自治体の窓口で申請と相談を受けている課には、たいてい表計算ファイルの台帳があります。共有フォルダの中に置かれ、ファイル名の末尾に年度が付いていて、列が横に長く伸びている、あのファイルです。受付日、氏名、連絡先、内容、担当、処理の状態、備考。誰かが作り、誰かが引き継ぎ、いまも毎日開かれています。
この台帳は、長く機能してきました。作るのに承認が要らず、課の中だけで完結し、集計もその場でできる。窓口が自分たちの判断で持てる道具として、これ以上に手軽なものはありませんでした。
問題が出てくるのは、扱う件数が増えて、触る人が二人以上になったときです。最初に必ず突き当たるのが、同時に開けないことです。この記事では、自治体の窓口の台帳を表計算ファイルから移すとき、どこから手を付けると止まらないのかを順番に並べます。個々の制度の審査の中身には触れません。書くのは、届いたものを受けて返す側の回し方だけです。
自治体の窓口の台帳が、表計算ファイルでできている理由
様式が紙で、集計だけが電子だったから
もともと、申請の受付は紙で回っていました。窓口で様式を受け取り、審査し、決裁に回し、保存する。この流れの中で電子化が先に進んだのは、集計の部分です。年度末に何件だったかを数えるために、受付の一覧を表計算に打ち込む。ここから台帳が生まれました。
つまり多くの台帳は、最初から管理のために作られたものではありません。集計のための一覧が、いつのまにか進行の管理にも使われるようになったものです。だから、処理の状態を持つ列が後から足され、担当の列が足され、備考が足されて、横に伸びていきます。
この経緯を知っておくと、移行のときに何を捨てるかの判断がしやすくなります。集計のために作られた列と、進行の管理のために後から足された列は、性質が違います。
各課が自分で作れて、承認が要らなかった
自治体で新しい仕組みを入れるには、たいてい手続きが要ります。情報政策の担当課との調整、予算の要求、契約。数か月から一年の単位で時間がかかります。
表計算ファイルには、それが要りません。担当が思いついた日に作れます。列を足すのも、書式を変えるのも、その場でできます。この手軽さが、台帳が表計算ファイルになった最大の理由です。
そして、この手軽さは移行のときに壁にもなります。「いまのやり方で困っていない」という声は、たいてい作った本人ではなく、日々使っている人から出ます。困っていないのではなく、困っていることを表計算の問題として認識していないだけ、という場合が多い。
共有フォルダに置けば、それで運用できた
置き場所も簡単でした。課の共有フォルダに置けば、課の全員が開けます。権限の設定も、フォルダの単位でだいたい済みます。
この形は、件数が少なく、触る人が一人のうちは完璧に機能します。壊れ始めるのは、二人目が同じファイルを開いた瞬間からです。
同時に開けない、が最初に効く
読み取り専用で開かれ、更新が飛ぶ
誰かが台帳を開いている間、次の人は読み取り専用でしか開けません。編集するには、相手が閉じるのを待つか、名前を変えて保存するかのどちらかです。
窓口の実務では、待てません。住民が電話口で待っている、来庁者が窓口の前に立っている。だから、読み取り専用で開いたまま作業して、あとで転記しようとします。転記を忘れれば、その一件は台帳に載りません。
あるいは、別名で保存して、後で統合しようとします。統合の作業が発生した時点で、どちらかの更新が失われる確率が生まれます。二つのファイルの差分を目で追って統合する作業は、忙しい日には正確にできません。
ファイル名が枝分かれする
同時に開けない状態が続くと、必ずファイルが増えます。末尾に日付が付いたもの、「最新」と付いたもの、「修正版」と付いたもの、「_旧」と付いたもの。共有フォルダに、似た名前のファイルが五つも六つも並びます。
こうなると、どれが正しいのかを誰も断言できません。開いてみて、件数が多いほうを正としてしまう。しかし件数が多いほうに、消したはずの重複が残っていることもあります。台帳が信用できなくなると、担当は自分の手元にもう一つメモを持ち始めます。ここで、記録は完全に分散します。
誰が何を変えたか、残らない
三つ目が、変更の履歴です。表計算ファイルでは、誰がいつどの行を変えたかが基本的に残りません。処理の状態を「対応済み」に変えたのが誰なのか、いつなのか、分かりません。
