行政書士事務所に届いた問い合わせを返すまでの流れは、事務所ごとにばらばらで、多くの場合は誰の頭の中にも文章として残っていません。返すのが遅れる原因を「忙しいから」で片付けている限り、忙しさが変わらなければ遅れも変わりません。この記事では、問い合わせが届いてから返信を送るまでを五つの工程に分け、どこで時間が消えているのかを見つける方法と、工程ごとに縮められる余地を整理します。
返信までの時間は「五つの工程」の合計でできている
問い合わせが届いてから返信が相手に届くまでの時間は、一つの塊ではありません。分解すると五つの工程になります。
受け取る工程は、届いたことに気づくまでの時間です。仕分ける工程は、その相談が誰の担当で、いつまでに返すべきかを決める時間です。調べる工程は、答えを書くために必要なことを確かめる時間です。書く工程は、実際に文面を作る時間です。残す工程は、返したという事実をどこかに記録する時間です。
この五つのうち、多くの事務所が「返信が遅い」と感じているときに時間を食っているのは、書く工程ではありません。書く工程は、材料さえそろっていれば10分で終わります。時間が消えているのは、気づくまでの時間と、調べる工程です。
だから、返信を早くしようとして文章の書き方を工夫しても、効果はほとんど出ません。手を入れる場所を間違えると、努力した割に何も変わらないという結果になります。まずは自分の事務所でどの工程に時間が乗っているのかを確かめるところから始めます。
気づくまでの時間を測る
いちばん測りやすいのが、届いた時刻と、誰かが最初にそれを開いた時刻の差です。この差が1日を超えているなら、通知の設計に問題があります。
通知先が個人のメールアドレス一つだけになっていると、その人が外に出ている日はまるごと止まります。行政書士の仕事は役所への往復があるため、日中に事務所を空ける日が必ずあります。通知先を複数にするか、事務所の中で誰かが必ず見る場所に届くようにするかを決めます。
一方で、通知を増やしすぎると別の問題が出ます。件数の多い事務所では、通知そのものが日常の背景音になり、届いても誰も動かなくなります。通知は「気づくため」のもので、「管理するため」のものではありません。管理は一覧で行い、通知は最小限にするのが現実的な形です。
調べる工程が長引く理由
許認可の相談は、届いた文面を読んだだけでは答えが出ないことがほとんどです。要件に当てはまるかどうかの判断が要り、その判断には相談者側の事実が要ります。事実が最初の一通に載っていなければ、確認の返信を出して待つことになります。
この待ち時間が、返信までの時間の大半を占めます。相手は事業者で、日中は現場にいます。確認の返信を朝に送っても、答えが返るのは夜か翌日です。確認が二回入れば、それだけで3日が過ぎます。
つまり、調べる工程を短くする最大の手立ては、聞き返しを減らすことです。聞き返しを減らすのは受付の設問の仕事なので、返信の流れを直す前に、まず届いた時点の材料をそろえるほうが効きます。どの設問がそろえば一往復で返せるかについては、問い合わせの受付で受付側の考え方が整理されています。
届いたら最初に「返す期限」を決める
工程を短くする前に、順番を決めます。届いたものを届いた順に処理していると、急ぐべきものが後ろに回ります。
行政書士事務所の相談には、期限があるものとないものが混ざります。許可の有効期限が近いもの、在留期限が近いもの、届出の提出期限が決まっているものは、返信が遅れた時点で手遅れになる可能性があります。逆に、これから事業を始めるための相談は、数日の遅れが致命傷にはなりません。
だから、開いた瞬間にやることは、返信を書くことではなく、いつまでに返すかを決めることです。期限の近いものを先に、それ以外を後に回します。この判断は1分で終わります。
三段階で足りる
期限の決め方は細かくする必要がありません。三段階で足ります。
今日中に返すもの。相手の手続きに期限があり、日数が残っていないものです。届いた時点で他の作業を止めて処理します。
翌営業日までに返すもの。通常の相談はここに入ります。事務所として何営業日以内に返すと決めているなら、その日数を守ります。
内容を確かめてから返すもの。役所への確認が要るもの、有資格者の判断が要るもの、他の士業に振り分けるものです。これは、確かめる前に「確認して改めてご連絡します」という一次返信を先に出します。
