行政書士事務所の個人情報の扱いを見直そうとすると、たいていは保管の話から始まります。どこに置くか、鍵を掛けるか、暗号化するか。ところが実際に事故が起きる場所は、保管の方法よりも手前にあります。誰が見られるのかを決めていないまま、全員が全部を見られる状態で回している。そこです。
許認可の相談と書類の受け取りを窓口で受けている事務所では、問い合わせの一件に、その人の生活と会社の中身がまとめて入ってきます。身分証の画像、戸籍、住民票、決算書、賃貸借契約書、家族の氏名と生年月日。これらが共有のメールアドレスに届き、共有のフォルダに置かれ、事務所にいる全員が開ける状態で置かれています。
この記事では、集まった個人情報の扱いを決めるときに、どこから手を付けると終わるのかを順番に並べます。法律の解釈そのものには踏み込みません。判断に迷う場面では所管の窓口や専門家に確かめてください。ここで扱うのは、受付と返信を回す側が自分で決められる範囲の話です。
行政書士事務所に集まるものは、他の業種より重い
一件で、家族の中身と会社の中身がそろう
行政書士事務所の受付に届くものは、量が多いというより種類が重い。相続の相談なら、被相続人と相続人の氏名と生年月日と続柄が、戸籍という形でまとめて届きます。在留資格の相談なら、国籍と在留の状況と勤務先が届きます。建設業の許可なら、法人の決算の数字と、役員の経歴が届きます。
一般的な問い合わせフォームで集まるのは、名前と連絡先と用件です。行政書士事務所で集まるのは、それに加えて、本人が普段は他人に見せない書類そのものです。一枚の画像に写っている情報の密度が違います。
しかも、それが初回の相談から届きます。契約を結んだあとではありません。まだ受任するかどうかも決まっていない段階で、相手は身分証を撮って送ってきます。集めるつもりが無くても集まってしまう構造になっています。
相談する側は、頼まれる前に出してくる
送る側の心理も、この構造を後押しします。許認可の相談は「うちの状況で通るのか」を聞く相談なので、状況を全部見せたほうが早い答えが返ってくると考えます。だから聞かれる前に出します。
窓口の担当者からしばしば出るのは、聞いてもいない家族構成や病歴や借入の状況まで書かれてくるという話です。本人としては判断材料を渡しているつもりです。受ける側から見れば、頼んでいない情報を預かった状態になります。
預かった以上は、扱いの対象になります。読まなかったから関係ないとは言えません。集めすぎを減らす話は、この時点から始まっています。
もう一つ、紹介で来る相談にも同じことが起きます。取引先や他の士業から「この方の相談に乗ってあげてほしい」と転送されてくるとき、本人が送ったつもりのない資料まで一緒に付いてくることがあります。本人と直接つながる前から情報だけが先に届いている状態は、行政書士事務所ではよく起きます。届いた時点で、事務所が預かったことになります。
集めたその日から、守る対象になる
法律は、事業者に対して次のように定めています。
個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失又は毀損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。 出典: 個人情報保護委員会
必要かつ適切な措置が具体的に何を指すかは、事務所の規模や取り扱う中身によって変わります。断定はできませんし、判断に迷う場面では所管の窓口や専門家に確かめてください。ただ、措置を考える出発点が「誰が触れる状態にあるのか」であることは、どの規模でも変わりません。
行政書士には、法律上の守秘義務も課されています。
行政書士は、正当な理由がなく、その業務上取り扱つた事項について知り得た秘密を漏らしてはならない。行政書士でなくなつた後も、また同様とする。 出典: e-Gov
この義務は本人に課されたものですが、事務所の中で情報が誰にでも見える状態になっていれば、義務を果たせる形になっているとは言いにくい。見られる人を絞るのは、義務を果たすための土台の作業です。
見られる人を決めていない事務所で、何が起きているか
共有のメールアドレスは、全員が全部を見る仕組み
小さな事務所でよく使われているのが、事務所の代表アドレスを全員で開く形です。誰が休んでも対応できるので、運用としては合理的に見えます。