これは日常の運用でも困りますが、後から説明を求められたときに致命的になります。住民から「連絡をもらっていない」と言われたときに、返信したかどうかを確かめる材料がありません。担当の記憶と、送信済みのメールを探すことになります。
公文書の管理については、法律が次のように定めています。
地方公共団体は、この法律の趣旨にのっとり、その保有する文書の適正な管理に関して必要な施策を策定し、及びこれを実施するよう努めなければならない。 出典: e-Gov
条文の適用や解釈は所管の窓口や専門家に確かめるものとして、実務としては、何をいつ処理したのかを跡付けられる状態にしておくことが求められている、と理解して差し支えありません。上書きで消えていく表計算ファイルは、この点で弱い。
表計算の台帳で起きる、その他の詰まり
行が増えると、並べ替えとフィルタで事故が起きる
件数が増えると、台帳の操作が複雑になります。年度の途中で並べ替え、特定の担当で絞り込み、状態で色を付ける。この操作の途中で事故が起きます。
代表的なのが、一部の列だけを選択して並べ替えてしまう事故です。氏名の列だけが並び替わり、他の列との対応が全部ずれます。気づかずに保存すれば、台帳全体が壊れます。気づいたときには、どこまで戻せばよいのかも分かりません。
フィルタを掛けたまま行を消す事故もあります。表示されていない行まで消えるわけではありませんが、貼り付けの操作は表示されている行だけに効くとは限りません。件数が500件を超えたあたりから、この種の事故の確率が上がります。
添付ファイルは、別のフォルダに置くことになる
表計算ファイルの中に、写真や書類を入れることはできません。正確には入れられますが、ファイルが重くなり、開くのに時間がかかるようになります。だから実際には、添付は別のフォルダに置かれます。
すると、台帳の行と、フォルダの中のファイルを、人が突き合わせることになります。ファイル名を受付番号に変えて対応させる運用がよく取られますが、名前を変える作業自体が手作業なので、抜けます。抜けた瞬間に、そのファイルは行方不明になります。
さらに、添付を保存するときに元のメールも残るので、同じファイルが二か所にあります。消すときも二回必要で、たいてい片方が残ります。台帳の移行を考えるとき、この添付の扱いを一緒に決めておかないと、片方だけが移って、もう片方が共有フォルダに残ります。
年度で別ファイルになり、比較できない
自治体の台帳は、年度で区切られます。年度が替われば新しいファイルを作り、前年度のファイルは保存の場所に移します。
この形だと、年度をまたいだ比較のたびに、複数のファイルを開いて手で揃えることになります。しかも、年度の途中で列が足されていれば、構成が一致しません。担当が替わっていれば、前年度のファイルの作りを解読するところから始まります。
比較ができないことは、集計の説明のときに効いてきます。議会や予算の場で前年度との比較を求められたときに、手作業で揃える時間が発生します。毎年その作業をしていることに慣れてしまうと、それが余計な作業だという認識も薄れます。
見られる範囲が、ファイルの単位でしか決められない
権限の設定は、フォルダかファイルの単位です。一つの台帳の中で、この行は見せてよい、この行は見せない、という分け方はできません。
自治体の窓口では、これが実際に問題になります。相談の中には、扱いを狭くしたいものがあります。福祉や健康に触れるもの、当事者間の争いに関わるもの。しかし台帳が一つのファイルなら、その台帳を見られる人には全部見えます。
分けるために別ファイルを作ると、今度は台帳が二つになり、集計のたびに合算することになります。どちらを選んでも面倒が残るのが、ファイル単位の権限の限界です。
移行を決める前に、いまの台帳を分解する
列を三つに分ける
移行の作業は、いまの台帳をそのまま持っていくところから始めると失敗します。横に伸びた列を全部再現しようとして、設計が複雑になり、途中で止まります。
先にやるのは、列を三つに分けることです。受け付けた内容そのもの、処理の状態、集計のための項目。この三つは性質が違います。
受け付けた内容は、住民が書いたものなので変わりません。処理の状態は、窓口が動かすものです。集計のための項目は、他の二つから導けることが多く、実は持たなくてよい列が含まれています。分けてみると、三つ目のグループの多くが不要だと分かります。
