。説明を聞くだけでは、切り替えた日に手が止まります。
戻れる状態を残しておく
切り替えの直後に問題が見つかることがあります。取り込みで抜けた記録が見つかる、必要な項目が入っていない、思っていた使い方ができない。
このとき、元の表計算が凍結された状態で残っていれば、確認して直せます。切り替えと同時に元のファイルを消すと、確認する先がなくなります。凍結して残す期間は、少なくとも一つの繁忙期を越えるまで取ってください。繁忙期を一度通してみないと、足りないものは分かりません。
移行の作業を、誰がやるか
事務局の担当が本業の合間にやると、途中で止まります。止まった状態が最も危険で、二重運用が長引きます。
短い期間に集中してやるほうが安全です。一日か二日、他の作業を止めて取りかかる。件数が多い場合でも、決めごとが先に固まっていれば、作業そのものは数日で終わります。時間がかかるのは、決めごとが決まっていない場合です。
移行の作業を始める前に、うまくいったと言える状態を一文で書いておいてください。「事務局の誰が見ても、いま何件が未対応かが分かる」といった形です。到達点が決まっていれば、途中で迷いません。
移行は、記録を作り直す機会になる
持っていかないものを決めるほうが、難しい
移行の作業で神経を使うのは、持っていくものを選ぶことではなく、持っていかないものを決めることです。
使っていない列、意味の分からないメモ、何年も連絡が取れていない人の記録。捨てる判断には勇気が要ります。ただ、持っていけば、その汚れは新しい仕組みの中で生き続けます。数年後に同じ悩みを繰り返すことになります。
判断の基準は、この先の活動で使うかどうかの一点です。使わないものは、必要な保管の範囲だけ別に残して、日々の管理からは外します。
移行後は、記録が副産物として溜まる
移行の効果が最もはっきり出るのは、記録を残す作業が要らなくなる点です。
表計算での管理では、受け付けたことを人が入力し、返信したことを人が入力し、対応が終わったことを人が入力します。この入力が、忙しい日に飛ばされます。移行先では、受け付ければ記録が残り、返信すれば履歴が付きます。送信されたあとを回す道具がそろっている形にしておくと、記録を残すための作業そのものが消えます。
結果として、集計も報告も、日々の作業から自動的に出てくるようになります。年度末にまとめて数え直す作業が要らなくなるのは、この副産物としての記録があるからです。
この効果は、移行の直後には実感しにくいものです。過去のぶんは相変わらず手で数えることになりますし、慣れない操作に時間を取られます。効果が出るのは、切り替えから数か月が経ち、新しい仕組みの中だけで一つの事業が回りきったあとです。その時点で振り返ると、探す時間と数える時間が消えていることに気づきます。
移行しても解決しないこと
期待を正しく持っておくために、移行しても変わらないことも書いておきます。
届く件数は減りません。返信の中身を考える時間も減りません。判断の要る相談が楽になるわけでもありません。移行で減るのは、探す時間、確かめる時間、二重に入力する時間、数え直す時間です。
言い換えると、事務局の仕事のうち、本来やらなくてよかった部分が減ります。そこが減った結果、返信の中身に使える時間が増える。この順番で効いてきます。移行の効果を「楽になる」と一括りにすると、期待と結果がずれます。
移行を機に、受け付ける項目も見直す
過去の記録を移すとき、いまの申し込みの項目が本当に必要かどうかも一緒に見直してください。
長く使っている申込書には、いつの間にか増えた項目が入っています。集めているが誰も見ていない項目、以前の事業でだけ必要だった項目、他団体の様式を写したまま残っている項目。移行のときに落とせば、これから集める情報が減り、管理する対象も減ります。
会員の入会、イベントの参加、寄付の申し出では、必要な項目も残す期間も違います。場面ごとの整理は会員の入会申し込みやイベントの申し込みにあり、項目を見直すときの下敷きになります。
決めごとを書き残しておく
最後に、移行のときに決めた内容を文書にして残してください。どこまで持ってきたか、誰を一件としたか、どの項目をどこへ移したか、旧ファイルをいつまで残すか。
書き残す相手は、次の担当者です。数年後に別の見直しが必要になったとき、この記録があれば同じ調査をやり直さずに済みます。書き残していないと、新しい担当が「なぜこの形なのか」を推測するところから始めることになり、いま表計算で起きているのと同じ謎が、移行先で再生産されます。
移行は、面倒な作業として先延ばしにされがちです。ただ、先延ばしにするほど記録は増え、汚れも増え、移す作業は重くなります。持っていく範囲を決め、切り替える日を決め、静かな時期に一度やってしまう。決めごとさえ先に置いておけば、作業そのものは思ったより短く終わります。
Q1. 過去の記録は、全部持っていくべきですか?
全部を持っていくと、これまでの表記のゆれや不要な列も一緒に持ち込むことになります。判断の基準は、その記録をこの先の活動で使うかどうかです。現在の会員、直近の寄付者、活動中のボランティアは持っていき、それ以外は報告や会計に必要な範囲だけを別に保管して日々の管理から外すのが現実的です。
Q2. 移行するとき、いちばん時間がかかるのはどの作業ですか?
表記のゆれを直す作業です。住所の番地や電話番号のハイフン、氏名の空白、日付の書き方が行ごとに違っています。全部を直そうとすると終わらないので、連絡に使う項目から優先してください。宛名の氏名、住所、連絡先が揃っていないと、移行した直後から連絡が届かなくなります。
Q3. 取り込みでよく起きる事故には、どんなものがありますか?
文字化け、電話番号や郵便番号の先頭のゼロが消えること、日付が五桁の数字に変わること、途中の空行から先が取り込まれないことの四つです。いずれも十件ほどの試験の取り込みで気づけます。全件を一度に入れてから気づくと、消してやり直すことになります。
Q4. 新しい仕組みと表計算を並行して使ってもよいですか?
一か月を超えないようにしてください。長引くほど、どちらにも入っていない記録や、片方にしかない記録が生まれます。切り替える日を決め、その日以降に届いたものは新しい仕組みだけで受ける形にします。決めた日は、事務を手伝うボランティアや理事にも確実に伝えてください。
Q5. 移行しても、過去に取っていない同意は引き継げますか?
引き継げません。写真の掲載可否を聞いていなかった参加者の記録を移しても、その欄は空のままです。移行を機に一斉に確認を取るのか、次に連絡するときに個別に聞くのかを決めておいてください。移行先では、空欄と「同意なし」を区別できる形にしておくと、あとから判断ができます。