ただ、この形は「全員が全部を見る」という設定そのものです。相続の相談も、在留資格の相談も、求人の応募も、同じ受信箱に並びます。ある担当者が自分の案件を探すために検索すれば、関係のない案件の添付も一緒に出てきます。誰がどの案件を開いたのかは、どこにも残りません。
さらに、代表アドレスは端末にも広がります。外出中に確認できるようにと個人のスマートフォンに設定すれば、その端末の中に事務所の受信箱の複製ができます。端末を替えたとき、退職したとき、そこに何が残っているのかを事務所は把握できません。
共有フォルダは、置いた人以外にも開ける
受信箱から資料を取り出して保存する先が、事務所の共有フォルダになっているのも定番です。案件ごとにフォルダを作り、そこに画像とPDFを置いていく。整理としては正しく見えます。
問題は、そのフォルダを開ける人の範囲が、たいてい「事務所の全員」になっていることです。フォルダは作るときに権限を細かく決められますが、決めるのは面倒なので、最初に作った広い設定のまま使われます。数年経つと、誰がどの範囲まで開けるのかを説明できる人が事務所からいなくなります。
補助者やパートの手伝いが、線を曖昧にする
繁忙期に短期の手伝いを頼む、家族に入力だけ手伝ってもらう、という運用も珍しくありません。作業を頼むこと自体に問題はありませんが、頼み方に線が要ります。法律は、人を使って取り扱わせる場面について次のように定めています。
個人情報取扱事業者は、その従業者に個人データを取り扱わせるに当たっては、当該個人データの安全管理が図られるよう、当該従業者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。 出典: 個人情報保護委員会
監督の中身は事務所ごとに変わりますが、少なくとも「何を見てよくて、何を見てはいけないのか」を伝えていない状態では、監督のしようがありません。作業を頼むときに、触る範囲を口頭で伝えるだけでも、状態は変わります。
紙と画面は、電子の管理とは別に線が要る
見られる人を絞る話は、電子の中だけでは終わりません。行政書士事務所には紙が多く残ります。相談の内容を書いた手控え、印刷した戸籍の写し、届いた郵便、送受信した書面。これらが机の上に積まれていれば、来客はそれを見られる位置に座ります。
現場で起きやすいのは三つです。一つ目は、面談の最中に別の案件の資料が机に出ていること。二つ目は、共用の複合機に出力した書類が取り忘れられて、次に使った人の目に触れること。三つ目は、事務所のパソコンの画面が来客側から見える向きに置かれていることです。
どれも道具を買わずに直せます。面談の前に机の上を片づける、出力は取りに行ける状態のときだけ実行する、画面の向きを変える。電子の権限をどれだけ細かく設定しても、紙と画面がそのままなら、絞ったことにはなりません。
外の人に触らせるときは、範囲を切る
サイトの制作や、業務の道具の導入を外の会社に頼んでいると、その会社が事務所のフォームや管理画面に触れることがあります。設定のために一時的にアクセスさせている状態も含まれます。法律は、扱いを外部に任せる場合について次のように定めています。
個人情報取扱事業者は、個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合は、その取扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。 出典: 個人情報保護委員会
任せる範囲によって必要な監督は変わるので、判断に迷うときは所管の窓口や専門家に確かめてください。受付の側でできるのは、外の人に渡す権限を作業に必要な範囲にとどめ、作業が終わったら戻すことです。渡したまま戻し忘れる状態が、いちばん多い。
見られる人を絞るのは、名簿を作るところから
誰が、どの案件を見るのかを紙に書く
絞る作業は、道具の設定画面から始めると失敗します。設定できる項目が多すぎて、何を選べばよいのか決まらないからです。先にやるのは、紙に書くことです。
書く内容は三列で足ります。人の名前、その人が見てよい案件の種類、その人が見てはいけない案件の種類。事務所に五人いれば五行です。この表を作ると、いま全員が全部を見ている事実がはっきりします。表の上で線を引いてから、道具の設定に落とす。順番はこちらです。