使われていない列を落とす
分解すると、何年も空欄のままの列が見つかります。作ったときには必要だと思われたが、実際には埋められていない列です。
判断は単純で、直近の一年で入力された割合を見ます。ほとんど空欄なら、落とします。落として困るなら、また足せばよい。移行のときに全部を持っていこうとすると、設計が重くなり、日々の入力も重くなります。
備考の列も見直します。備考には、あらゆる情報が入っています。処理の状態、電話の記録、判断の理由、次にやること。分けられるものは分けて、それぞれの列にします。分けておくと、後から検索も集計もできます。
手で入力している列と、自動で入る列
三つ目の確認が、入力の方法です。いまの台帳では、ほぼ全部の列を人が手で入力しています。受付日も、氏名も、内容も。
このうち、住民が書いたものは、入り口を送信フォームにすれば自動で入ります。受付日も自動です。担当と状態は窓口が動かしますが、選ぶだけにできます。手で打つ項目がどれだけ減るかを、移行の前に見積もっておくと、効果の予想がつきます。
手入力が減ることには、正確さの効果もあります。転記の過程で起きる誤りが消えます。氏名の漢字、電話番号の桁、住所の番地。転記の誤りは、返信が届かない原因になり、その調査にまた時間がかかります。
移行の順番
入り口を先に変えて、新規分だけを移す
移行でいちばん多い失敗が、過去分の移し替えから始めることです。何百件もの行を新しい形に入れ直す作業は、時間がかかるうえに、途中で年度末を迎えて止まります。
先にやるのは、入り口を変えることです。今日以降に届くものを、新しい場所で受ける。過去分はそのまま表計算ファイルに置いておきます。この形なら、初日から新しい運用が始まります。
新規分だけを移していれば、数か月で新しい場所に十分な件数が溜まります。そこで初めて、過去分をどうするかを判断すればよい。多くの場合、その頃には「移さなくてよい」という結論になります。
過去分は移さない、という判断
過去分を移さないと決めることに、抵抗を感じる人は多い。しかし、実際に過去の台帳を開く頻度を数えてみると、思っているより少ないことがほとんどです。
開くのは、同じ住民から再び連絡があったとき、集計で前年度と比較するとき、開示請求があったとき。この三つです。どれも、表計算ファイルが残っていれば対応できます。移さなくても困りません。
移すべきなのは、いま進行中の件だけです。処理が終わっていない件を新しい場所に入れ直す。これなら数十件で済みます。終わった件を移す理由は、実際にはほとんどありません。
並行の期間をどう区切るか
移行の期間中は、古い台帳と新しい場所の両方が動きます。この並行の期間が長引くと、どちらが正なのか分からなくなります。
区切り方は、日付で決めるのが確実です。ある日を境に、それ以降に届いたものは新しい場所、それ以前のものは古い台帳。件の種類で分けたり、担当で分けたりすると、判断が要る場面が出て混乱します。
そして、並行の期間中は古い台帳に新しい行を追加しないことを徹底します。ここが緩むと、いつまでも両方に書き続けることになり、二重の作業が定着します。二重の作業が定着すると、元に戻すほうが楽だという話になります。
庁内の承認と、情報政策の担当課
自治体では、新しい仕組みを入れるのに庁内の手続きが要ります。情報政策の担当課との調整、セキュリティに関する確認、契約の手続き。これらは表計算ファイルには要らなかったものです。
先に確かめておくべきなのは、どの範囲の情報を庁外の仕組みで扱ってよいかという、団体としての基準です。基準は団体ごとに違い、扱う情報の種類によっても変わります。判断は情報政策の担当課と、必要に応じて所管の窓口や専門家に確かめてください。
この確認を後回しにして設計を進めると、最後に差し戻されます。移行を決めた段階で、まず基準を確かめるのが順番として正しい。
移行のときに詰まる三つ
決裁と紙の様式が残る
受付を電子にしても、決裁が紙のままなら、途中で印刷が入ります。印刷した紙に押印して回し、その結果をまた台帳に反映する。ここで手作業が残ります。
これは窓口だけでは変えられない部分なので、無理に一度で解決しようとしないことです。受付と返信の部分だけを先に電子にして、決裁は現行のまま回す。それでも、受付と返信の往復にかかっていた時間は減ります。