この三段階を、届いたものの一覧の上で見分けられるようにします。見分けられなければ、結局は全部を開いて読み直すことになり、そこで時間が消えます。
一次返信を先に出す
三つ目の「確かめてから返すもの」で、確かめ終わるまで何も返さないのがいちばんよくない形です。相手からは、届いたのかどうかも分かりません。
一次返信は3行で足ります。受け取ったこと、いま何を確かめているか、いつまでに改めて連絡するか。この三つだけです。内容の判断が入らないので、有資格者でなくても書けます。
一次返信を出しておくと、催促の電話が減ります。催促の電話は、受ける側にとって二重の負担です。電話に出る時間が取られるうえに、その場で答えられないことを説明する必要があるからです。一次返信は、その負担を先回りして消す作業だと考えてください。
定型文を「答え」ではなく「型」として作る
返信を早くする道具として、定型文はよく使われます。ただし、定型文を「そのまま送れる完成した文章」として作ると、使える場面が限られて結局は使われなくなります。
有効なのは、型として作ることです。冒頭の挨拶、受け付けた内容の復唱、答え、次に相手がすること、期限、締めの挨拶。この骨格だけを用意し、答えの部分だけをその都度書きます。骨格があると、書き始めの迷いが消えます。
行政書士事務所で型を作る価値が高いのは、次の三つです。
一つ目は、扱っていない手続きをお断りして振り分け先を案内する文面です。件数が多いわりに、書くたびに考えていると時間を食います。二つ目は、必要書類を案内する文面です。手続きごとに一式が決まっているので、手続きの数だけ作ります。三つ目は、見積もりの前提を確認する文面です。何が分かれば金額が出せるかを箇条書きにしておきます。
復唱を必ず入れる
型に必ず入れるのが、受け付けた内容の復唱です。相談者が書いてきた内容を、こちらの理解として一度書き直して返します。
復唱を入れると、前提のずれがその場で見つかります。相談者は、自分の業界の言葉で状況を説明してくるので、受け取った側が別の意味に取ることがあります。ずれたまま見積もりを出すと、依頼が成立したあとで作業量が食い違い、金額の話をやり直すことになります。
復唱は長くする必要はありません。「新規で許可を取得され、営業所は1か所、申請先は本店のある都道府県、という前提でご案内します」のように、判断に使った事実だけを並べます。
型はどこに置くか
定型文を個人のメールソフトの署名機能や下書きに置くと、その人しか使えません。補助者が一次返信を書く運用にするなら、型は全員が見える場所に置きます。
置き場所は、返信を書く画面のすぐ近くが理想です。別のファイルを開いて探して貼り付ける形だと、探す時間のぶんだけ遅くなり、急いでいるときほど使われなくなります。返信を書く画面と定型文が同じ場所にあるかどうかは、道具を選ぶときに確かめておく点の一つです。集めたあとに何ができるかはできることのページで機能ごとに整理されています。
誰が書くかを先に決める
返信までの時間が伸びるもう一つの原因が、誰が書くのか決まっていないことです。有資格者一人の事務所ならこの問題は起きませんが、補助者がいる事務所では頻繁に起きます。
分担の考え方は単純です。判断が入らない部分は補助者が書き、判断が入る部分は有資格者が書きます。一次返信、必要書類の案内、日程の調整、書類の受け取り確認は、判断が入りません。可否の見通し、見積もりの金額、手続きの選択は、判断が入ります。
この線引きを文章にして、事務所の中で共有します。共有されていないと、補助者は書いてよいのか分からずに止まり、有資格者は補助者が書いたものと思って見ません。両方が待っている状態が、いちばん時間を食います。
なお、事務所の中で誰が扱うかにかかわらず、相談の中身を外に漏らさない義務は変わりません。
行政書士は、正当な理由がなく、その業務上取り扱つた事項について知り得た秘密を漏らしてはならない。行政書士でなくなつた後も、また同様とする。 出典: e-Gov法令検索
補助者に一次返信を任せる運用にするなら、どこまでを見せてよいかも同時に決めます。全員が全件を見られる形が扱いやすい一方で、案件によっては担当だけが見る形が要ることもあります。どちらにするかは事務所の方針で決め、道具がその形にできるかを確かめます。
担当が決まっていない状態を無くす