書いたものは、事務所の中で見える場所に置きます。人が入れ替わったときに、書いたものが無いと元の状態に戻ります。
案件の種類で分けると、線が引きやすい
行政書士事務所で線を引きやすいのは、案件の種類です。許認可の申請、相続や遺言、在留資格、そして求人の応募。この四つは、扱う情報の重さも、見る必要のある人も違います。
とくに求人の応募は、他の三つと必ず分けます。応募者の履歴書と、相談者の身分証が同じ場所に並んでいる状態は、どちらの側から見ても望ましくありません。応募者は自分の情報が誰に見られるかを気にしていますし、相談者は自分の書類が採用担当の目に触れることを想定していません。求人の受付をどう分けるかは、採用の応募受付に、応募の受け皿を他の窓口と分けて持つ形として整理されています。
相続の案件も、分けておく価値があります。家族の関係が全部書かれた資料は、事務所の中でも見る人を限りたい種類の情報です。担当と所長だけが見られる形にしておけば、後から説明もしやすい。
権限は、増やすときより減らすときが難しい
絞る作業で見落とされるのが、減らす側です。人を増やすときは権限を付けますが、担当が替わったときや退職したときに外す作業は、たいてい後回しになります。
外す作業を確実にするには、外す場面を決めておくことです。担当が替わった日、退職した日、外注の作業が終わった日。この三つの日に権限を見直すと決めておけば、思い出す必要がなくなります。事務所の規模なら、見直しは10分もあれば終わります。
外し忘れが残りやすいのは、退職者そのものよりも、退職者が使っていた共有の設定です。個人のアカウントは止めても、事務所の代表アドレスを設定したままの私物の端末や、共有フォルダへの招待は残ります。止める対象を人だけで考えると、こちらが抜けます。
事務所の外から見る場面を、先に決める
もう一つ決めておきたいのが、事務所の外から案件を見る場面です。役所への申請で外出している時間が長い業種なので、移動中に確認したい場面は必ず出ます。禁止だけを先に置くと、隠れて私物の端末で見る運用になります。
決めるのは三つです。どの端末から見てよいか、どの案件まで見てよいか、見た内容を端末に残さない形になっているか。移動中に見るのは進行の状況までで、資料そのものは事務所で開く、という線でも実務は回ります。線を引いておけば、外で開くこと自体は後ろめたい行為でなくなります。
集める前に減らす
相談の段と、受任後の段を分ける
見られる人を絞るのと同じくらい効くのが、そもそも集める量を減らすことです。手元に無い情報は、守る必要がありません。
初回の相談で必要なのは、可否の見当を付けて見積もりを出すための材料だけです。手続きの種類、いまの状況、期限の有無、連絡先。身分証や住民票の写しは、受任が決まってから改めて求めれば足ります。段を分けるのは、入り口のフォームを二つに分けるだけで済みます。
段を分けると、二つ得をします。一つは、送る手間が軽くなって相談が増えること。もう一つは、受任に至らなかった案件の重い資料が事務所に残らないことです。受任に至らない相談のほうが多い事務所であれば、その差はそのまま、守らなくてよい情報の量になります。
段を分けるときに決めておくと楽なのが、二段目の案内をいつ出すかです。見積もりを承諾した返信が来た時点、着手金の入金が確認できた時点、面談の日程が決まった時点。事務所によって違ってよいのですが、決めていないと、受任前に資料の画面を案内してしまう人と、受任後もなかなか案内しない人が事務所の中に混在します。
何に使うのかを、集める前に決めて書く
集める量を決めたら、次は使い道です。法律は、利用目的について次のように定めています。
個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱うに当たっては、その利用目的をできる限り特定しなければならない。 出典: 個人情報保護委員会
特定した目的は、送信の画面に書きます。「ご相談への回答と、お見積もりの作成に使います」と一行あるだけで、受ける側の迷いも消えます。後から「この情報を別のことに使ってよいか」を案件ごとに考えなくて済むからです。
書いていないと、事務所の中で判断が割れます。相談で得た連絡先に、セミナーの案内を送ってよいのか。相談の内容を、事例として紹介してよいのか。目的を先に書いておけば、この種の判断は最初から決まっています。
