行政書士事務所の案件台帳は、たいてい表計算のファイルから始まります。相談を受けた日、氏名、手続きの種類、期限、進み具合、担当。列を足しながら育てていくと、事務所の実務にぴったり合った一枚ができあがります。
そのファイルが回らなくなる瞬間は、機能の不足として現れません。二人目が同じ台帳を開こうとして「読み取り専用で開きますか」と表示されたとき、そこから崩れ始めます。片方が閉じるのを待つのが面倒になり、別名で保存した写しができ、二つのファイルに別々の記録が書かれる。数か月後、どちらが正しいのか誰にも分からなくなります。
この記事では、許認可の相談と書類の受け取りを窓口で受けている事務所を前提に、表計算の台帳から移るかどうかをどう判断し、移ると決めたら何から手を付けるのかを整理します。表計算を否定する話ではありません。移らないほうがよい事務所もあります。その線引きから始めます。
行政書士事務所の台帳が表計算になる理由
始めるのが速く、費用がかからない
開業したての事務所が案件の管理を考えるとき、表計算は最初の選択肢として合理的です。すでに手元にあり、追加の費用がかからず、思いついた列をその場で足せます。相談が月に数件のうちは、これで何の問題もありません。
道具を選ぶ時間そのものが惜しい時期でもあります。仕事を取ることと、手続きを覚えることに時間を使いたい段階で、管理の道具を比べている余裕はありません。まず一枚作って回し始めるのは、正しい判断です。
事務所ごとの事情を吸収できる
行政書士の業務は幅が広く、扱う手続きの組み合わせが事務所ごとに違います。建設業と産業廃棄物を中心にしている事務所と、在留資格と帰化を中心にしている事務所では、管理したい項目がまったく違います。
既製の道具は、この違いを吸収しきれないことがあります。表計算なら、必要な列を足すだけです。窓口の担当者からよく聞くのは、既製の道具を試したものの、自分たちの手続きに合う項目が無くて表計算に戻った、という話です。
続けるほど、事務所の形がファイルに入り込む
数年使った台帳には、事務所の仕事のやり方が入っています。列の並び順、色分けの意味、途中に挟まれた行、フィルタの設定。書かれていないルールが、その一枚に埋まっています。
移行が重く感じられるのは、この埋まったものを移せるかどうかが分からないからです。移す前に、埋まっているものを一度言葉にする作業が要ります。この作業は、移らない判断をする場合にも役に立ちます。
表計算のままで足りる場合を、先に置く
ひとりで回していて、件数が少ない
受け付けから返信まで所長ひとりでやっていて、月の相談が数件から十数件のうちは、表計算で足ります。同時に開く人がいないので、いちばん重い問題が起きません。
資料の置き場が別のフォルダにあっても、扱う件数が少なければ探し当てられます。返信の状況が列に書いていなくても、頭の中に入ります。この状態で道具を変えても、得られるものは多くありません。
受け取る資料が少なく、期限の管理が単純
もう一つ、表計算で足りる条件があります。受け取る資料が少ないことです。相談の段階で写真や書類がほとんど届かない業務を中心にしているなら、フォルダとの往復がそもそも発生しません。
期限の形も関係します。期限が案件ごとに一つだけで、数か月先の日付なら、色分けでも管理できます。逆に、一つの案件に提出の期限と補正の期限と更新の期限が並ぶような業務では、表計算の色分けはすぐに追いつかなくなります。自分の事務所がどちらなのかで、移る必要の強さが変わります。
移らない判断も、判断である
道具を変える話になると、変えることが前提になりがちです。しかし、いまの形で困っていないなら、変えないほうが得です。移行の作業には時間がかかり、その時間は案件を進める時間から引かれます。
判断の基準は、困りごとが誰の時間を食っているかです。台帳を開けずに待つ時間、資料を探す時間、返したかどうかを確かめる時間。これらが月に何時間も出ているなら、移る価値があります。年に数回なら、まだ早い。
同時に開けない問題から、詰まりが始まる
読み取り専用で開くしかない
補助者を入れた事務所で最初に起きるのがこれです。誰かが台帳を開いていると、次の人は読み取り専用でしか開けません。書き込むには、前の人が閉じるのを待つことになります。