分担を決めても、個々の相談について「これは誰の担当か」が決まっていなければ、同じことが起きます。届いた一覧を全員が見ている状態は、一見すると風通しがよいのですが、誰も自分の仕事だと思わない状態でもあります。
担当を決める方法は二つあります。届いた順に自動で割り当てる方法と、朝の時点で一人がまとめて振り分ける方法です。件数が少なければ後者で足ります。振り分けた結果が一覧に残っていれば、二重返信も起きません。
相談の種類ごとに返信の道筋を分ける
工程と分担が決まったら、相談の種類ごとに道筋を作ります。同じ流れですべてを処理しようとすると、軽いものにも重いものと同じ手数がかかります。
扱っていない手続きの相談は、いちばん短い道筋にします。読んで、振り分け先を判断して、定型文を送る。ここに見積もりの検討や有資格者の確認を挟むと、成果につながらない相談にいちばん時間を使うことになります。判断に迷う場合だけ有資格者に回す例外を作り、それ以外は補助者の判断で完結させます。
費用と期間だけを聞かれている相談は、二番目に短い道筋です。手続きの種類と申請先が決まっていれば、その場で概算を返せます。返すときに、金額が変わる条件を一行添えます。「営業所が増える場合は別途お見積もりします」のような一文があるかないかで、あとの行き違いが変わります。
可否の判断が要る相談は、いちばん長い道筋になります。ここだけは、一次返信を先に出して、確かめてから本返信を出す二段構えにします。二段構えを面倒に感じて一回で済ませようとすると、確かめる時間のあいだ相手を待たせることになります。
進行中の案件についての連絡は、新規の相談とは別の扱いにします。すでに担当が決まっているので、振り分けの工程が要りません。届いた時点で担当に直行する形にしておくと、窓口の一覧が新規の相談だけになり、見通しがよくなります。
道筋を紙一枚にする
四つの道筋を、紙一枚か画面一枚に書き出します。書き出す内容は、どの種類のときに、誰が、何を確かめて、どの定型文を使い、いつまでに返すか。この五つだけです。
書き出しておく価値は、担当が変わったときに出ます。人が増えたとき、休んだ人の代わりに誰かが入るとき、この一枚があれば同じ品質で返せます。頭の中にしかない流れは、その人が不在の日にそのまま止まります。
一枚にまとめる作業は1時間ほどで終わります。完璧に作ろうとせず、いまやっていることをそのまま書き出すところから始めてください。書き出してみると、決まっていないところが自分で見つかります。
返す時間帯を決める
問い合わせが届くたびに手を止めて返すと、その日の予定していた作業が進みません。行政書士の仕事は、期限のある書類作成が主なので、細切れの中断は品質にも影響します。
対策は、返信をまとめて処理する時間帯を決めることです。朝の始業直後と、夕方の一回。この二回で、期限が今日でないものはすべて処理できます。今日中に返すものだけを例外として、随時処理します。
時間帯を決めると、相談者への約束もしやすくなります。自動返信に「2営業日以内にご返信します」と書けるのは、返す時間帯が決まっているからです。決まっていない事務所は、この一文を書けません。
自動返信に書くこと
自動返信に書くのは三つです。受け付けたこと、いつまでに返信するか、その間に相手がすべきことがあるか。
三つ目が抜けている自動返信が多く見られます。たとえば、急ぎの場合は電話でも受け付けていること、追加で送るべき書類があること、返信が迷惑メールに入る可能性があること。こうした情報を先に伝えておくと、あとで発生する問い合わせが減ります。
あわせて、送信された内容を全文載せます。相手が自分で誤りに気づいて訂正してくるので、電話番号の打ち間違いのような事故が減ります。
夜間と休日に届いたものをどう扱うか
事業者からの相談は、日中よりも夜と週末に集中します。現場の仕事が終わってから調べ物をして、そのまま送ってくるからです。届いた通知を夜に見てしまうと、そのまま返信を書きたくなります。
夜に返すこと自体が悪いわけではありませんが、一度返すと相手は同じ時間帯の返信を期待します。期待に応えられない日が続くと、かえって遅いという印象になります。返す時間帯を決めたなら、夜に届いたものは翌朝に回すと決めて、自動返信でその旨を伝えるほうが一貫します。
自動返信の文面に「営業時間外にお送りいただいた場合は、翌営業日の午前中にご返信します」と書いておけば、送った側は待つ理由が分かります。何も書かれていないと、返事が来ないこと自体が不安になり、翌朝に電話が入ります。