集めた情報を、別のことに使わない
目的を書いたら、その外には使いません。法律は、目的の外の取り扱いについて次のように定めています。
個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない。 出典: 個人情報保護委員会
具体的にどこまでが範囲内かは判断が分かれるので、迷う場面では所管の窓口や専門家に確かめてください。受付の側で守れるのは、相談で得た名簿を営業の一斉送信に使わないという線です。相談してきた人は、案内を受け取るために連絡先を書いたわけではありません。
入り口を絞ると、集まる場所も絞れる
窓口が多いほど、守る場所が増える
行政書士事務所への相談は、一か所には来ません。サイトのフォーム、サイトに載せたメールアドレス、事務所の公式アカウントのトーク、電話、郵送、そして紹介元からの転送。入り口の数だけ、情報が最初に落ちる場所があります。
守る場所は、この落ちる場所の数だけ必要になります。トークの管理画面を誰が開けるのか、代表アドレスを誰が見るのか、郵便を誰が開封するのか。入り口が六つあれば、六つとも決めることになります。決めきれないから、結局どれも全員が触れる状態のまま残ります。
減らし方は、入り口を閉じることではありません。閉じると相談が減ります。重い中身が落ちる場所だけを一つにする、という減らし方です。最初の接触はどの窓口で受けてもよく、資料と詳しい状況は一か所へ送ってもらう。守る対象が一つになれば、名簿も一つで済みます。
電話と郵送は、そのままだと管理の外に出る
電話で聞いた内容を手控えに書いて机に置く運用と、届いた郵便を封筒のまま案件の棚に置く運用は、どちらも管理の外にあります。誰が見たかも、いつ処分したかも残りません。
どちらも、受けた内容を件として残す形にすれば管理の中に入ります。電話で受けたら、その場で件を起こして要点を書く。郵送で届いたら、案件に紐づけて受領した日を残す。手間は増えますが、増えるのは最初の一分だけで、探す時間と説明できない時間が消えます。
置き場所を一つに寄せると、絞る作業が終わる
散らばっていると、絞りようがない
見られる人を絞ろうとしても、情報が受信箱と共有フォルダと表計算のファイルと個人の端末に散らばっていると、絞る作業が終わりません。四か所それぞれに設定があり、四か所それぞれで人が入れ替わり、四か所とも把握し続ける必要があるからです。
現実的な進め方は、置き場所を一つに寄せてから絞ることです。一件を開けば、本文も資料も返信の状況も同じ画面に出る。その一か所についてだけ、誰が見られるかを決める。決める対象が一つになれば、決め直しも一回で済みます。
寄せる効き目は、人が増えたときに出ます。件ごとに担当が付いていれば、自分の担当の件だけが目に入る形にできます。全員が全部を見ないと回らない状態は、共有の受信箱に置いているから起きていることが多い。
寄せる作業は、新しい案件からで足りる
置き場所を一つに寄せると決めても、過去の案件を全部移す必要はありません。全部移そうとすると作業が終わらず、途中で止まって二か所を運用する期間だけが長くなります。
現実的なのは、決めた日から新しく届いた相談だけを新しい場所で受けることです。進行中の案件は、いまの場所のまま終わらせます。数か月経てば、動いている案件のほとんどが新しい場所に入っているので、古い場所は参照だけの置き場になります。参照だけになった時点で、見られる人を所長だけに絞れます。
この進め方の利点は、途中でやめても損が出ないことです。移し替えの作業をしていないので、合わなければ元に戻すだけで済みます。
誰が開いたのかが残るかどうか
もう一つの軸が、記録です。共有のメールアドレスも共有のフォルダも、誰がいつ開いたのかは基本的に残りません。何かあったときに、誰が見られる状態だったのかを説明できません。
説明できる状態にしておく価値は、事故が起きたときだけではありません。事故が起きていないことを確かめるためにも要ります。開いた記録が残る場所に寄せておけば、疑いが生じたときに事実で答えられます。
消す側を決める
保管の話でいちばん抜けるのが、消す側です。法律は、使う必要がなくなったデータについて次のように定めています。
個人情報取扱事業者は、利用目的の達成に必要な範囲内において、個人データを正確かつ最新の内容に保つとともに、利用する必要がなくなったときは、当該個人データを遅滞なく消去するよう努めなければならない。 出典: 個人情報保護委員会