待つのは数分でも、それが一日に何度も起きると、書き込む作業そのものが後回しになります。後回しにした記録は、その日のうちに書かれません。数日ぶんをまとめて書こうとすると、細かい経緯が思い出せず、空欄が増えます。
「〜のコピー」が生まれる
待つのを避けるために、自分の手元に写しを作る人が出ます。悪意はなく、作業を止めないための工夫です。ところが、写しに書いた内容は元のファイルに戻りません。
写しが二つ、三つと増えると、どれが最新なのかを判断できなくなります。日付の新しいファイルが最新とは限りません。古いファイルに、新しい情報だけが書かれていることもあります。ここまで来ると、突き合わせの作業に丸一日かかります。
上書きの事故は、気づかれない
同時に編集できる設定にしていても、行を挿入したり並べ替えたりする操作が重なると、内容がずれます。ずれた記録は、エラーとして表示されません。静かに間違ったまま残ります。
行政書士事務所の台帳には、期限が入っています。期限の行がずれて別の案件に付いてしまうと、その案件だけが期限の管理から外れます。気づくのは、期限が過ぎたあとです。この事故の重さが、他の業種と比べて大きいのが行政書士事務所です。
表計算で回らなくなるサイン
誰が返したのかが分からない
台帳に「対応中」と書いてあっても、誰が何を返したのかは分かりません。返信の文面はそれぞれのメールの送信済みに入っており、台帳とつながっていないからです。
つながっていないと、二重返信と返し忘れが両方起きます。二人が別々に返してしまうと、相談者には食い違う内容が二通届きます。逆に、相手が返してくれているだろうと思って両方が動かない件も出ます。
添付が別のフォルダにある
受け取った資料は、台帳ではなく共有フォルダに入っています。台帳の行と、フォルダの中のファイルを、人間の記憶か命名規則でつなぐことになります。
命名規則は、決めた直後は守られますが、忙しい日に崩れます。崩れたファイルは、探すときに見つかりません。行政書士事務所の場合、探しているのは身分証や決算書なので、見つからない状態がそのまま説明できない状態になります。
期限を色で管理している
期限が近い行に色を付ける運用は、多くの事務所で使われています。目で見て分かるので、始めるのは簡単です。
問題は、色が自動で変わらないことです。誰かが毎日見て塗り替えなければ、色は古いままです。塗り替える人が休んだ日から、色は事実と離れます。色は分かりやすい代わりに、更新が人の作業に依存します。
入力の決まりが、人によって違ってくる
同じ台帳を複数人で使っていると、書き方が割れます。手続きの名前を正式名称で書く人と略して書く人、日付を年から書く人と月日だけ書く人、進み具合を自由な文で書く人と決まった言葉で書く人。
割れた記録は、並べ替えも絞り込みもできません。「建設業許可」で絞り込んでも、「建設業」とだけ書かれた行は出てきません。表計算は自由に書ける代わりに、書き方を強制する仕組みを持っていないので、人が増えるほど割れます。決まりを紙に貼っても、忙しい日には守られません。
一覧が重くなって、開くのに時間がかかる
行が数千に達し、色分けと条件付きの書式が積み重なると、開くだけで待たされるようになります。開くのが億劫になると、記録を書く回数が減ります。
そして、行が増えても古い行は消えません。三年前に終わった案件も、同じファイルに残っています。氏名と連絡先の入った行が何千も入ったファイルが、事務所の共有フォルダに置かれ、事務所の全員が開ける状態になっています。
事務所の外から開けない
役所への申請で外出している時間が長い業種なので、外から台帳を見たい場面は必ず出ます。共有フォルダに置いた表計算のファイルは、外から開こうとすると設定の壁にぶつかります。
外から見られないと、外出中の人は事務所に電話で確認することになります。電話を受けた人の作業が止まり、確認した内容はどこにも記録されません。
同じ相談者の情報が、複数の行に分かれる
行政書士事務所では、同じ相手から別の手続きの相談が来ることがよくあります。建設業の許可を取った会社から、数年後に更新の相談が来る。相続の相談で来た人から、車の名義の相談が来る。
表計算の台帳では、これらは別々の行になります。行が離れていれば、同じ相手だと気づかないまま対応します。以前の経緯を知らずに初対面のように返信すると、相手からは「前にお願いしたのに」と受け取られます。過去のやり取りが相手ごとにまとまっているかどうかは、続く関係を作れるかどうかに直結します。