大事なのは、決裁が紙であることを理由に、受付の電子化まで止めないことです。全部を一度に変えようとすると、動かせる部分まで動かなくなります。
集計の定義が変わってしまう
新しい場所に移すと、集計の定義が変わることがあります。表計算では一行が一件だったものが、新しい場所では一つの件に複数のやり取りが紐づく形になる。すると、件数の数え方が変わります。
これに気づかずに前年度と比較すると、実態と違う変化が出ます。移行の年度は、必ず両方の定義で数字を出して、差がどこから来ているかを確かめておきます。そして、定義が変わったことを記録に残します。
課ごとに台帳の形が違う
複数の課で移行を進めるとき、それぞれの台帳の形が違うことが壁になります。同じ「受付日」でも、届いた日を指す課と、審査を始めた日を指す課があります。
全部を統一しようとすると、調整に時間がかかりすぎて止まります。現実的なのは、共通で持つ項目を少数決めて、それ以外は課ごとに持たせる形です。共通の項目があれば、全体の集計は出せます。細かい差は、課の中で完結させます。
台帳が二つに割れている課がある
移行の前に確かめておきたいのが、いま台帳が本当に一つなのかです。課の中で、係ごとに別の台帳を持っている、担当ごとに手元の一覧を持っている、という状態はよくあります。
この状態のまま移行すると、片方だけが移り、もう片方が残ります。残ったほうに新しい行が追加され続け、二重の記録が固定されます。移行の前に、いくつの台帳が動いているのかを数えておきます。
数えると、想定より多いことがほとんどです。正式な台帳が一つ、係の一覧が二つ、担当の手元のメモが三つ。全部を一つにするかどうかは別として、存在を把握しないまま移行の設計を始めると、後から出てきた台帳の扱いで作業が止まります。
移行に反対が出たとき、何を話すか
「いまのやり方で困っていない」への向き合い方
移行の話を出すと、必ず出てくるのが「いまのやり方で困っていない」という反応です。これは抵抗しているのではなく、困りごとを表計算の問題として認識していないだけ、という場合がほとんどです。
だから、道具の話ではなく、起きていることの話をします。先月、台帳が開けずに待った回数は何回だったか。ファイルの枝分かれで、どれが正か分からなくなったことはあったか。住民から「連絡をもらっていない」と言われて、確かめられなかったことはあったか。
これらは全部、実際に起きています。起きていることを並べると、話は道具の好みではなく、業務の詰まりの話になります。移行の必要性は、そこからしか出てきません。
覚え直しの負担を軽く見ない
もう一つの反対が、覚え直しの負担です。これは正当な懸念で、軽く扱うと後で効いてきます。とくに、年度の途中で担当が替わる可能性がある課では、二重の学習になります。
軽くする方法は二つあります。一つは、移行の時期を業務の谷に合わせることです。締切の直前や年度替わりに始めると、覚える余裕がありません。もう一つは、最初は使う機能を絞ることです。受け付けて、担当を決めて、返す。この三つだけで始めれば、覚えることは少ない。集計や分類は、慣れてから足します。
誰が新しい形の面倒を見るのか
表計算の台帳には、実は管理する人がいました。列を足し、数式を直し、年度替わりに新しいファイルを作る人です。その役割は、移行した後も無くなりません。
移行の話をするとき、この役割を誰が持つのかを決めておきます。決めていないと、細かい調整が要るたびに誰も動かず、使いにくいまま定着します。そして、その人が異動したときにどうするかも、あわせて決めておきます。特定の一人しか触れない状態は、表計算のときと同じ問題を新しい場所に持ち込むことになります。
移行を機に、受け付ける項目そのものを見直す
台帳の列と、様式の欄をそろえる
移行の作業をしていると、台帳の列と、住民に記入させている様式の欄がずれていることに気づきます。様式には欄があるのに台帳には列が無い項目、逆に台帳には列があるのに様式では聞いていない項目。
後者は、窓口が電話で聞き取って埋めている項目です。毎回聞いているなら、最初から様式の欄にしたほうが早い。前者は、聞いているのに使っていない項目です。使っていないなら、聞くのをやめられます。
この突き合わせは、移行のときにしかやりません。普段は台帳と様式を並べて見る機会が無いからです。移行は、受け付ける項目そのものを見直す数少ない機会になります。
欄を増やすときは、離脱と引き換えになる