行政書士の業務には、法令や会則で保存が求められる帳簿や書類があります。何をどれだけ残すべきかは受任した業務の中身によって変わるので、所属する会や専門家に確かめてください。事務所が自分で決められるのは、受任に至らなかった相談の資料をどうするかです。
決め方は、期間を一つ置くだけで足ります。相談から動きが無いまま6か月経った件の資料は消す、というような形です。期間が決まっていれば、消す作業を月に一度の定例に組み込めます。思い出したときにやる作業は、いずれやらなくなります。
退職する人の端末も、消す側の話です。個人のスマートフォンに事務所の受信箱を設定していた場合、退職の日にその設定を外す作業が要ります。外す作業は、退職の手続きの一覧に一行足しておけば忘れません。
紙の側も忘れずに決めます。相談の手控え、印刷した写し、届いた封筒。捨て方を決めていないと、可燃ごみの袋に氏名と住所が書かれた紙が入ります。裁断してから捨てるのか、まとめて溶かす処理を頼むのか。頼む場合は、その業者も情報を扱う相手になるので、範囲と方法を確かめたうえで任せます。
消す作業は、月に一度の定例に入れると続きます。30分の枠を月末に取り、期間を過ぎた案件の資料を電子と紙の両方で片づける。作業として枠が無いと、忙しい月から順に飛ばされて、翌年には何も消えていない状態になります。
相談者から「どう管理しているのか」と聞かれる場面が増えている
依頼する側が、預ける前に確かめてくる
法人からの依頼では、契約の前に情報の扱いを確かめられることが増えています。どこに保管するのか、誰が見るのか、外部に出す先はあるのか、案件が終わったらどうするのか。取引先の管理体制を確かめる手順が、依頼する側の社内で決まっているためです。
このとき、事務所が答えられるかどうかで、後の進み方が変わります。名簿と期間が決まっていれば、その場で答えられます。決まっていなければ、確認して折り返すことになり、その一往復が判断を遅らせます。
聞かれてから整えるより、先に整えておくほうが安い。整えると言っても、見られる人の表と、預かった資料の一覧と、消す期間の三つで足ります。
答える内容は、事務所の中の運用と一致させる
書いたことと実際の運用がずれていると、聞かれたときに答えが揺れます。方針の文章だけを立派に作って、実際は共有の受信箱で全部を回している状態がいちばん危ない。
現実的なのは、いまやっていることを正確に書くところから始めることです。書いてみて説明しにくい部分が出てきたら、そこが直す場所です。理想の運用を先に書いて、後から現実を合わせようとすると、たいてい合わないまま残ります。
何かあったときに、説明できる形にしておく
情報が外に出た可能性が生じたとき、最初に必要になるのは、何がどこまで見られる状態だったのかという事実です。ここが分からないと、影響の範囲を確かめることも、本人に知らせることもできません。
漏えいなどが起きた場合の届出や本人への通知については、法律で定められた場面があります。何が該当するのか、いつまでに何をするのかは、事案によって変わるので、個人情報保護委員会の案内を確かめ、必要に応じて専門家に相談してください。
受付の側で事前にできるのは二つです。一つは、見られる人の名簿を紙で持っておくこと。もう一つは、案件ごとに何を預かったのかが一覧で分かる状態にしておくことです。この二つがあれば、範囲を絞って説明できます。無ければ、受信箱を全部さかのぼることになります。
受け皿を選ぶときに見る比較の軸
いま使っている受け皿を変えるとき、どこを比べればよいのかを整理します。作りやすさではなく、集めたあとに誰が見られるのかを決められるかを軸にします。
第一の軸は、件ごとに担当を付けられるかどうかです。担当が付けば、見る人を件の単位で絞れます。無料で使える定番の道具と、送信されたあとの扱いがどう違うのかは、Googleフォームとの比較で、回答が表に溜まったあとに何が起きるかという観点から整理されています。
第二の軸は、事務所で使っている道具の権限と揃えられるかどうかです。すでに業務用のアカウントを配っている事務所なら、そこと近い形で管理できるほうが手間が減ります。既存の環境との組み合わせについては、Microsoft Formsとの比較に、社内向けの道具と外向けの受付の違いがまとめられています。