移る前に、いまの台帳に埋まっているものを書き出す
列の意味と、色の意味を言葉にする
移行の作業に入る前に、いまの台帳を読み解きます。読み解くのは列と色です。この列は何のために作ったのか、この色は何を表しているのか、この行がなぜ途中に挟まっているのか。
作った本人には自明でも、書き出してみると説明できない列が出てきます。説明できない列は、移す必要がありません。逆に、色でしか表現していなかった重要な状態が見つかることもあります。期限が迫っている、書類の到着待ち、依頼者からの返事待ち。色で表していた状態は、移った先では項目として持てます。
台帳に書かれていない手順を拾う
台帳の外にも、事務所の手順は埋まっています。相談を受けたら誰に回すか、期限が近づいたら何をするか、受任が決まったら何を送るか。これらは台帳には書かれておらず、人の頭の中にあります。
移行は、この手順を外に出す機会でもあります。全部を書き出す必要はありません。台帳を移したあとに困りそうな場面を三つ挙げて、その場面の手順だけを書けば足ります。
いまの困りごとを、三つに絞る
移行の目的が曖昧なままだと、移った先で何を見ればよいのか決まりません。いま困っていることを三つだけ挙げます。
事務所によって違いますが、よく挙がるのは、台帳を同時に開けないこと、資料が別のフォルダにあること、返したかどうかが分からないことの三つです。この三つが挙がったなら、移る先を選ぶときに見る条件も、この三つに対応させます。機能の一覧を眺めて選ぶより、はるかに速く決まります。
移る前に決める五つのこと
何を持っていくか
移行を重くする最大の原因が、全部持っていこうとすることです。三年ぶんの案件を新しい場所に移す作業は、それ自体が数週間の仕事になります。途中で止まれば、二か所を運用する期間だけが長引きます。
持っていくのは、進行中の案件だけで足ります。終わった案件は、表計算のファイルのまま参照用に置いておけばよい。進行中の案件は、たいてい数十件です。数十件なら、手で移しても半日で終わります。
いつ切り替えるか
日付を一つ決めます。その日から届いた相談は新しい場所で受け、それより前の案件はいまの台帳で終わらせる。曖昧にすると、どちらに書けばよいのか分からない件が出て、両方に書かれるか、どちらにも書かれなくなります。
切り替えの日は、繁忙期を避けます。許可の更新が重なる時期や、公募の締切の直前に切り替えると、慣れないうちに件数が増えて、旧に戻ります。過去の記録を見て、相談がいちばん少なかった月を選ぶのが確実です。相談が少ない月は、事務所の中で新しい手順を試す余裕がある月でもあります。切り替えた直後の一週間に何件届くかで、慣れるまでの負荷が決まります。
二重に運用する期間を、どれだけ取るか
不安があると、しばらく両方に書きたくなります。両方に書く期間を置くこと自体は構いませんが、期間を先に決めます。2週間と決めて、終わったら片方をやめる。
決めずに始めると、二重の運用が半年続きます。二重に書く手間が重いので、そのうちどちらか一方が更新されなくなり、更新されていないほうを誰かが見て判断を誤ります。
誰が見られるようにするか
移すときは、権限を決め直す機会でもあります。表計算の共有フォルダは、たいてい事務所の全員が開ける設定のまま使われています。移した先で同じ設定にすると、せっかくの機会を逃します。
決めるのは、案件の種類ごとに誰が見るかです。許認可の申請、相続と遺言、在留資格、そして求人の応募。とくに求人の応募は他と必ず分けます。応募者の履歴書と相談者の身分証が同じ場所に並んでいる状態は、どちらの側から見ても望ましくありません。求人の受け皿を分ける考え方は、採用の応募受付に整理されています。
表計算のファイルを、そのあとどうするか
移したあと、元のファイルをどう扱うかも決めておきます。開けたままにしておくと、慣れた人が書き込みを続けます。書き込みが続けば、正しい記録が二か所に分かれます。
現実的なのは、切り替えの日に読み取り専用にして、置き場所も別のフォルダに移すことです。参照はできるが書き込めない状態にすれば、自然に新しい場所だけが使われます。
移し方の手順
新しく届く相談から入れる
最初にやるのは、新しい相談の受け口を新しい場所に向けることです。サイトのフォームの送信先を変え、届いた相談が新しい場所に並ぶようにします。