定休日と役所の休みを織り込む
返信までの日数を営業日で数えるのか、実日数で数えるのかを決めます。決めずに「二日以内」とだけ書くと、金曜の夜に届いたものが月曜になり、相談者は約束が守られなかったと受け取ります。
行政書士事務所の場合、もう一つ考えることがあります。役所への確認が要る相談は、役所が開いている時間にしか進みません。年末年始や連休をはさむと、確認の返事だけで一週間が過ぎます。連休前に届いた相談には、その旨を一次返信に書いておくと、待たせている理由が伝わります。
返信の中身を三つの部品で組み立てる
返信を速く書くには、文章力ではなく組み立て方を決めます。行政書士事務所の返信は、三つの部品で組めます。
一つ目は、受け取った内容の確認です。相談者が書いてきた事実を、こちらの理解として並べ直します。ここがずれていれば、以降の内容は全部無駄になるので、いちばん先に置きます。
二つ目は、答えです。可否の見通し、概算の費用、おおよその期間。答えられない部分は「確かめてからご連絡します」と正直に書きます。曖昧にぼかすより、答えられる範囲と答えられない範囲を分けたほうが伝わります。
三つ目は、次に何が起きるかです。相手にしてほしいこと、こちらがすること、それぞれの期限。ここが抜けている返信は、丁寧に書かれていても会話が止まります。相手は何をすればよいか分からず、こちらからの次の連絡を待ち続けます。
この三つを、この順番で書きます。順番が決まっていると、書き始めの迷いが消えます。迷いが消えるだけで、一件あたり5分は短くなります。
答えられないことを先に書く
可否の判断が要る相談で、確かめないと答えられないことがあります。このとき、確かめる項目を返信の後半に書くと、相手は前半だけ読んで満足し、後半の質問に答えないまま返してきます。
確かめたい項目は、前半に、番号を振って並べます。「進めるにあたって、二点お伺いします」と書いてから、一と二を並べます。番号があると、答える側も番号で返してきます。
項目は3つまでに絞ります。四つ以上並ぶと、相手は全部そろえてから返そうとして、返信そのものが遅れます。どうしても多いときは、いちばん重要なものだけを先に聞き、残りは次の往復に回します。
返したかどうかを残す
五つ目の工程が、記録です。ここが抜けていると、前の四つをどれだけ速くしても、返し忘れと二重返信が起きます。
メールの受信箱を既読か未読かで管理している間は、開いただけのものと返したものが区別できません。開いて内容を確かめ、あとで返そうと思ったまま既読になったものが、いちばん危険です。
残すべきは三つです。誰が担当か、返したかどうか、次に何をするか。この三つが一覧の上で見えていれば、朝に一覧を開くだけで、その日にやることが決まります。
表計算で管理する限界
回答を表計算に書き出して、返信済みの行を手で色分けしている事務所は少なくありません。件数が少ないうちは、これで足ります。
回らなくなるのは、行が増えて画面に収まらなくなったときと、担当が二人以上になったときです。同時に開いて編集すると、どちらの色分けが最新か分からなくなります。色は検索できないので、返していないものだけを抜き出すこともできません。
表計算に流れる形の得手不得手はGoogleフォームとの比較で整理されています。サイトに埋め込んだフォームからメールで飛んでくる形についてはContact Form 7との比較に課題がまとまっています。いま使っている道具を替えるかどうかを決める前に、自分の事務所がどちらの形に近いのかを確かめてください。
記録は返信と同じ場所に置く
記録を別のファイルに置くと、返信を書いたあとに記録を更新する手間が増えます。増えた手間は、急いでいるときに省かれます。省かれた瞬間に、記録は信用できないものになります。
だから、返信を書く操作と、返したという記録が残る操作は、同じ場所で完結する形が望ましくなります。返信を送った時点で自動的に状態が変わる形であれば、更新を忘れることがありません。実際の画面の動きは動くところを見るで確かめられます。
電話と来所の相談を同じ流れに合流させる
問い合わせはフォームだけから届くわけではありません。電話、来所、紹介、他の士業からの引き継ぎと、入口はいくつもあります。入口ごとに別の流れで処理していると、事務所全体で何件を抱えているのかが誰にも分からなくなります。