見直しの結果、欄を増やしたくなることがあります。しかし、欄が増えるほど、送信の途中でやめる人が増えます。とくに相談の受付では、この影響が大きい。
判断の基準は、その欄が無いと返信ができないかどうかです。返信ができるなら、任意にします。任意でも、必要な人は書きます。書かれなかったものは、返信のときに聞けば済みます。
自治体の様式は、必要かどうかを問い直す機会が少ないまま長く使われていることがあります。移行のときに一度、欄ごとに理由を書き出しておくと、次に見直すときにも使えます。
移行の前に、いまの台帳を安全に残す
移行の直前に、複製を取っておく
移行の作業では、どこかで必ず手が滑ります。行を消す、列を並べ替える、上書きで保存する。そのとき、元の台帳が残っていれば戻せます。
作業を始める前に、日付を付けた複製を作って、書き換えない場所に置いておきます。これは移行が終わるまで触りません。作業用の複製は別に作り、そちらで試します。この二段構えにしておくと、失敗しても一日ぶんの作業しか失いません。
複製を作る前に、いまの台帳が最新かどうかも確かめます。共有フォルダに似た名前のファイルが並んでいるなら、どれが正なのかを先に決めます。この判断を保留したまま移行を始めると、間違ったファイルを基準にして進めることになります。
移行が終わったあと、古い台帳をどうするか
移行が済んだあとの古い台帳は、消すのか、残すのかを決めます。残す場合は、書き換えられない場所に移して、参照だけできる状態にします。書き換えられる場所に置いたままだと、誰かが古い台帳に新しい行を追加します。
残す期間は、文書としての保存年限に合わせます。年限を過ぎているのに残っている台帳は、消す対象です。個人情報を含む台帳が、役目を終えたまま共有フォルダに残り続ける状態は、移行の作業でいちばん見落とされます。
表計算の技を持っている人が、抜ける前に
多くの課には、台帳の数式や集計の作り込みを担ってきた人がいます。その人が異動すると、誰も数式の意味が分からなくなり、壊れたときに直せません。
移行を考える理由の一つが、実はここにあります。特定の一人の技に依存した台帳は、その人が抜けた時点で運用が止まります。移行するかどうかにかかわらず、いまの台帳の作りを誰かもう一人が理解している状態にしておくことは、必要な備えです。移行の作業は、その中身を洗い出すきっかけにもなります。
移行先を比べるときの軸
比べる軸は、作りやすさではなく、届いたあとに自分たちで回せるかです。
第一の軸は、同時に複数人が触れるかどうかです。これが今回の出発点なので、外せません。誰かが開いていても他の人が別の件を処理できること、同じ件を二人が同時に触ったときに更新が消えないこと。この二つが満たされていれば、最初の問題は解決します。
第二の軸は、添付が件と一緒に並ぶかどうかです。別のフォルダを開かずに済むかどうかで、日々の作業量が変わります。第三の軸は、見られる範囲を件の単位で決められるかどうかです。ファイル単位でしか決められない限界が、そのまま残っていないかを確かめます。
無料で広く使われているフォームの道具は、送信された内容を表に集めるところまでを担います。その表がそのまま台帳になるのかどうかは、Googleフォームとの比較に、回答が表に溜まったあとで何が起きるかという観点から整理されています。庁内で広く使われている事務用の道具の系列にもフォームの機能があり、その扱いの違いはMicrosoft Formsとの比較で確かめられます。すでにサイトにフォームを置いている団体であれば、Contact Form 7との比較のほうが近く、送信の通知だけが飛ぶ状態と、送信後の管理まで持つ状態の違いがまとめられています。
実際の画面は動くところを見るで触れられます。送信されたあとの道具がそろっているかどうかは、作る画面を見ても分かりません。台帳の代わりになるかどうかを確かめたいなら、届いたあとの一覧の画面を長く見ます。費用の考え方は料金にまとまっており、庁内の手続きを始める前に見ておくと、要求の組み立てがしやすくなります。
会議室や体育館のように、同じ様式を年間を通して受け続ける台帳は、移行の効果が出やすい部類です。その回し方は施設利用の申請に、繰り返し申し込む団体をどう記録に残すかという観点から整理されています。
移行のあとに、表計算が戻ってくる場面