この時点では、過去の案件は一件も移していません。それで構いません。数週間もすれば、動いている案件の多くが新しい場所に入ります。移行の負荷が最も軽いのがこの順番です。
進行中の案件だけを、手で移す
新しい受け口が動き始めたら、進行中の案件を移します。手で入力します。取り込みの仕組みを作ろうとすると、列の対応付けで時間を使い、結局手で直すことになります。数十件なら、手のほうが速い。
手で移す作業には、副産物があります。一件ずつ見ることになるので、実はもう動いていない案件が見つかります。連絡が途絶えたまま対応中として残っていた件を、この機会に締められます。移した件数が想定より少なくなるのは、たいていこの理由です。
移すのは、その案件を開く人が自分でやる
進行中の案件を移すとき、誰か一人がまとめて入力する形にすると、内容が薄くなります。台帳の行に書かれた文字しか移らないからです。実際には、経緯の大半が担当者の頭とメールの中にあります。
移す作業は、その案件を担当している人が自分でやります。手を動かしながら、いまどこで止まっているのかを書き足せます。数十件を分担すれば、一人あたり十件ほどです。半日で終わります。
この形にすると、移行の作業がそのまま案件の棚卸しになります。止まっている理由を書けない件が出てきたら、それは担当者本人も状況を把握できていない件です。移行の前に見つかったほうが安い。
過去の案件は、参照専用にする
終わった案件は移しません。表計算のファイルを読み取り専用にして、参照が必要なときだけ開きます。参照の頻度は、思っているより低いものです。
参照専用にしたファイルは、見られる人を絞る対象でもあります。氏名と連絡先が何千行も入ったファイルを、全員が開ける場所に置いたままにしません。所長ともうひとりだけが開ける場所に移します。
移したあとに残る作業
集計を作り直す
表計算で作っていた月次の集計は、そのままでは使えなくなります。ここで前の形をそのまま再現しようとすると、手間がかかるわりに使わない表ができます。
作り直すのは、実際に見ていた数字だけです。入り口ごとの件数、手続きごとの件数、返していない件の数。この三つを出せれば、たいていの判断には足ります。前の集計に載っていて一度も見ていなかった数字は、作り直さないほうがよい。
保存が必要な書類は、別に扱う
行政書士の業務には、法令や会則で保存が求められる帳簿や書類があります。何をどれだけ残すべきかは受任した業務の中身によって変わるので、所属する会や専門家に確かめてください。受付の台帳を移す話と、保存義務のある書類の管理は別の話として扱います。
一方、受任に至らなかった相談の資料は、事務所が自分で扱いを決められます。法律は、使う必要がなくなったデータについて次のように定めています。
個人情報取扱事業者は、利用目的の達成に必要な範囲内において、個人データを正確かつ最新の内容に保つとともに、利用する必要がなくなったときは、当該個人データを遅滞なく消去するよう努めなければならない。 出典: 個人情報保護委員会
移行は、この整理をするのに最も適した時期です。移す件を選ぶ作業の中で、もう不要な資料が目に入ります。相談から動きが無いまま6か月経った件は消す、というような期間を一つ決めて、そのときに片づけます。
行政書士には守秘義務も課されています。
行政書士は、正当な理由がなく、その業務上取り扱つた事項について知り得た秘密を漏らしてはならない。行政書士でなくなつた後も、また同様とする。 出典: e-Gov
台帳を移すという作業は、事務所が扱う情報の置き場所を変える作業でもあります。移した先で誰が見られるのかを決めることは、この義務を果たせる形を作ることと同じです。
事務所の中の呼び方をそろえる
移った先では、案件の状態を選ぶ形になります。ここで使う言葉を先にそろえておかないと、同じ状態を人によって別の項目で表すことになります。
そろえるのは、進み具合の呼び方です。相談を受けた、一往復目を返した、面談まで進んだ、見積もりを出した、受任した、終わった、断った。この程度の粒度で足ります。細かくすると選ぶのに迷い、迷うと選ばれない項目ができます。
呼び方をそろえる作業には、副次的な効き目があります。事務所の中で「対応中」としか言っていなかった状態が、実は四つに分かれていたと分かる。分かれていることが見えると、どこで止まっているのかを口に出して話せるようになります。