合流させる方法は、入口にかかわらず同じ一覧に記録することです。電話で受けた相談は、切った直後に受けた側が同じフォームから代理入力します。設問の先頭に受付経路の項目を置き、本人からの入力なのか職員が入力したのかを選べるようにしておくと、あとで振り返るときにも役立ちます。
代理入力の手間を惜しむと、あとで探す手間に変わります。電話の内容を紙のメモや個人の手帳に残すと、その案件だけが一覧から抜け落ちます。抜け落ちた案件は、返し忘れとして数週間後に出てきます。
来所での相談も同じです。その場で話が済んだように見えても、次に何をするかが決まっているなら記録が要ります。「書類がそろったらご連絡ください」で終わった相談は、相手が連絡してこなければそのまま消えます。こちらから追いかけるべきものかどうかは、記録がなければ判断できません。
追いかけるかどうかを決めておく
返信を出したあと、相手から返事が来ないまま止まる相談があります。この扱いを決めておかないと、一覧が止まった案件で埋まります。
決めることは二つです。何日返事がなければ一度だけ確認の連絡を入れるか。その連絡にも返事がなければ、いつ一覧から外すか。前者は7日、後者は30日あたりが扱いやすい目安になります。
外すといっても記録を消すわけではありません。対応中の一覧から外し、記録としては残します。同じ相談者から数か月後に改めて連絡が来ることがあり、そのときに前回のやり取りが残っていれば、一から聞き直さずに済みます。
返信のあとに何が起きるかまで設計する
返信を出したところで流れが終わるわけではありません。その返信がどう受け取られたかによって、次の作業が変わります。ここまでを設計に入れておくと、返信の書き方そのものも変わります。
返信を受け取った相談者の反応は、三つに分かれます。依頼すると決めて次に進む、まだ検討すると言って止まる、返事をせずに消える。
一つ目は、受任の手続きに移ります。この時点で、窓口の一覧からは外れ、案件の管理に移ります。移す作業が手動だと忘れるので、どちらの一覧にも載っている状態を作らない決め方が要ります。
二つ目は、いつまで待つかを決めます。検討中と言われた案件を無期限に一覧へ残すと、一覧が動かないもので埋まります。30日を目安に、一度だけ確かめて、それでも動かなければ対応中から外します。
三つ目が、いちばん多い反応です。返事が無いことを失敗と受け取る必要はありません。相談者は複数の事務所に同じ内容を送っていることが多く、条件で選んでいます。ここで大事なのは、消えたという事実を記録に残すことです。消えた案件が積み上がると、返信の内容に共通の弱点が見つかることがあります。
消えた案件を数える
返信を出したあとに消えた案件を数えている事務所は多くありません。数えると、返信の速さだけでは説明できない差が見えてきます。
同じ速さで返しているのに、手続きの種類によって消える割合が違うことがあります。その場合、原因は速さではなく、返信の中身か、その手続きの相場感にあります。速さを追いかけても改善しません。
数えるといっても、専用の集計は要りません。対応中から外すときに、理由を三つのどれかで選ぶようにしておけば足ります。依頼になった、断られた、返事が無かった。この三つだけで、あとから振り返れます。
縮んだかどうかをどう確かめるか
流れを変えたら、効果を確かめます。見る数字は三つです。
一つ目は、届いてから最初の返信を出すまでの時間です。平均ではなく中央値で見ます。平均は、たまたま長引いた一件に引きずられます。
二つ目は、確認の往復が入った件数の割合です。ここが減っていれば、受付の設問が効いています。減っていなければ、返信の流れではなく設問側に原因があります。
三つ目は、返信を出したあとに相談者から返事が来た割合です。返信が早くても、内容が相手の知りたいことに答えていなければ、そこで会話は止まります。速さと中身は別々に見る必要があります。
数字が取れない状態を先に直す
三つの数字を出そうとして、そもそも取れないことに気づく事務所は多くあります。届いた時刻は分かっても、返した時刻がどこにも残っていないからです。
この状態を先に直します。返信を送ったときに日時が自動で残る形にするか、それが難しければ、返信した日付だけでも一覧に手で記入する運用にします。手で記入する運用は続きにくいので、あくまで暫定です。数字を取るために新しい作業を増やすと、その作業自体が省かれて元に戻ります。