移行が済んでも、表計算が完全に消えるわけではありません。集計の結果を加工する、議会向けの資料を作る、他の課に渡す一覧を作る。こうした場面では、表計算に書き出して使うほうが早い。
問題になるのは、書き出したファイルがそのまま第二の台帳になってしまうことです。書き出した一覧に手で追記を始めると、元の記録と食い違います。食い違ったまま両方が使われると、移行の前と同じ状態に戻ります。
決めておくのは、書き出したファイルは使い捨てにする、という一点です。加工して使ったら消す。追記はしない。この線を守れるかどうかで、移行が定着するかどうかが決まります。表計算を敵にする必要はなく、台帳としては使わないという区別だけを持てば足ります。
移行したあと、何を見て良し悪しを判断するか
移行の効果は、感覚では測れません。新しいものに慣れる時期は、むしろ遅くなったように感じます。数字で見ます。
一つ目は、台帳を開けずに待った回数です。移行の前に一週間ほど数えておくと、比較ができます。ゼロになっていれば、最初の問題は解決しています。
二つ目は、手で入力している項目の数です。移行の前後で、一件あたり何項目を手で打っているかを数えます。減っていれば、作業量は確実に下がっています。
三つ目は、返していない件が残った日数です。台帳が信用できる状態になれば、残っている件が一覧で見えるようになり、この日数は下がります。下がっていないなら、移行はしたが運用が変わっていないということです。
移行の目的は、新しい道具を使うことではありません。同時に開けないこと、更新が飛ぶこと、誰が何を変えたか残らないこと。この三つが解消されているかどうかだけを見ます。解消されていれば、他の細かい使い勝手は後から調整できます。
あわせて確かめておきたいのが、共有フォルダの側です。移行が済んだあとも、添付を置いていたフォルダや、集計のために作った表計算のファイルはそのまま残ります。新しい場所で回り始めたことに満足して、古い置き場を片づけないままにすると、個人情報を含むファイルが二重に残ることになります。移行の完了は、新しい場所が動き出した時点ではなく、古い置き場の扱いを決めた時点です。残すものは保存年限に従って残し、役目を終えたものは消す。ここまでを一連の作業として組んでおくと、移行が中途半端に終わりません。
Q1. 表計算の台帳で、最初に困るのはどこですか?
同時に開けないことです。誰かが開いている間、次の人は読み取り専用でしか開けず、窓口では相手を待たせられないため、別名で保存するか後で転記するかになります。転記を忘れればその一件は台帳に載らず、別名で保存すれば統合のときに更新が失われます。結果としてファイルが枝分かれし、どれが正しいのか誰も断言できなくなります。
Q2. 過去分のデータは、全部移す必要がありますか?
ほとんどの場合、移す必要はありません。過去の台帳を開くのは、同じ住民から再び連絡があったとき、前年度と比較するとき、開示請求があったときの三つで、どれも表計算ファイルが残っていれば対応できます。移すべきなのは、まだ処理が終わっていない進行中の件だけです。これなら数十件で済み、移行が途中で止まりません。
Q3. 移行はどこから手を付ければ止まりませんか?
入り口を先に変えて、その日以降に届くものだけを新しい場所で受ける形です。過去分の移し替えから始めると時間がかかり、年度末を迎えて止まります。新規分だけを移していれば数か月で十分な件数が溜まるので、過去分をどうするかはその時点で判断すれば足ります。並行の期間は日付で区切り、古い台帳に新しい行を追加しないことを徹底します。
Q4. 添付ファイルの扱いは、どう決めればよいですか?
台帳の移行と一緒に決めます。表計算では添付を別のフォルダに置くしかなく、行とファイルを人が突き合わせることになるため、名前の付け替えが抜けた時点で行方不明になります。添付が件と一緒に並ぶ形にしておくと、この突き合わせが要らなくなります。片方だけを移すと、もう片方が共有フォルダに残り続けます。
Q5. 庁内の手続きは、いつ確かめればよいですか?
移行を決めた最初の段階です。どの範囲の情報を庁外の仕組みで扱ってよいかという団体としての基準は、団体ごとに違い、扱う情報の種類によっても変わります。情報政策の担当課に先に確かめないまま設計を進めると、最後に差し戻されて時間を失います。判断に迷う部分は所管の窓口や専門家に確かめてください。