表計算をやめないほうがよい場面もある
移行を「表計算を全部やめること」と考えると、無理が出ます。表計算が向いている作業は残ります。一時的な集計、複数の条件で並べ替えて眺める作業、外部に渡す一覧の作成。
受付の台帳としては使わないが、必要なときに書き出して表計算で加工する。この形が現実的です。書き出しができるかどうかは、移る先を選ぶときの条件になります。
移行の途中で、相談を止めないために
切り替えの週は、受け付けの案内を変えない
移行の作業をしていると、サイトの案内文まで直したくなります。しかし、受け口の場所と案内の文言を同時に変えると、うまくいかなかったときにどちらが原因か分かりません。
切り替えの週は、送信先だけを変えて、見た目と文言はそのままにします。数字が落ちたら受け口の問題、変わらなければ次の週に案内を直す。一度に一つずつ変えるのは、移行に限らず有効な進め方です。
届いていることを、その週だけ二重に確かめる
新しい受け口に切り替えた直後は、届いていない相談があっても気づけません。相談者は送ったつもりでいて、事務所は届いていないことを知らない状態が、いちばん損失が大きい。
切り替えた週だけ、自分たちで送信を試します。事務所の外のアドレスから一件送り、届いたことと通知が来たことを確かめる。数分で終わります。加えて、切り替え前の受け口も一週間は生かしておき、そちらに届いたものがないかを毎日見ます。
担当が不在の日を、想定しておく
移行の期間に担当が休むと、その日は誰も新しい場所を開けません。新しい場所の使い方を知っているのが一人だけという状態は、移行を止める原因になります。
事務所の人数にかかわらず、使い方を知っている人を二人にしておきます。所長と補助者、あるいは補助者どうし。二人目に教える時間は30分もあれば足ります。
移行でつまずく場面
列をそのまま移そうとする
いまの台帳の列を一つずつ新しい場所に再現しようとすると、途中で止まります。列の中には、使っていないものや、他の列と重複しているものが必ず混ざっています。
移す前に、直近の3か月で実際に埋まっていた列だけを抜き出します。埋まっていない列は、必要だと思って作ったが使われなかった列です。移さなくて困りません。
全員が同時に切り替えられない
複数人で使っている場合、切り替えの日に全員が新しい場所を使い始めるとは限りません。外出が続いた人が、一週間後に旧の台帳を開いて書き込むことがあります。
防ぎ方は、旧を読み取り専用にすることです。案内だけで防ごうとすると、必ず抜けます。書き込めない状態にしておけば、そこで気づいて聞きに来ます。
旧の台帳を、そのまま持ち歩いてしまう
もう一つ多いのが、外出用に台帳の写しを個人の端末に入れる運用です。移行の前からその形だった事務所では、移ったあとも同じ写しが端末に残ります。
残った写しは更新されないので、外で見ている内容が古い。古い期限を見て相談者に伝えると、行き違いになります。加えて、氏名と連絡先の入った一覧が個人の端末に置かれた状態が続きます。移行のときに、この写しを消すところまでを作業に入れておきます。
電話と紹介の相談が、新しい場所に入らない
フォームからの相談は自動で新しい場所に入りますが、電話と紹介は人が入れないと入りません。ここが抜けると、新しい場所には相談の一部しか無い状態になり、一覧としての価値が下がります。
電話を受けたら、その場で件を起こす。要点を三行書けば足ります。移行のタイミングでこの習慣を作っておくと、あとから直すより楽です。
移る先を選ぶときに見る比較の軸
第一の軸は、届いた相談と資料が同じ画面に並ぶかどうかです。ここが分かれていると、フォルダとの往復が残り、移った意味が薄れます。無料で使える定番の道具と、送信されたあとの扱いがどう違うのかは、Googleフォームとの比較で、回答が表に溜まったあとに何が起きるかという観点から整理されています。
第二の軸は、返信の状況と担当が件に付くかどうかです。ここが付いて初めて、二重返信と返し忘れが減ります。すでにサイトにフォームを置いている事務所であれば、Contact Form 7との比較に、送信の通知だけが飛ぶ状態と、送信後の管理まで持つ状態の違いがまとめられています。