数字が取れるようになったら、月に一度だけ振り返ります。毎週見ると振れ幅に振り回されますし、半年に一度では原因を思い出せません。月末に15分だけ時間を取り、中央値と往復の割合を並べて眺めるだけで充分です。
一か月では判断しない
流れを変えた直後の一週間で判断してはいけません。問い合わせの中身は季節で振れます。年度末に集中する手続きもあれば、決算期に合わせて動く手続きもあります。少なくとも3か月分をためてから、次に直す場所を決めます。
ためている間にやることは、遅れた案件について、五つの工程のどこで止まったかを一行で書き残すことです。この記録が、次に手を入れる場所の一覧になります。記録を取らずに三か月が過ぎると、遅れた事実だけが残って原因が分からなくなります。
流れを直しても残ること
五つの工程を整えると、返信までの時間は確実に縮みます。ただし、縮まないものもあります。
役所の判断を待つ時間は縮みません。相談者が書類を集める時間も縮みません。この二つは事務所の外にあるので、こちら側の工夫では動かせません。動かせるのは、待っている間に相手が不安にならないよう、いま何を待っているのかを伝えることだけです。
もう一つ、件数が増えたときに最初に壊れるのは、記録の工程です。速く返すことに意識が向くと、返したという記録を残す手間が省かれます。省かれた記録は、翌週の返し忘れとして返ってきます。流れを設計するときは、記録の工程だけは省けない形にしておいてください。
事務所の窓口が抱えている問題は、一件あたりの処理が重いことではありません。重い処理と軽い処理が混ざったまま同じ順番で並んでいることです。届いた時点で三段階に振り分ける習慣がつけば、忙しさが変わらなくても返信までの時間は縮みます。道具の選び方でよく出る疑問はよくある質問に一問一答でまとまっているので、判断の材料として先に目を通しておくと迷いが減ります。
Q1. 問い合わせに返信するまでの目安は何営業日が妥当ですか?
事務所の体制によりますが、翌営業日までに何らかの返信を出す形が現実的です。内容の判断に時間がかかる相談でも、受け取ったこと、いま何を確かめているか、いつまでに改めて連絡するかの三行だけを先に返します。この一次返信は判断が入らないため補助者でも書けます。返す時間帯を朝と夕方の二回に決めておくと、自動返信に「2営業日以内にご返信します」と書けるようになり、催促の電話が減ります。
Q2. 返信が遅れる原因はどこを見れば分かりますか?
届いてから返すまでを、受け取る、仕分ける、調べる、書く、残すの五工程に分けて測ります。多くの事務所で時間が消えているのは、書く工程ではなく、届いたことに気づくまでの時間と、答えを確かめる時間です。届いた時刻と最初に開いた時刻の差が1日を超えているなら通知の設計に問題があり、確認の往復が入っているなら受付の設問が足りていません。文章の書き方を工夫しても効果はほとんど出ません。
Q3. 期限が近い相談を先に返すにはどうすればよいですか?
届いたものを開いた瞬間に、返信を書くのではなく返す期限を決めます。今日中に返すもの、翌営業日までに返すもの、内容を確かめてから返すものの三段階で足ります。この判断は1分で終わります。ただし、一覧の上でこの三つを見分けられなければ、結局は全部を開いて読み直すことになります。受付の段階で許可の有効期限を日付で受け取っておくと、優先順位が自動的に決まります。
Q4. 定型文はどう作れば実際に使われますか?
そのまま送れる完成した文章ではなく、骨格の型として作ります。挨拶、受け付けた内容の復唱、答え、次に相手がすること、期限、締めの六つの並びだけを用意し、答えの部分だけを都度書きます。優先して作る価値が高いのは、扱っていない手続きの振り分け案内、手続きごとの必要書類の案内、見積もりの前提確認の三つです。置き場所は返信を書く画面のすぐ近くにします。探す手間があると急いでいるときに使われません。
Q5. 補助者に一次返信を任せてよい範囲はどこまでですか?
判断が入らない部分に限ります。一次返信、必要書類の案内、日程の調整、書類の受け取り確認は判断が入りません。可否の見通し、見積もりの金額、手続きの選択は判断が入るため有資格者が書きます。この線引きを文章にして共有してください。共有されていないと、補助者は書いてよいか分からず止まり、有資格者は補助者が書いたと思って見ません。あわせて秘密保持の扱いも同時に決めます。