第三の軸は、届いたあとの画面がどうなっているかです。実際にどう動くのかは動くところを見るで触れます。作る画面よりも、届いたあとの画面のほうを長く見たほうが判断がしやすい。送信されたあとの道具がそろっているかどうかは、作る画面を見ても分からないからです。どこまでが基本に含まれるのかは、料金で先に見ておくと迷いが減ります。
絞ったあと、何を見て良し悪しを判断するか
絞る作業をしたら、効いているかどうかを確かめる材料が必要です。見るべきものは三つあります。
一つ目は、共有のメールアドレスに届く相談の件数です。減っていなければ、入り口の案内が届いていません。二つ目は、権限を持っている人の数です。増える一方になっていないかを、担当が替わる時期に数えます。三つ目は、受任に至らなかった案件の資料が残っている件数です。消す作業が回っていなければ、ここが増え続けます。
この三つは、どれも件ごとの記録が残っていれば数えられます。受信箱で受けている限りは数えられません。数えられる状態にすること自体が、置き場所を寄せる理由の一つです。同じ構造は他の受付でも繰り返し出てくるので、受け取ってから返すまでの流れは問い合わせの受付に整理されています。
数えた結果は、絞りすぎの検出にも使えます。見られる人を減らしすぎると、担当が不在の日に誰も答えられなくなり、返信までの時間が伸びます。絞る作業の目的は、事務所を止めることではありません。返信の速さが落ちていないかを一緒に見ておけば、絞りすぎたときに気づけます。所長ひとりが全部を見る形に戻すのではなく、代わりに見る人をあらかじめ一人決めておく。この一手で、絞ったまま止まらない形になります。
最後に順番の話をします。個人情報の扱いを見直すとき、多くの事務所は保管の道具から選び始めます。しかしそこから始めると、決めることが多すぎて止まります。先に決めるのは、誰が何を見られるかです。名簿の紙が一枚できれば、置き場所の話も、消す話も、その名簿に沿って決めればよくなります。誰が見ているのか分からないまま安全を確保しようとするから、終わらないだけです。
Q1. 事務所の代表メールアドレスを全員で共有するのは、やめたほうがよいですか?
共有そのものが禁じられているわけではありませんが、全員が全部を見る設定であることは意識しておく必要があります。相続の相談も在留資格の相談も求人の応募も同じ受信箱に並び、誰がいつ開いたのかも残りません。案件の種類ごとに見る人を分けられる受け皿へ重い相談から移し、代表アドレスは連絡用にとどめるのが現実的です。
Q2. 補助者やパートに入力を手伝ってもらうとき、何を決めておけばよいですか?
触ってよい範囲を先に伝えることです。法律は、従業者に個人データを取り扱わせるときの必要かつ適切な監督を事業者に求めています。何を見てよくて何を見てはいけないのかを伝えていない状態では、監督のしようがありません。作業に必要な案件だけが見える形にしたうえで、作業が終わったら権限を戻すところまでを手順に入れておきます。
Q3. 初回の相談で、身分証の画像まで集めるべきですか?
初回に必要なのは、可否の見当を付けて見積もりを出すための材料だけです。身分証や住民票の写しは受任が決まってから求めれば足ります。最初から重い資料を求めると、送る手間で相談そのものをやめる人が出るうえ、受任しなかった案件の資料が事務所に残ります。相談用と提出用でフォームを分けるだけで、集めすぎは減らせます。
Q4. 相談で得た連絡先に、事務所からの案内を送ってもよいですか?
集めるときに書いた利用目的の中に入っているかどうかで決まります。法律は利用目的をできる限り特定することと、その範囲を超えて取り扱わないことを求めています。どこまでが範囲内かは判断が分かれるため、迷う場面では所管の窓口や専門家に確かめてください。送信画面に用途を書いておけば、案件ごとに悩む必要がなくなります。
Q5. 見られる人を絞る作業は、どこから始めればよいですか?
道具の設定画面ではなく、紙から始めます。人の名前、その人が見てよい案件の種類、見てはいけない案件の種類の三列を書くだけです。事務所に五人いれば五行で終わります。表の上で線を引いてから道具の設定に落とすほうが早く、担当が替わったときや退職したとき、外注の作業が終わったときの見直しも、その紙を見ながら進められます。