第三の軸は、事務所の外から開けるかどうかです。役所への申請で外出している時間が長い以上、外から進み具合を確かめられないと、電話での確認が残ります。外から開ける代わりに、案件の中身まで全部が外で見えてしまう形も避けたいので、見える範囲を決められるかどうかまで含めて見ます。
第四の軸は、書き出しができるかどうかです。移った先から表計算の形で取り出せれば、いまの集計の資産を捨てずに済みます。実際にどう動くのかは動くところを見るで触れます。送信されたあとの道具がそろっているかどうかは、フォームを作る画面を見ても分かりません。どこまでが基本に含まれるのかは料金で先に見ておくと、比べる時間が短くなります。
移ったあと、何を見て良し悪しを判断するか
移行が成功したかどうかは、感覚では分かりません。移した直後は慣れない操作が多く、遅くなったように感じるからです。見るべきものは三つあります。
一つ目は、旧の台帳を開いた回数です。移行から一か月経っても毎日開いているなら、新しい場所に入っていない情報があります。二つ目は、届いてから最初の返信までの時間です。移行の目的が返信の速さなら、ここが縮んでいなければ効いていません。三つ目は、資料を探すために聞き合う回数です。
この三つは、どれも件ごとの記録が残っていれば分かります。同じ構造は他の受付でも繰り返し出てくるので、受け取ってから返すまでの流れは問い合わせの受付に整理されています。
判断する時期も決めておきます。移した直後は操作に慣れていないので、遅くなったように感じます。ここで元に戻すと、二度と移れません。1か月使ってから三つの数字を見る、と決めておけば、感覚に振り回されずに済みます。一か月経っても旧の台帳を毎日開いているなら、そのときは入っていない情報を特定して足せばよく、道具そのものの問題ではないことがほとんどです。
最後に順番の話をします。表計算からの移行は、過去のデータをどう移すかから考え始めると止まります。先に決めるのは、新しく届く相談をどこで受けるかです。受け口が変われば、動いている案件は自然に新しい場所へ集まります。過去は参照専用にして置いておけばよい。全部を移そうとするから、終わらないだけです。
Q1. 表計算の台帳から移るべきかどうかは、何で判断すればよいですか?
困りごとが誰の時間をどれだけ食っているかで判断します。台帳が開けずに待つ時間、資料を探す時間、返したかどうかを確かめる時間が月に何時間も出ているなら移る価値があります。所長ひとりで回していて相談が月に十数件までなら、同時に開く人がいないので表計算で足ります。移らない判断も判断であり、移行の作業に使う時間は案件を進める時間から引かれます。
Q2. 過去の案件は全部移す必要がありますか?
移す必要はありません。全部移そうとすると作業が数週間になり、途中で止まって二か所を運用する期間だけが長引きます。移すのは進行中の案件だけで、たいてい数十件です。終わった案件は表計算のファイルを読み取り専用にして参照用に残します。参照の頻度は思っているより低く、必要になったときだけ開けば足ります。氏名と連絡先が並んだファイルなので、置き場所も見られる人を絞った場所へ移しておきます。
Q3. 移行の作業は、どの順番で進めるとつまずきにくいですか?
新しく届く相談の受け口を先に切り替えます。その時点では過去の案件を一件も移していなくて構いません。数週間経てば動いている案件の多くが新しい場所に入るので、そこで進行中の案件だけを手で入力します。取り込みの仕組みを作るより手のほうが速く、一件ずつ見ることになるので、動いていない案件を締める機会にもなります。
Q4. 二重に運用する期間は、どれくらい取ればよいですか?
期間を先に決めることが大切です。2週間と決めて、終わったら片方をやめます。決めずに始めると二重の運用が半年続き、手間が重いのでどちらか一方が更新されなくなります。更新されていないほうを誰かが見て判断を誤ります。旧の台帳は切り替えの日に読み取り専用にし、置き場所も別のフォルダへ移しておくのが確実です。
Q5. 表計算は完全にやめたほうがよいですか?
やめる必要はありません。一時的な集計、条件を変えて並べ替える作業、外部に渡す一覧の作成は表計算が向いています。受付の台帳としては使わないが、必要なときに書き出して加工する形が現実的です。そのため、移る先を選ぶときは、表計算の形で書き出せるかどうかを条件の一つに入れておくと、いまの集計の資産を捨てずに済みます。
